合わせ鏡

□◇おはよう
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――世界樹の恩恵によって人々が暮らす世界「ルミナシア」



世界樹が生み出したとされる「マナ」と「星晶(ホスチア)」




人々は星晶をエネルギー資源とし、文明は目まぐるしく発展していった。



やがて世界中の大国は星晶の保有を求め、各地で争いが繰り広げられるようになった。





混迷していく世界、閉塞した時代の中人々は、


1人の「救世主」を待ち望んでいた。






――世界樹の守り手「ディセンダー」






太古より予言されていたそれは、世界樹より生まれ、世界を守護するために現れる。


ディセンダーに過去の履歴は一切無い、不可能も恐れも何も知らず、あるのは自由と命のみ。




それは自由の灯火なのだ。




己に対する幻想を持たぬ者。幼子のようにその瞬間を生きる者。




かの者は光を奪わず惜しみなく全ての者に光を与える―――








   ◇  ◇  ◇







目を覚まして、1番最初に見えた空はどこまでも青く、澄み切っていた。

ここは・・・何処?



「良かった。気がついたんだね」



・・・え?

急に真横から聞こえてきたソプラノボイス。

左に顔を向けてみたら、左の一房の髪を結ったピンクの髪に翡翠色の瞳の赤い服を着た女の子と目が合った。


誰・・・?



「空から降りて来たんだもん。すっごく驚いたよ!

あれは、何かの魔術なの?」



魔術・・・?

意味が分からなくて、私が口をポカンと半開きにさせてたら、目の前にいる子は眉を寄せて言葉を続ける。



「覚えて無いの?あなた、空から降りて来たのよ」


「空・・・から?」


「そう。光に包まれて、空からフワフワ降りて来たんだよ」


「私が・・・?」


「ともかく、気が付いて良かった。まるで眠ってしまった様な状態だったもの。

ここは魔物が多くて危険だから・・・。


あ、私はカノンノ。カノンノ・グラスバレー」



よろしくね、って笑顔で自己紹介をしてくれるカノンノ。


だけど私は、どう反応を返せばいいのか分からない。

だって・・・



カノンノ「あなたは?」



私は・・・―――何も憶えてないから。


記憶の糸を必死に手繰り寄せてみようとしたけど、無理だった。

ただ1つ、憶えてるのは・・・



「私は・・・ルイ、」



自分の名前だけ。


誰かにそう呼ばれてた気がする。

それが誰だったのかは、やっぱり分からないけど・・・



カノンノ「ルイ・・・。いい名前ね。

とりあえず、ここは危険だから山を降りましょう」


ルイ「分かった・・・」



カノンノの後について歩いて行く。


赤いボタンを押して橋を架けるカノンノ。

それを見守りながら、私は他に何か思い出せることはないか考えてみる。


名前はルイ。

歳は・・・いくつなんだろ?

誕生日は・・・いつなんだろ?


やっぱり何も思い出せない・・・。



カノンノ「ルイ・・・ルイ、」


ルイ「!あ・・・ごめん。何?」


カノンノ「橋が架かったよ。行こう」


ルイ「うん・・・」



岩と石しかないこの山はルバーブ連山っていうみたい。

カノンノはここで仕事をしてたんだって。


どんな仕事?って私が尋ねようとした時だった。

2歩ぐらい先を歩いてたカノンノが急に立ち止まった。



カノンノ「あちゃぁ・・・」


ルイ「どうしたの?」


カノンノ「魔物がそこに・・・」



そこ、って言って指差すカノンノ。

その指の先を見て納得。


青いオタマジャクシみたいなのが道を塞いでた。



カノンノ「通してくれそうにないなぁ」


ルイ「じゃあ・・・どうするの?戦う?」


カノンノ「そうだね・・・。倒さないと、先に進めなさそう」


ルイ「あれは素手で倒せるもの・・・?」


カノンノ「えっ。あなたも手伝ってくれるの?」


ルイ「うん。だって、1人安全なところで見てるなんて出来ない」


カノンノ「ありがとう。じゃあ、一緒に戦おう!」


ルイ「了解」


カノンノ「じゃあ、行くよ!」



赤い剣を抜いて両手で構えるカノンノに続く。



ボヨンボヨン跳ねるオタマジャクシを、とりあえず蹴っ飛ばしてみる。

おー、よく跳ぶ。


あの生き物は何なんだろ・・・?

カノンノは魔物って言ってたけど・・・



カノンノ「ルイ、危ない!」


ルイ「!」



考え事してる間にオタマジャクシが目の前に来てた。

その長くもない尻尾?で私に攻撃しようと飛びかかってくる。



カノンノ「虎牙破斬!」



横から来たカノンノが繰り出した技は斬り上げと斬り下ろしの二段斬り。

私に飛びかかってきてたオタマジャクシがそれを喰らって地面に落ちる。


考え事は後だ。今はこいつを倒そう。


地面に落ちたオタマジャクシに追撃という名のトドメを入れるために、私はそいつの頭上に飛び上がって、上から蹴りを入れる。



初めての戦闘なのに、初めての攻撃なのに・・・ずっと前、それこそ昔から知ってたように技の名前が口から出る。



ルイ「鷹爪脚」



蹴りを入れた後は後ろに離脱。


スタッ、と私が地面に着地すれば、いつの間にかオタマジャクシが消滅してた。

どうやらカノンノの1発と今の1発で倒せたみたい。



ルイ「フゥ・・・」



心臓の音が大きくて早い。

1人だったら、どうなってたか分からない。カノンノがいてくれてよかった・・・



カノンノ「大丈夫だった?」


ルイ「何とか。危ないところをありがとう」


カノンノ「ルイがケガしなくてよかった。

・・・あ、そろそろ船が到着する時間だ。急いで山を降りなきゃ!」


ルイ「そうなの?」


カノンノ「少し急ぐことになるけど、いいかな?」


ルイ「全然大丈夫」


カノンノ「船に乗ったら、あなたの希望する場所へ送ってもらえる様に伝えるから」



そう言われて、さっきまで考えてたことがまた頭の中に浮かび上がって来る。

希望する場所・・・



ルイ「ごめん・・・。私、行きたい場所がない」


カノンノ「え・・・?」


ルイ「どこに行けばいいのか分からない。どうやってあの山頂にやって来たのかも・・・何も、分からないんだ」


カノンノ「え・・・えぇっ!?んーんんん・・・・それじゃあ、どうすればいいかな」



顎に手を添えて考えるカノンノ。

そんな風に悩ませて本当にごめんなさい。



私はただ、顔を俯かせることしか出来ない。




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