合わせ鏡

□◇謎の現象
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カイウス「あ、ルイ」


ルイ「!カイウス・・・とチャット」


チャット「またクエストに行っていたんですか?」


ルイ「うん。今、アンジュさんに報告を済ませてきたところ」


カイウス「最近、討伐クエストばっかり受けてるんだって?アニーが心配してたぞ」


ルイ「あー・・・」



ヘーゼル村に物資を届けるクエストを失敗してから早2日。

私はもっと強くなりたくて、修行を兼ねて討伐クエストを受け続けてた。


そんなに酷いケガってわけじゃないんだけど、掠り傷とかを作って帰ってくるから、それを見る度にアニーの顔色は曇るばかり。

本当に申し訳ないよ・・・。



チャット「あまり無理はしないでくださいね」


ルイ「うん、ごめん。

・・・あ、そうだ。ユーリ見なかった?」


カイウス「ゆーり?・・・あぁ、あのガルバンゾ国の?」


チャット「あの人なら食堂にいましたが・・・どうかしたんですか?」


ルイ「お菓子を作るとかで・・・材料の買い出しを頼まれてたの。ユーリ達はあんまり外出出来ないから」


カイウス「ガルバンゾ国のお姫様だもんな。あの人・・・ちょっと話したけど、悪い人じゃなかったな」


チャット「エステルさん?何故、悪い人だと思ったのですか?」



不思議そうにチャットがそう尋ねたらカイウスはちょっと暗い顔になったの。

どうしたんだろう・・・?


声をかけようとしたら、カイウスはぽつりぽつりと話し始めた。



カイウス「俺は・・・生まれ故郷を追い出されたんだ。村の人達皆、ガルバンゾ国から。星晶(ホスチア)採掘の為に土地を明け渡せって、移住させられたんだ」


ルイ「!」


チャット「そうだったんですか」


ルイ「で、でもエステルは・・・!」


カイウス「ああ、エステルは違う。むしろ、人々の為に行動したいと言ってる」


チャット「大国は往々にして、小さい国や村を食いものにするものですから。偏見を持ってしまうのは、仕方ないかもしれないですね」


カイウス「ああ。ここにいる皆も、そう思う奴は多かった。大国に食い潰されて、価値が無くなったら見捨てられてきたから・・・」


ルイ「っ・・・」


カイウス「でも、見方変わったよ。全部の人が、そう悪い奴じゃないんだな」


チャット「カイウスさん・・・」



どこか安心したように微笑むカイウスに私はホッと胸を撫で下ろした。


小国や村を食いものにしたのは大国のごく1部の人間。大国に住んでる人達全員が悪いわけじゃない。

だけど搾取された側は大国全体を憎んじゃう。


だから・・・皆が皆そうじゃない、って、理解して、エステルを受け入れてくれたカイウスは、受け入れることが出来たこの子は、凄く強くて優しい人。



無性に嬉しくなって、私はそんなカイウスの頭を撫でた。



ルイ「カイウスはいい子だね」


カイウス「Σなっ!?子供扱いするなよ!」


ルイ「だって可愛いから」


カイウス「可愛いって何だよ!俺は男だぞ!」



そのムキになってるところが可愛いんだ。


何て言うか・・・そう!弟が出来たみたいで。



ルイ「(ん?弟・・・?)」



その時、何故か。







「―――姉ちゃん」








弟、っていう言葉が引っ掛かって、誰かの声が遠くで聞こえた気がした。


途端、ズキンッと頭が痛んで咄嗟に右手で額を押さえた。



ルイ「い゛っ・・・!」


チャット「ルイさん?どうしたんですか?」


カイウス「頭が痛いのか?」


ルイ「う、うん・・・ちょっと今、何か・・・・思い出しそうだったんだけど、」


2人「「!」」



誰かが、私のことを「姉ちゃん」って呼んでた。

顔はおぼろげで分からない。


だけど・・・



ルイ「(私には・・・―――弟がいた?)」


チャット「大丈夫ですか?」


カイウス「俺、アニーを呼んで―――」


ルイ「だ、大丈夫。もう痛みは治まったから」


チャット「ですが顔が青いですよ」


ルイ「急に頭痛がきてビックリしただけだよ。だから心配しないで」



不安そうに瞳を揺らす2人に私は大丈夫、って精一杯の笑顔を浮かべた。


ウソじゃない。本当に頭の痛みはもうないの。

多分・・・これ以上深く考えなかったら、痛みも襲ってこないと思う。



カイウス「記憶が戻ったのか?」


ルイ「アハハ・・・全然。ただ、弟がいたんじゃないかな〜・・・・って。確証は何もないんだけどね」


チャット「・・・ルイさんは記憶が戻ったら、」


ルイ「?」


チャット「あ・・・いえ、何でもありません。頭痛を伴うものなら、あまり無理に思い出そうとしない方がいいですよ」


ルイ「うん、そうだね。ゆっくり時間をかけながら1つ1つ思い出していくよ」



ユーリに材料届けてくるね、って2人に告げて私は食堂に向かう。


さっき遠くで聞こえた誰かの声はもう聞こえてこなかった。

ごめんね、名前も顔も・・・何も思い出せない私の弟君。



街で買ったお菓子の材料を入れた袋を片手に食堂のドアを開け―――ようとしたら、それより先に中から開いて出てきた人と鉢合わせた。



ルイ「ユーリ。よかった、丁度材料を・・・」


ユーリ「あぁ、悪い。中に置いといてくれ」


ルイ「?何かあったの?」


ユーリ「まぁちょっとな・・・。これからずっとここで世話になるかもしれねぇんだ」


ルイ「??」



意味がよく分からなくてきょとんとしてる私の前でユーリは「後で説明してやる」って言って、近くの1号室に足早に入っていく。

どうしたんだろう?


首を傾げつつ、私は言われた通り食材を置いておこうと中に入る。

そしたらそこにはイリアがいて、1枚の紙?を見て傍にいるクレアと話してた。



イリア「あいつも大変ね」


クレア「まさかこんなことになるなんて・・・」


ルイ「今、ユーリが出て行ったけど・・・何かあったの?」


イリア「コレよ、コレ」



コレ、って言ってイリアは片手で紙をヒラヒラと動かす。

それを受け取って、私は目を通す。


えっと・・・



ルイ「お尋ね者・・・ユーリ・ローウェル?これって、」


イリア「指名手配書よ。ほら、前にもあったでしょ。街であのノアっていう指名手配犯の聞き込みをしてる時にソレを見付けたのよ」



まだ諦めてなかったんだね、イリア・・・(苦笑


全然似てないユーリの似顔絵が書かれた指名手配書に私はまた視線を移す。

ガルバンゾ国の王女を誘拐した凶悪犯。見付けた者にはさ・・・30万ガルド!?



ルイ「ど、どうしてこんなことに・・・?エステルは自分の意志でユーリに依頼したって・・・・なのに、どうして?」


イリア「大方、国のお偉方が事実を自分達の都合のいいように捻じ曲げたんでしょ」


クレア「王女様が自らギルドの人間に頼って調査へ向かった・・・。それを国民に知られたくないのかもしれないわね」


ルイ「そんな・・・。あ、だからユーリ、エステル達のところに・・・・」


イリア「こうなった以上、もう国には帰れないでしょうね」


ルイ「!」







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