合わせ鏡
□◆鐘の鳴る町
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ノア「んー・・・ダメだ。下手過ぎる」
2丁の銃を両手に持った僕は、そのまま後ろに倒れ込んだ。
硬い地面じゃなくて、緑の草地だからそんなに痛みはない。
今現在僕は絶賛、銃の特訓中。
数メートル先の木に吊るした(風に揺れる)空き缶だとかを狙って撃ったんだけど・・・これが1発も当たらない。
双剣使えるから銃も2丁使えるだろー、って考えがまず甘くてバカだったのかもしれない。
これ、肩への衝撃半端ないわ。
ノア「ハハッ、実戦じゃ到底お話にならないレベルだよ」
風に揺れるだけの的でこれなんだ。
予測不能な動きをする魔物に当てられるわけがない。
イリアとかリカルドとか凄いなぁ・・・。
いや、狙い撃ちをするって点では弓使いのナナリー達も凄いか。
ノア「(まぁ人には向き不向きがあるからね)」
銃は僕向きじゃなかったってことで、護身用程度、脅し?の道具程度に持ってるだけでいいや。
2丁の銃をしまって起き上る。
服についた汚れを払って僕が向かうのは今の滞在先。
ガルバンゾ国南西部に位置する商業の町にして流通拠点、ナフィド。
飲食店や服飾店、武具屋に宝石店、道具屋、パン屋、魚や野菜、果物の市場、酒屋にカジノに宿屋がたーくさんある町だ。
路銀を貯めてる僕にとっては色んな働き口があるおいしい場所ってわけ。
ノア「さて、今日もお仕事頑張りますか」
午前中は時計屋で雑用をしつつ時計の直し方を教えてもらって、昼は飲食店の出前サービスのお手伝い。
そして午後はハウスクリーニングのお手伝い・・・だったんだけど、
ノア「え・・・鐘の掃除?」
雇い主の許に行くが否やそう言われちゃった。
「昨日、掃除夫のじいさんが腰を痛めちまってな。代わりがいないんだ」
ノア「だからって・・・何で僕に、」
「オメー、煙突掃除もやったことがあるんだろ?鐘の掃除も大して変わらねぇさ」
ノア「いや、大いに変わるでしょう」
「分かんねぇことはじいさんの相棒の若いのに聞きな。話は通してある」
ノア「僕が鐘掃除なのは決定事項なんですね・・・」
道具を持たされて「行ってらっしゃーい」と半ば強制的に出向させられた。
いくら僕が何でも屋だからってこの仕打ちはどうかと思う・・・。
アマルシアの鐘。
それが今から僕が掃除をする鐘の名前で。このナフィドの町のシンボルだ。
正午と午前、午後6時の計3回、鐘楼守によって鳴らされる鐘の音はこの町で働く人達の時計代わり。
たまに悪戯好きの子供達が鳴らしたりしてるけど、鐘楼守の人が鳴らす音と全く違うからすぐ分かる。(僕もこの町に来てすぐ聞き比べることが出来た)
その鐘楼守のおじさんに挨拶をして、掃除夫の相棒さん?がいる鐘の許へ向かう。
ノア「初めまして。ミンツァーさんの紹介で来ました、ミズチです」
って自己紹介をすれば、雑巾を絞ってた人が顔を上げる。
若いとは聞いてたけど、僕とそう歳が変わらないんじゃないかな?バンダナを巻いた人懐っこそうな男子だった(多分、年上)。
「おー、知ってる知ってる。何でも屋をやってる兄ちゃんだ。ミンツァーの旦那からも聞いてるぜ。こき使ってくれって」
ノア「うげ・・・」
「俺はキジム。よろしくな」
そのキジムさんに教わりながら鐘楼掃除をしていく。
来る前は相棒さんがいるなら僕いらないんじゃない?とか思ってたけど、想像してた以上に鐘は大きくて、なるほど、これは2人でやらなきゃ時間かかるなって納得したよ。
だって、外側の掃除だけで1時間はかかったんだから。(僕の飲み込みの悪さが原因かもしれないけど・・・)
キジム「内側はもっと大変だぞー」
ノア「そうなんですか?」
キジム「おー。なんせ細けぇ凸凹がいっぱいだからな」
ノア「?」
キジム「見てみろよ。驚くぜ?」
って言われて内側を見てみる。
若干暗くて目を凝らしてたら、キジムさんがランプをくれた。その明かりで中を照らせば・・・
ノア「うわ・・・」
上の方にビッシリと文字?みたいなのが彫られてた。
これは・・・
ノア「古代文字・・・?」
ノア「(全く読めない・・・)」
キジム「正確には古代神官語らしい。じーさんの話じゃ、この鐘には精霊が宿ってるとかどーとか」
ノア「精霊が?」
キジム「本当かどうかは分からねぇけどな。じーさんは子供の頃、確かに見たらしい」
ノア「へぇ・・・」
じゃあこの鐘は精霊の依代かぁ・・・。
もし、本当に精霊が宿るソレだったとしても、もうここに精霊はいないだろうなぁ・・・。
人間が星晶(ホスチア)を取り尽くした影響で。
ノア「ここには何て書いてあるんです?」
キジム「あー・・・なんか昔、研究者がどこぞの神官連れて解読に来たみてぇだけど、結局全部解読出来なかったらしいぜ。
使われてる文字が神官語だけじゃねぇとかで」
ノア「じゃあ、その文字が読める他の学者先生とかに頼めばいいんじゃ・・・」
「失われた文字なのさ」
ノア「え?」
鐘の外側から聞こえてきた声。
顔を出せば、鐘楼守のおじさんがお茶を持ってこっちに来てた。
鐘楼守「疲れたろう?そろそろ休憩でもどうだ?」
キジム「どもっス」
ノア「あの・・・失われた文字っていうのは?」
キジム「何だ、お前も俺と同じ学なしか」
ノア「まぁ・・・そうですね」
だって異世界人だし。
この世界の知識はマイソロ3で得た知識と、雇ってもらって得た知識しかないし。
僕は曖昧に笑って鐘楼守のおじさんに先を促す。
鐘楼守「失われた文字っていうのは、今から2000年前、消失の時代とか空白の時代と呼ばれる時期に使われていた文字のことだよ」
ノア「消失・・・?何も分からないってことですか?」
鐘楼守「ああ。後の時代の人間に何も語り継がれなかった歴史。文献も何も残っていないんだ。
固い緘口令が出されたとか、後の時代の人間が暗黒期としてその時代のものを全て捨てた、葬ったとも考えられているようだが・・・難しいことは俺にもよく分からん」
ノア「・・・、」
クラトスやミトスなら何か知ってるんじゃないかな・・・?
失われた文字?だって読めそう。
ノア「この鐘・・・そんなに古いものなんですね」
バレないように内側に文字を彫って。
これまたバレないように古代神官語の中に失われた文字を紛れ込ませた。そうまでして伝えたかった言葉、か・・・。
う〜ん・・・気になる。
ノア「(クラトスを名指ししてアドリビトムに調査依頼を出す?でもそれでどうでもいいことだったらお金の無駄遣いだしなぁ・・・)」
何より名指ししたことで怪しまれそう。主にクラトスに。
でもなぁ・・・何か引っかかるんだよなぁ。
解読出来た古代神官語の部分は何て記されてたのか聞いたら、ただの聖書の一節だったんだって。
だとしたら、そこに失われた文字を紛れさせる意味がますますないよね。
ノア「(調べてみるか・・・)」
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