合わせ鏡

□◆始まりの朝
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ノア「くらえっ―――アクアエッジ!」



掛け声と共に生み出され、放たれた水の塊が僕に襲い掛かろうとしてた3体のロックルに当たる。


水はこの魔物の弱点属性。

だから、元いた世界で僕がやってたこのゲームのように、あの3体の上にHPバーがあったら、きっと今の攻撃でさぞ減少していることだろう。


そんなことを頭の隅で考えながら、2本の片手剣(ブロンズソード)を持つ両手に力を入れた。



ノア「魔神剣・双牙」



右と左、2本の剣から放った地を這う斬撃が、アクアエッジを喰らって倒れてたロックルの2体にクリーンヒット。

再び地に伏す2体。起き上がることはもう2度とない。


それを確認すると同時に僕は駆け出し、残りの1体にもトドメを刺す。



ノア「フゥ・・・」



息を吐いて、両手の剣を腰に装着してる左右の鞘に納める。

そして振り返って、後ろで5体のロックルの相手を先に終わらせてたディラスさんに視線を向ける。


目が合うと、彼はニッと笑って頷いた。



ディラス「だいぶ様になってきたな」


ノア「僕に剣術と魔法を教えてくれる人の教え方がいいんでしょう」


ディラス「褒めても何も出ねぇぞ」



って言いつつ、ロックルが落としたガルドとオレンジグミ、硬いウロコなんかをくれるのは何故でしょう?


自分が倒した3体のロックル。

それが落としたガルドを拾い上げて、貰ったガルドと一緒に財布へ。グミはグミ用の小袋へ、ウロコはポケットに。


ディラスさんの「帰るぞ」って言葉に頷いて後に続く。

これが3日前に始まった超早朝実戦訓練だ。



僕がウリズン帝国の首都の隣、フィーニスに来て・・・いや、誰かに運び込まれて?1週間が経つ。

ケガの治療をしてくれたイナンナさんとハワードさんの家でお世話になりつつ、僕はこのディラスさんに剣と魔法の指導+日雇いの仕事を紹介してもらってる。


空いた時間には自主練とこの世界の文字の勉強もしてるよ。







だから今日も、そんな忙しい1日だと思ってたんだ。



僕が自分で色んな家や店に配ったあの朝刊をイナンナさん達の家で見るまでは―――・・・








ノア「(Σなんっ・・・!?)」



驚きで飲もうとしたホットミルクを朝刊に零しそうになる。

その振動が伝わって椅子がガタッと音を立てたもんだから、一緒に朝食を食べてたイナンナさんとハワードさんが不思議そうに僕を見てくる。



イナンナ「どうかした?」


ノア「あっ、いえ・・・何でも、ないです。ちょっと、まだミルクが熱くて火傷しそうになっただけで、(汗」



アハハ、って苦笑して誤魔化す。

気を付けてね、ってイナンナさんは笑って、ハワードさんと談笑をし始めたのを見て僕はホッと胸を撫で下ろした。


ホットミルクが入ったマグカップを両手で持って、見つめる先にあるのは朝刊の1面。

そこに書いてある文章と、変な絵。



【お尋ね者、ノア。この者はウリズン帝国の積荷を襲い、騎士数名に傷害を負わせた】



ノア「(見付けた者には10万ガルドって・・・)」



まぁ、労働力が減ったんだからそれぐらいの額はかかって当然なんだけど・・・。



ノア「(これ・・・僕?)」



テイルズシリーズの手配書は変な絵で御馴染みだけど、ここまでとは思わなかった。

僕、こんなに目つり上がってるのかな?こんな牙持ってるのかな?


こんな男装しなくてもバレないんじゃ・・・と思いかけて、小さく首を横に振る。



ノア「(この絵を見て気付く人がいるかもしれないんだから・・・)」



聞こえない程度にため息を吐いて朝刊を閉じる。

もうノアなんて2度と名乗れないね・・・。


そして、ここにももういられない。



ノア「(早いとこ出て行かないと・・・)」











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ノア「ゴホッ・・・っ、し、死ぬかと・・・・思った」



街を歩きながら、自分の意思とは無関係に目に溜まる涙を拭って、顔についた煤を袖で乱暴に拭く。

本日の仕事は煙突掃除。


依頼してくれた奥さんが旦那さんに話を通してなかったみたいで、僕が掃除してる最中にその旦那さんが暖炉に火をつけたんだ。

後少し煙突から出るのが遅かったら一酸化炭素中毒で死んでたね。死んで落ちて、燃やされてたね。いや、これホントに。


勿論、旦那さんは奥さんにこっ酷く叱られた。

それで2人揃って何度も頭を下げるものだから困っちゃったよ。生きてるから大丈夫って言ったらやっと止めてくれて、お給金に迷惑料をプラスしてくれた。うん、いい人達だ。



ノア「(このお金で地図と・・・一応、コンパスも買っておこう。あ、寝袋も買わないと)」



何も準備しないで出て行くなんて自殺行為に等しいからね。


剣はディラスさんが昔使ってた古いのをくれたからいいけど、手首だけ覆えるガントレット(篭手)的なものが欲しいなぁ・・・。

後、ポイズンチェックかパラライチェック、ストーンチェックのどれかも。パナシーボトルは絶対必須!状態異常凄く怖いから。


ブーツでも買ってナイフでも仕込んでおこう。念には念をだ。鞭もあったら便利そう・・・―――って、



ノア「(僕、いつからこんなに物欲激しくなったんだ・・・?)」



立ち止まって軽く頭を抱える。

生き延びる為とはいえ、そこまで装備を揃えるのはやり過ぎなんじゃ・・・






「待ってよー、お兄ちゃーん!」






ノア「!」



前から聞こえてきた小さな女の子の声に顔を上げたら、10mぐらい先にまだ幼い2人の兄妹がいた。

覚束ない足取りで自分を追いかけてくる妹ちゃんをお兄ちゃんが立ち止まって待ってる。


妹ちゃんが来れば、お兄ちゃんが「ん、」って手を差し出す。

それを見た妹ちゃんは嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑ってその手をとった。



ノア「っ、」



あぁ・・・ダメだなぁ。



「行くぞ」


「うんっ!」



幼いその兄妹が立ち止まってる僕の横を通り過ぎて行く。

その姿が、小さい頃の僕と麗央兄と重なって見えて・・・僕は自然とお守りのペンダントを握り締めてた。


ダメだ・・・。

少し余裕が出て来るとこれだ。元の世界のことを考えちゃう。


元の世界で麗央兄や陽菜はどうしてるんだろうとか、どうやったら帰れるんだろうとか・・・。

今の僕に分かるわけがないこと、答えの出ないことばかりが頭に浮かぶ。



ノア「(ホームシックとか・・・ガラじゃないのに)」



自分自身に失笑。

今は生きていくしかないって分かってるくせにね。













―――神様・・・


何故このような試練を僕に与えるの?

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