合わせ鏡
□◆生キテイク為ニ
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「――・・・」
呼んでる。
「・・・――、」
誰かが僕を遠くから呼んでる。
「―――ノア」
ノア「・・・誰?」
重い瞼を開ければ、40mぐらい先に僕を呼んだ誰かが立ってた。
真っ白な空間。だけどぼやっとした明るさだから、それが誰なのかは分からない。
僕の名前を呼ぶってことは麗央兄か陽菜か、死んだお婆ちゃんやお母さん、お父さんの誰かだね。
とりあえず、顔も分からない誰かに質問してみる。
ノア「ここ何処?」
聞いても答えてくれない。
麗央兄達じゃないの?本当に誰だ、あれ。
あ、もしかしてここ天国?ってことはあれは神様?じゃあ、
ノア「僕・・・死んじゃったの?」
眉を下げて僕がそう言ったら、その誰かは首を横に振る。
違うよ、って。
ノア「じゃあ・・・これは夢?」
返事は返ってこない。首を縦にも横にも振ってくれない。
どうしてそんなに遠くにいるの?それとも僕にこっちに来いって催促してるの?
もう・・・意味分かんない。
小さく息を吐いて、その人の許へ行こうと1歩足を踏み出す。
途端、
ノア「!?」
ガラスが割れたように足をつけた白い空間が崩れた。
がくんっ、と踏み出した足が下がる。
それに連鎖するように僕が立っている場所が、後ろが同じように崩れていく。
バラバラに崩れ落ちていく白の下に見えたのは、赤い霧みたいなのが充満してる黒い空間。
その赤い霧が、僕の両足を捕らえる。
ノア「っ、何これっ・・・!」
まるで黒い空間に引き摺りこむように、赤い霧は僕の体や腕にも纏わりつく。
凄い力・・・!
「・・・ノア」
ノア「、え・・・?」
顔を上げたら、さっきと(多分)同じ場所にその誰かは立ってた。
じっと、僕を見てる。
その口が、動く。
読唇術なんて出来ないのに、その時は何故か・・・口の動きだけでその人が言ってることが分かったんだ。
―――ごめんなさい。
って・・・。
ノア「(え、ごめんなさい?)」
どうして謝るの?君は何を伝えようとしてるの?
僕に・・・
ノア「何をしてほしいの?」
強く引っ張られる体。
赤い霧に、黒い空間に飲み込まれる瞬間、ハッキリ聞こえた。その誰かの声が、
「―――タスケテ」
ノア「!」
誰を?何を助ければいい?
聞こうと思ったけど、その時にはもう体全体が赤い霧と黒い空間に飲み込まれてた。
息苦しい・・・。
水の中に、泥沼の中に沈んでいくみたいに体が重い。
肌を突き刺すような冷たさが僕を襲う。
光のない、空間。
もがくことも、浮くことも出来ずに下へ下へと僕の体は沈んでいく。
ノア「・・・?」
体に纏わりついてた赤い霧が離れていく。
揺蕩いながら、遥か下に、ここよりももっと暗い闇色の空間に沈んでいく。
無意識に僕はその赤い霧に手を伸ばした。
深みに沈んでいくソレを引っ張り上げなきゃって・・・何でか知らないけど思ったんだ。
だけど、
バシッ!
ノア「!?」
その手は振り払われちゃった。
どうして?
ノア「君が僕をここに連れてきたんでしょ?」
なのに、何で拒むの?
僕の言葉を受けたからか、赤い霧が揺らぐ。
今まで、感情を感じさせなかったソレが、初めて明確な怒り・・・かな?その感情を露わにする。
なるほど。この霧はただ僕を自分のいる場所に沈めたかっただけか。
引っ張り上げられたいわけじゃない・・・と、そーいう解釈でいいのかな?
ノア「こんなところに僕を連れて来て・・・一体何がしたいの?」
また揺らぐ。
露わになった感情は・・・何だろ、これ。複雑過ぎてよく分からない。
楽しいとか、嬉しいとか、明るい感情ではないのは確か。
揺らぎでその霧が表すのは暗い捻くれた感情・・・人をバカにして笑ってる感じ。
友好的でないね。
自然と口からため息が零れた。
ノア「(結局ここは何処なんだろ?)」
辺りを見回しても、見えるのは黒と赤だけ。
光と闇。
明るい世界から暗い世界へ。
あの白い空間が天国だとすると、ここは地獄?
なんてことを本気で考えてたら・・・
≪――マエモ・・・――ト同ジダ≫
ノア「は・・・?」
遥か下、闇色の空間から聞こえて・・・ううん、脳に直接語りかけられた。
え、何これ?テレパシー?
≪奪ワレル、ダケノ・・・・存在・・・≫
ノア「奪われるだけ?どーいう意味?」
≪見レバ、分カ・・・ル≫
ノア「?」
≪ソノ・・・目デ・・・・――ヲ見レバイイ≫
途端、
触手みたいな5本の赤い霧が僕を上に吹き飛ばす。
ノア「Σうおわっ!?」
黒い空間が弾けた。
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