合わせ鏡

□◆さよなら
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「希空・・・。希空にいいものをあげよう」


「いーもの?」


「おばあちゃんの宝物。おばあちゃんのね、お母さんから貰ったものだよ」


「ペンダント・・・?」


「これはお守り。このペンダントが希空を守ってくれる」


「ぼくを、まもる・・・?すごいおまもりなんだね」


「そう。凄いすごーいお守りなの」


「・・・う〜ん。でもさ、」


「?」


「そんなすごいおまもりなら、もっとつらいおもいをしてるひとにあげるべきだとおもうよ」


「!・・・フフッ、希空は優しい子ね。

もし、あなたがそう願うなら・・・きっとお守りはその想いに応えてくれるはずだよ。



―――応えて、他の人にも恩恵を与えてくれる」








   ◇  ◇  ◇







夢を見た。

幼い時、家の縁側でおばあちゃんからお守りを貰った時の記憶という名の夢を。


あの時・・・

僕が他の人にあげるべきだと言った時、どうしておばあちゃんは、







―――泣いていたんだろう。







希空「・・・、」



僕は意識を取り戻して、目を覚ます。


最初に見えたのは緑の草。木漏れ日が降り注ぐ林の中にいた。




・・・Why?




希空「僕・・・学校にいたのに」



それで上から落ちてきた人を助けきれず、押し潰されたのに・・・。

保健室とか病院の病室とかだったらまだしも、どうしてこんな林の中に運ばれてるの?



希空「陽菜ー?」



とりあえず立ち上がって、さっきまで近くにいた幼馴染みの名前を呼んでみる。

返事はない。僕の声が林の奥に響き渡るだけ。



希空「ここ何処?」



辺りを見回しても学校なんか見えてこないし、場所を特定するだけの手がかりもない。

これはもしかして・・・遭難ってやつですか?



希空「ソーナンデス」



遭難とそうなのをかけた、それプラス、ポケモンのあの青い生き物をかけた我ながら高度で上手いオヤジギャグを発するも、

聞いてくれる人もいなきゃ、ツッコミを入れてくれる人もいなくて・・・ちょっと虚しくなっちゃった。


あ、そうだ。

こんな時こそ、普段滅多に使わない現代文明の発明に頼る時じゃないか。



希空「スマートフォン〜(ダミ声」



某猫型ロボット(1番最初の中の人Ver.)みたいに言って、制服のスカートのポケットから取り出して高々に掲げる。

今自分がいる場所を調べるか、誰かに電話をかけるか・・・そのどっちかをしようと画面を見て、僕が固まること数秒。


圏外・・・だと!?



希空「フッ・・・分かってはいた。分かってはいたけど、」



実際、その真実を確認すると結構ダメージがデカいよ。

肩を落として取り出したスマートフォンをポケットに入れ直す。


さて・・・これからどうしよう。ふりだしに戻っちゃった。



希空「こんな時こそ・・・」



古来より、道に迷った時に行われる方法をとるしかない。

そこら辺に落ちてた細長い木の棒を拾って、僕は地面に立たせる。


木の棒は右斜め前に倒れた。

進む道は決まった。



希空「こっちか」



木の棒が倒れた方向に・・・じゃなくて、倒れた反対方向に歩いて行く。


僕は占いだとかはいつも悪い結果を信じてる。その方が当たるからだ。

だから今回も木の棒という天が指し示したのと逆方向・・・悪い方の道を行ってみる。



希空「あるこう あるこう わたしはげんき
   あるくの だいすき どんどんいこう

   さかみち トンネル くさはっぱら
   いっぽんばしに でこぼこじゃりみち
   くものすくぐって くだりみち」



なんて口ずさみながら、僕は何でこんなことになったんだろって考えてた。

どうして落ちてきた人に押し潰されて、学校からこんな林の中にテレポーテーションしてるんだろ。


・・・ハッ!もしや、これこそ夢なのでは!?

夢だったら痛みを感じないって言うよね。よし、試してみよう。



右の拳を握り締めて、そのまま力一杯自分の右頬を殴る。



希空「あぁ、くそっ。痛い」



結果、超痛かった。

もうちょっと手加減すればよかった・・・。痛む頬を擦りながら反省。



希空「夢・・・じゃ、ないのか」



これは、現実・・・。

尚更意味が分からない。


ハァ、って僕が深い深いため息を吐いた時だった。

近くの茂みがガサッと動いた。



希空「?」



山の獣かな?

それとも猟師さん?それとも陽菜?


人だったらいいな、なんて淡い期待を抱きながら音がした方に視線を向ける。


そこにいたのは・・・



それは、フサフサの毛を持つ生き物だった。


それは、鋭い瞳を持つ生き物だった。


それは、鋭い牙を持つ生き物だった。


それは、四足歩行で動く生き物だった。


それは、低い唸り声を上げる生き物だった。



それは、








―――人を襲う魔物だった。








僕は、その魔物の名前を知ってる。

大好きなゲーム・・・テイルズシリーズに出て来る魔物(モンスター)だから。



この魔物の名前は・・・



希空「ウルフ!?」



瞬間、

僕という獲物を見付けた1匹のウルフが茂みの中から飛び出して来た。



希空「Σウソォ!?」



ウルフと僕、

命懸けの鬼ごっこが今幕を開け―――って、言ってる場合じゃないよ!





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