合わせ鏡

□◇心の風景
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アンジュ「―――はい。これが今回の報酬よ」


ルイ「ありがとうございます」



カノンノ「あ、ルイも今帰って来たの?」



ルイ「カノンノ!おかえり」


カノンノ「ただいま。どう?仕事にはもう慣れた?」



私がこのアドリビトムに来て、1週間が経った日。

ホールでアンジュさんから報酬に貰ったガルドを財布に入れてたら、クエストから帰って来たカノンノがそう尋ねてくる。


う〜ん・・・と虚空を仰いで考えること数秒。



ルイ「少しは、慣れてきたと・・・思う。文字もアニーとフィリアのおかげでだいぶ読めるようになってきたし、」


アンジュ「もう1人で簡単なクエストにも行けるようにもなってるしね」


カノンノ「ルイは飲み込み早いなぁ・・・」



そんなことはないと思うけど・・・。


カノンノがアンジュさんにクエスト達成の報告をし始めたから、否定することが出来なかった。

さっきの私みたいに報酬を受け取るカノンノ。


その時だった。



イリア「ちょっと、これ見てよ!」



ホールにやって来たイリアが、手に持ってた新聞・・・かな?をクエストカウンタに広げて、ある1面を指差すの。


そこに載っていたのは、1人の茶色の髪の長い・・・女の人か男の人か分からない変な絵。

絵の上には、この人の名前?みたいなものが書いてある。


えっと、この文字は・・・



ルイ「ノア・・・?」



声に出して読んでみて違和感。

あれ・・・?



ルイ「(この名前・・・どこかで聞いたことがあるような・・・・)」



どこだったっけ?


絵を見て思い出そうとしてみたけど・・・何も思い出せなかった。

誰かが、この人と同じ名前を叫んでた気がするのに・・・。



カノンノ「〈この者はウリズン帝国の積荷を襲い、騎士数名に傷害を負わせた〉・・・だって」


ルイ「え・・・ってことはこれは、」


アンジュ「指名手配書ね。これがどうかしたの?」


イリア「懸賞金の額よ!額!ほら、見て!」



言われて私達は絵の下に書かれてる金額を見る。

0がいっぱいある・・・。


それを数えて私とカノンノは同時に叫んだ。



ルイ・カノンノ「「じゅ・・・10万ガルドぉ!?」」


アンジュ「まぁ!」


ルイ「積荷を襲って、ケガをさせただけでこんな金額になるの?」


カノンノ「ならないよ、普通!」


アンジュ「余程大事な積荷だったのね。

ここまで大々的に手配書を出すぐらいだから、国にとても必要なものだったんじゃないかしら」


カノンノ「星晶(ホスチア)とか・・・?」


アンジュ「さすがにそこまでは分からないわ」


イリア「とにかく!このノアってのを捕まえたら大金が入るのよ!大金が!

あたし、ルカ連れて街で探してくるから!」


ルイ「え、ちょっ・・・イリア!?」


イリア「じゃあね!」



言うが否や駆け出して行くイリア。


そんな簡単に見付かるとは思えないけど・・・。


アンジュさんもそう思ってるのか「夕飯までには帰って来るのよ〜」って声をかけてる。

多分、今のイリアには届いてないね(苦笑



ルイ「でも・・・このノアって人、積荷を襲っただけ・・・・なのかな?」


カノンノ「騎士にもケガを(ルイ「そうじゃなくて」え?」


ルイ「襲って、その積荷を奪わなかったのかなって・・・」


カノンノ「あ・・・」


アンジュ「そう言われてみればそうね。ここには、ノアって人のその後のことが何も書かれていない。おかしいわね・・・」



ただ、ウリズン帝国とかいう国に嫌がらせをしたかっただけ・・・なのかな?

だから騎士にケガをさせるだけで、積荷は奪わなかった?



ルイ「(この人の目的は・・・何だったんだろう?)」



上手いのか下手なのか分からない絵を見ながらそんなことを考えてたら、パタパタっていう音が近付いてくるのが分かった。


音がする方に視線を向ければ、笑顔のロックスが。



ロックス「お帰りなさい、お嬢様、ルイ様」


ルイ「あ、ロックス。ただいま」


ロックス「お腹が空いたでしょう?食堂へどうぞ。シナモンロールが焼けていますよ」


カノンノ「どうりでいい匂いがすると思った!ね、ルイ、おやつ食べに行こう♪」


ルイ「え・・・う〜ん、」


アンジュ「この記事のことは置いておきましょう。私はまだ依頼書の整理があるから2人で行ってくるといいわ」


ルイ「アンジュさん、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて・・・行こ、カノンノ」


カノンノ「うん!」



私達3人は揃って食堂に向かう。


綺麗に焼き上がったシナモンロールが皿の上にたくさんあって、その匂いが食堂に充満してる。

匂いをかぐだけでほっこりしちゃうね。



ロックス「さあ、どうぞ」


カノンノ「スゴイいい匂い」



手を洗って、席について差し出されたシナモンロールを手に取る。

カノンノはすぐにかぶりついて幸せそうな顔をしてる。



カノンノ「うん、美味しい」


ロックス「お嬢様。ちゃんと食べる前に「いただきます」を言わないといけませんよ」


カノンノ「あ・・・、はい。いただきます」


ルイ「いただきます」


ロックス「はい。食べ物に感謝をしてから食べなくては、ですよ」


ルイ「おいひぃ・・・」



ロックスとクレアはお菓子作りも上手で凄いなぁ・・・。


すぐに1個食べ終えて、2個目に手を伸ばす。

その時、目の前の席に座ってるクレアが小さくため息を吐いたのが分かった。


見ると、その顔が少し曇ってる。

ロックスもそれに気付いたみたいで、心配そうに声をかけるんだ。



ロックス「クレア様、どうかしましたか?食欲が無い様ですが・・・」


クレア「あ・・・ごめんなさい。故郷のヘーゼル村の事が気になって」


ロックス「ああ・・・、でもヴェイグ様が頑張ってくれているじゃないですか。アドリビトムの皆も」


ルイ「?」


クレア「そうですね」



だけど、クレアが笑顔を浮かべることはなかった。


心配そうな暗い顔のまま「洗濯物を取り入れて来ます」って食堂を出て行っちゃう。



ルイ「クレアの故郷・・・何かあるの?」


ロックス「ヘーゼル村の方々が、無事に暮らしているかどうか心配でならないんですよ」


カノンノ「ヘーゼル村は今、ウリズン帝国に占拠されていて・・・。住民は星晶の採掘労働を強いられているの」



ウリズン帝国・・・。

さっきの記事にも、名前が出てた国・・・。



カノンノ「星晶があるとされる、小さな国や村が、力のある大国から、搾取されるがままになってるって話を前にしたよね」


ルイ「うん」


カノンノ「クレアの故郷、ヘーゼル村もそうなの」


ルイ「え・・・」


カノンノ「ヘーゼル村の大人達は採掘だけを強いられるから、必要な物資や食料を自分達で生産する事も出来ないの。

だから、ヴェイグさん、クレアやアニーはここで物資を集めて送っているのよ」


ルイ「そう、だったんだ・・・」



ヴェイグが頑張ってる、っていうのは毎日クエストに行ってるのを見て分かってたけど・・・そんな理由があったなんて。

全然、知らなかった・・・。








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