合わせ鏡

□◇不思議な依頼
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ルイっていう私は一体どこの誰なんだろう。


ルイっていう私は一体どう生きてきたんだろう。


ルイっていう私の家族はどこにいるんだろう。


ルイっていう私はどうやって、そして何のためにルバーブ連山に行ったんだろう。





ルイっていう私は・・・











―――どうして記憶喪失になっちゃったんだろう。










甲板での僧侶の特訓。その休憩中に私はふとそんなことを考えてた。



ルイ「(記憶を失う前の私は・・・どんな人だったんだろう)」



格闘が得意だったってことは分かるけど、それ以外は何も分からない。

前に、私には弟がいたんじゃないかな、って思えて、顔も名前も分からないその弟について考えてみたけど思い出せるものは何もない。


一体・・・記憶を失う前の私に何があったんだろう。



ルイ「私は本当に・・・〈ルイ〉として生きていいのかな」



そう呟けば、何でか分からないけど無性に切なくて、悲しくなった。


だって私は、顔も名前も分からない弟君に言わせればきっと〈ルイ〉じゃない。


今感じてるこの感情だって、本当に〈私〉のかどうか分からない。

私の中に残ってる正真正銘、本物の〈ルイ〉っていう人の人格の残骸?みたいなものが感じてる感情かもしれない。



ルイ「情けないな・・・」



今は、戦争や生物変化の影響、妙な赤い煙で世界が混乱してる大変な時期だっていうのに・・・自分のことばかりで本当に情けない。

暗い気持ちを振り払うように私は思いっきり自分の頬を両手で叩いた。


自分のことで悩むのは後。

今は私に出来ることを、今やらなきゃいけないことをしよう。






休憩を止めて僧侶の特訓に戻る。

早くモンクになって自分の傷も、皆の傷も治せるようにならなきゃ。



そうやって意気込んでたら急に―――



ルイ「!今の・・・銃声?」



船内から何発もの銃声が聞こえてきたんだ。

どうして船内で?


誰が?っていうのは考えなくても分かる。だって、銃を使う人なんてアドリビトムの中であの子しかいないもん。



ルイ「ちょっとイリア、どうし(?「クィッ、クィッキー!」Σキャッ!?」



船内に入って銃を持ったイリアの姿を見付けたら、突然クィッキーが体当たりをするように私に飛びついてきた。

え、ちょっと待って。どうして涙目なの、この子?どうしてこんなに怯えてるの?


そして目の前にいるイリアとコハクはどうしてそんなに目が据わってるの?



色んな疑問が同時に頭に浮かんで、どれを口にしようか迷ってたらイリアが言ってくる。



イリア「あー、ルイ!ちょうどいいところに!ちょっとそいつ、捕まえてて!」


ルイ「え?何?クィッキーが何かしたの?」


クィッキー「クィック、クィ〜!」



ブルブル頭を振るクィッキー。

何もしてないなら・・・どうして?



コハク「クィッキー、大丈夫。何も怖くないからこっちに来ようね」


クィッキー「クィ〜・・・(ガタブル」


イリア「そぉよぉ。ちゃぁんと美味しくいただいてあげるから


ルイ「(Σいただ・・・っ!?)」


ルイ「ちょっ、ちょっと待って!どういうこと?まさかとは思うけど・・・クィッキーを食べようとしてるわけじゃ、」


イリア「そうよ。当たり前でしょ」


コハク「味噌和えにしたら凄く美味しいんだって・・・」



そんな恍惚とした顔で言わないでよ、コハク!

本当、味噌が絡むとこの子は常識人じゃなくなるね・・・。


って、そんなこと考えてる場合じゃなくて!今は2人を止めないと。



ルイ「ダメだよ。何考えてるの?クィッキーはメルディの大切な友達で、私達の仲間でしょ?」


イリア「そんなこと言ってあんた・・・その肉、独り占めしようとしてるんじゃないの?」


ルイ「何でそうなるの!?」


コハク「ルイ・・・食べ物の恨みは怖いんだよ?」



コハクは何でバトン出してるの!?

ウソ、2人して臨戦態勢?


私、何も間違ってないよね?正しいよね?

何とか2人を説得出来ればよかったんだけど、やる気満々の2人には何を言っても通用しない。

こうなったら・・・



ルイ「逃げよう、クィッキー!2人の手の届かないどこかに!」


クィッキー「クィッ!クィッキー!」



クィッキーを抱きかかえて私は走り出す。

後ろから2人の声だとか、発砲音だとかが聞こえてきたけど振り返らなかった。


今は一刻も早くメルディを探さなきゃ!










――――――
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――――――――――――――











ルイ「いないっ・・・!」



部屋に行ってもいたのは論文を書こうとしてたキールだけ。

クエストには出てないはずだから(だって出てたらクィッキーを連れて行くはずだから)、船にいると思うんだけど・・・。



ルイ「買い出しかな?」


クィッキー「クィ〜?」



クィッキーにも分からないんだ・・・。

とりあえず、ホールに行ってみよう。もし買い出しに行ってるならアンジュさんに話が通ってるはずだからね。


私はクィッキーを抱えながらホールに向かって歩き出す。そしたら、その途中で見知らぬ男女2人と出逢ったんだ。

紫の服を着たおじさん?と少し露出の激しい服を着た若い女の人。・・・ん?あれ?でもおかしいな。あの女の人の耳、長くて尖がってる。


じっとその2人を見つめてたら男の人と目が合った。じろじろ見てたっていう後ろめたさで私はすぐに目を逸らしちゃったけど、目の前にいる2人は何も気にしてないみたい。

男の人が気さくに話しかけてくる。



「おっ、そこのお嬢さん!アドリビトムってギルドは、ここで良かったのかな?」


ルイ「え・・・えーっと?」



依頼人の人・・・かな?

そんな風に見てたからだろうね。男の人が嘆くように言う。



「あらー。おっさん、そんなに怪しい?おっさんの魅力に胸がどきどき?」


「あら、この人があなたの魅力を分かってくれる人だったらいいのだけれど」


「ジュディスちゃん・・・」



ジュディス・・・さん?に窘められて男の人が肩を落とす。



ジュディス「私達、ここで働きたいの。リーダーはどちら?」


ルイ「あ、はい。ご案内します」



私は2人をホールに案内する。

それでそのままいつもの場所(クエストカウンタ)でいつもの仕事(依頼の割り振り)をしてるアンジュさんに声をかけた。



ルイ「アンジュさん、こちらの方達が・・・」


アンジュ「?」


ジュディス「あなたがここのリーダーさん?」


アンジュ「はい、私がこのギルド、アドリビトムのリーダー、アンジュです。何か御用でしょうか?」


ジュディス「私はジュディス。そして彼が・・・」


「俺はレイヴン。ここにユーリのあんちゃんいるっしょ?」


ルイ「(どうしてそのことを・・・。まさか、)」


ルイ「追っ手・・・!?」


レイヴン「違う違う。俺達、あいつが元いたギルドの仲間なのよ」


ジュディス「エステルの依頼を受けた後で、彼、指名手配になったでしょう?」


レイヴン「そーそー、そのせいで俺達のギルドまでガサ入れが入っちゃって、エステル嬢ちゃん誘拐の手引きをしたと疑いをかけられてるのよ。

ま、手引きをしたのはウソじゃないんだけどね。そんで、ガルバンゾをしばらく出た方がいいんじゃないかねって」


ルイ「なるほど、それで・・・」


ジュディス「ユーリがここで仕事をしてるって噂を聞いたから来てみたの。どうかしら?ここで働かせてもらえない?」


アンジュ「そういうことならオッケーよ。それじゃあ、加入の手続きをするね」


レイヴン「ふい〜。やっと、逃亡生活とおさらばなのね」


ルイ「お疲れ様です。後、これからよろしくお願いします。私は・・・」



名乗ろうとして言葉を詰まらせた。

ルイって名乗っていいか分からなくなったんだ。だって私は〈本当のルイ〉じゃない。


〈ルイ〉っていうのは、記憶を失う前の私で、〈今の私〉じゃないんじゃないかな・・・。



黙った私を見て、レイヴンさんが心配そうな顔で覗き込んでくる。



レイヴン「お嬢さん?どしたの?」


ジュディス「あなた、顔が真っ青よ?」


アンジュ「具合でも悪いの?」


ルイ「あ、いえ・・・大丈夫、です。すみません、レイヴンさん、ジュディスさん。私は・・・・ルイ。そしてこっちのこの子がクィッキーです」


クィッキー「クィッキ〜♪」


ルイ「ごめんなさい・・・。やっぱり私、ちょっと部屋で休んできます」



アンジュさんにクィッキーを頼んで(イリアとコハクから守ってください、って)、私はその場から逃げるように部屋に向かった。







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