奇奇怪怪

□05
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昇降口の前の廊下に存在する1つの大きな柱時計。

7人で入って来た時は1時17分だったそれが、今は5時42分を指している。


言葉を失くす幼馴染3人の前で慎司は懐から出した懐中時計を確認する。



慎司「ちなみに、今の正確な時間は12時29分」


和則「道理で腹が減るわけだ」


くるみ「誰かが悪戯で弄ったとかじゃ・・・」


慎司「もし、朱里達が僕達と同じようにこの学校の中にいたとして、僕達を怖がらせるためにコレをしたのなら・・・あまりにも地味過ぎるね。

大体、壊れてる時計の時間なんて誰も気にしない。僕だって写真を撮ってなかったら気付いてなかったよ」


くるみ「そっか・・・そうだよね」


健矢「・・・慎司、今の時間も写真に撮っといてくれ」


慎司「うん、その方が良さそうだね」



懐中時計をしまい、ポラロイドカメラを構えて柱時計をパシャリ。

出て来た写真をパタパタと仰げば、十数秒で今撮ったものが浮き上がってくる。


ちゃんと撮れたことを確認して慎司が頷く。



慎司「よし、決めた」


3人「「「?」」」


慎司「僕がここで撮った写真、全部そこの下駄箱の中に置いておくよ。いつでも・・・誰でも確認出来るようにね。それに、もしかしたら・・・・」


和則「もしかしたら?」


慎司「未来と泰雅が捜しに来てくれるかもしれないし」


和則「あぁ、そっか。あいつ等がいたか」


くるみ「・・・確かに未来ならこの時計の謎を解き明かしてくれそうだね」


健矢「ハハッ、あいつ謎解き好きだもんな。

けど、時計はここの1つだけとも限らない。時刻はメモしといた方がいいかもな」


和則「うーい」
くるみ・慎司「「うん」」



鞄の中から筆記用具を取り出し、手や腕、メモ帳といったところに各々時刻を書き込んでいく。

その作業が終了したのを確認して、健矢が3人に告げる。



健矢「それじゃ上に行くか」



暗闇に続く階段。4人はその階段を1段1段慎重に上って行く。


慎重に、慎重に。

1段、2段、3段・・・

慎重に上って、踊り場に辿り着いた時だった。上に広がる光景を見て、4人それぞれが顔を歪めた。



和則「上ってくんなってか?」


慎司「もしくは下りてくんな?」


くるみ「誰がこんなことを・・・」


健矢「もう俺挫けそう・・・」



これ以上先には進めない。

2階に続く階段にはたくさんの机や椅子が乱雑に積み上げられていたのだ。


まるで、バリケードのように―――・・・



慎司「1つでも抜けば崩れ落ちてきそうだね」



と言いながらポラロイドカメラで写真を撮る。



和則「他に階段あったっけ?」


くるみ「確か・・・家庭科室の方にあったと思うよ」


健矢「またあっちに戻るのか・・・(ガクッ」


慎司「行ったり来たり・・・これは骨が折れる」


和則「瑠璃ー、悠香ー、紗那ー!そっちにいるかー?」



バリケードの向こうへ呼びかけてみるが、返事は返ってこない。

小さくため息を吐き、和則は回れ右をする。



和則「行こう」


健矢「うーい」



肩を落としつつ、4人は再び慎重に階段を下りる。

1段、2段、3段・・・



慎司「(上りも下りも12段か・・・)」















健矢「お、こっちの階段は塞がれてないっぽい」



家庭科室の近く。

廊下の突き当りにある階段の踊り場まで4人はやって来ていた。


健矢の言う通り、2階へ続く階段に先程のようなバリケードはない。

また慎重に彼等は階段を上っていく。1段、2段、3段・・・



慎司「(踊り場までが12段、踊り場からも12段・・・。特に変わったところはない、か)」


和則「上も暗いな・・・」


健矢「懐中電灯ON!」



カチッ、とスイッチを押し上げる。

だがやはり、



くるみ「点かないね・・・(苦笑」


慎司「僕のもダメみたい」


和則「ここも明かりなしで進むしかなさそうだな。・・・で、真っ直ぐか右か、どっちから攻める?」


健矢「その前に1ついいか?」


くるみ「どうしたの?」



挙手をした健矢は宣誓でもするかのように堂々とこう宣言した。



健矢「俺、竹森健矢は、今・・・













物凄くトイレに行きたいです」












・・・・・・。











くるみ「何で今このタイミングなの」


健矢「生理現象!怒らないで下さい!」


慎司「逝ってらっしゃい、健矢。花子さんによろしく」


健矢「やーめーろーやー!精神的に色々きてる状態に追い打ちかけんな」


くるみ「精神的に色々きてる状態にトイレなんて言うな」


健矢「だから生理現象!しょうがないんだって、こればっかりは!」


和則「健矢なら限界を超えられる!(笑」


健矢「カズ、頼む。今その悪ノリは止めてくれ、マジで」


くるみ「もー、階段上る前のところにトイレあったでしょ?何でその時に言わないの」


慎司「フフッ。くるみ、お母さんみたいだね」


健矢「だってだってぇ、我慢出来ると思ったんだもん」


和則「自分の悪ノリは許せて人の悪ノリは許せない人間の言うことなぞ聞かーん!」


健矢「ごめんなさい、許して下さい。カズ様、仏様」


和則「どうする?下りるか?」


慎司「んー・・・でも学校のトイレってさ、大体上も下も同じ場所にない?」


和則「あー、じゃあ近くにあるかもだな」


健矢「出来れば一緒に来てほしいです!」


和則「だって、慎司」
慎司「だってさ、カズ」


和則・慎司「「・・・・・・」」



顔を見合わせる2人の間に静かな火花が飛び散る。

その後の彼等の行動は早かった。



和則・慎司「「ジャンケンポンッ!!」」



和則 パー

慎司 グー



和則「HAHAHA!」


慎司「わぁ、さすがだね。

相変わらずジャンケンだけは強いから、いつも負ける僕はイヤになっちゃうよ」


和則「ジャンケンだけじゃない。俺はウノも強い!」


くるみ「この前、瑠璃と未来とやってスキップで飛ばされ続けた挙句、ドロー4を何度も返されて手元に28枚残して負けたのは誰だったっけ」


和則「言うなっ・・・!

あいつ等酷いんだ・・・!大富豪にしても、7並べにしても、しりとりにしてもそう!俺を苛めて楽しんでるんだ・・・・!」


健矢「ナイス、弄られ(笑」


慎司「ほら健矢、さっさとトイレ行くよー。今行かないと僕ついて行かないよー」


健矢「Yes,Sir!」


くるみ「じゃあうち等ここで待ってるね」



くるみと和則の2人と廊下で別れ、健矢と慎司は近くのトイレへ向かう。


男子トイレの中はやはり暗く、じめっとした空気が充満しているように感じた。


蛍光灯と手洗い場の鏡は割れ、砕けた破片が床に散乱している。

換気扇も壊れているのか、そもそも電気が通っていないのかスイッチを押しても回らなかった。



健矢「そーいや水出るんだっけ?」


慎司「うわー、酷いね、ここ。足元気を付けないと」


健矢「聞いてます?」


慎司「1回流せるかやってみたら?」


健矢「聞いてるなら聞いてるって言ってくれよ・・・」



肩を落としつつ、健矢は個室のトイレの水を流してみる。

音を立てて勢いよく流れる水。問題はなさそうだ。



健矢「大丈夫っぽい」


慎司「んー」



個室に入って健矢は鍵を閉める。


慎司は慎司でトイレの窓を調べていた。

家庭科室と同じで鍵は錆びていて動かせそうになかった。試しに懐中電灯で叩いても同じ。割れることはない。



慎司「(見た感じ普通のガラスなのになー・・・。何か不思議な力が働いてる?そんな非科学的なことあり得るかな?)」



懐中電灯のスイッチを上げ下げして弄りながらそんなことを考える。

何度そうやってON、OFFを繰り返しても明かりは点かない。上げ下げするカチッ、カチッという音が響くだけ。



慎司「(とりあえずここも撮っておこう)」



ポラロイドカメラを構え、窓をパシャリ。

出て来たフィルムをパタパタと仰いで現像する。



慎司「(にしても・・・ここ、何でこんなに荒れてるんだろう)」



最初に見て回った教室や家庭科室は綺麗、とは言い難いが整頓されていた。

しかしここは違う。


割れた蛍光灯に、割れた鏡。

暗くてよく見えないが床や個室の扉もだいぶ汚れているのか、黒い染みのようなものがいくつか存在する。


その扉の染みに慎司はそっと手を伸ばそうとしたが、健矢が入った個室からの水の流れる音を聞いて止めた。

鍵が開けられ、個室の扉が開く。



慎司「大じゃなかったんだ」


健矢「俺、毎朝快便だから(笑

それより、何かガタガタ音してたけど何かやってたのか?」


慎司「うん、窓を調べてたんだ。開きもしないし、割れもしなかったけどね」


健矢「ここもか」



小さくため息を吐き、健矢は手洗い場へ向かう。

慎司は未だ扉や床の染みが気になるのかじっ、とそれらを凝視していた。



慎司「何でここだけこんなに荒れてるんだろうね」


健矢「んー?あぁー・・・そうだな。経年劣化とか?」


慎司「トイレだけ?」


健矢「それはおかしいか」


慎司「おかしいよ」


健矢「まぁこの学校自体おかしいことが多いからな」



と言いながら蛇口を捻り、水を出す。

そのまま手を洗う健矢の後ろで慎司はまだ納得がいかないのかトイレ全体を見回していた。

個室1つ1つを確認し、掃除用具入れまで確認していく始末だ。



慎司「バケツはある・・・のにデッキブラシとかモップがない」


健矢「探求心くすぐられてんじゃん。

おい、カズとくるみ待たせてるんだからそのへんに―――」



言いかけた時だった。

濃い鉄の臭いが鼻をついた。


それは、今自分が手を洗っている水から・・・


彼は恐る恐る自身の手に視線を向ける。そして、目を見開いた。



健矢「!」



水の色が変わっていた。

無色透明のものから赤黒いドロッとした液体に―――



慎司「健矢?」



彼も鉄の臭いに気付いたのかもしれない。

手洗い場にいる幼馴染を見て名を呼ぶ。


だけど健矢はそれに応えない。応えられない。



健矢「っ・・・」



自身の両手を染め上げる液体。

“ソレ”が、思い出させる。



健矢「ハッ・・・ハァッ・・・・!」



心臓の鼓動が増す、息が荒く激しくなる。

引っ込めた両手に沁みついた臭いに吐き気がする。


力なく膝から崩れ落ちる彼に驚き、慎司が駆けつける。



慎司「ちょっ、大丈夫?コレ・・・血?」


健矢「ハッ・・・ハッ・・・・・っ〜〜〜!」



震える両手を緩く合わせ、眉間に押し付ける。



健矢「ごめん・・・


慎司「え・・・?どうしたの、急に?」


健矢「ごめん・・・俺、俺・・・・忘れてた・・・」


慎司「(忘れて・・・?)」


慎司「何?どういうこと?」


健矢「他のことは・・・憶えてたのになぁ・・・・。ダメだなぁ・・・ホント、俺」



独り言のように呟かれる言葉。



健矢「今度は、上手くいくと思ってたのに・・・紗那達がいなくなるなんて・・・・。ごめんな・・・慎司」


慎司「だから何のこと?上手くいくって何が?君は何を言って―――」


健矢「この・・・トイレが荒れてるのはっ・・・・俺が、あの時逃げ込んだから・・・」


慎司「(逃げ込んだ・・・?)」



そこで健矢は顔を上げた。

泣き笑いにも似たその顔で、彼、健矢は・・・衝撃的な言葉を口にする。



健矢「俺・・・


















―――ここで死んだんだ」

















To be continued...
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