合わせ鏡
□◆Prologue
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『今日最も良い運勢なのは、しし座のあなた』
希空「むごっ?(モグモグ」
朝ご飯を食べながらテレビを見てた僕は、そのアナウンサーさんの言葉におにぎりを食べる手を止める。
あぁ、それは全国にいる内の何人のしし座の人だろ・・・。
僕がその幸運の中に入ってないのは絶対確かだ。
『楽しい出来事が続々到来。時間の配分を考慮しましょう。
野菜ジュースを飲むと運気がアップしますよ』
希空「フッ・・・」
こうやって世間の人々に野菜ジュースを購入させるんだね。
うん、見事なプレーだ。
希空「嗚呼、今日も世界では色んな陰謀が渦を巻いてるね」
「希空、とりあえず現実に戻って来い」
バレンタインで女子がお菓子業界の思惑に乗せられるの然り、クリスマスに皆が玩具業界の思惑に乗せられるの然り。
なんてことを考えてたら、3つ上の兄貴、麗央(れお)兄が僕の肩を揺すってそう言った。
希空「失礼な。僕はいつも現実を見てるよ」
麗央「一応聞くけど・・・お前、昨日何の本を読んだ?」
希空「何の本って・・・
〈社会で渦巻く闇、デフレスパイラルはこうして起こる〉」
麗央「Σ女子高生が読むもんじゃないと思うんですけど!?」
希空「麗央兄も就職した時は気を付けてね」
ポンポン、って背中を叩いて僕は半分まで食べたおにぎりを食べる。
麗央「スッゲーや。この人、全然人の話聞いてねぇ。
・・・って、それより希空、」
希空「んー?」
麗央「俺がやった防犯ブザーどうした」
希空「昨夜、お亡くなりになったのです」
麗央「ウソつけ。部屋か?部屋だな!学校行く前にちゃんと取って来い。
催涙スプレーと警棒はちゃんと持ってるな?」
希空「これここに」
制服のスカートのポケットから10cmぐらいのスプレーと、
スカートの下、太ももにベルトで装着してる特殊警棒を取り出して見せたら、麗央兄はよし、って頷くんだ。
麗央「変な奴に絡まれたり、変な奴に付きまとわれたりしたらブザーとスプレー、警棒の3コンボで撃退するんだぞ」
希空「毎日言ってるけど・・・麗央兄、過保護過ぎやしませんか?」
麗央「心配だからに決まってるだろ!お前、変なところでドジだし。
それに、お前は昔から色んなトラブルに巻き込まれるから・・・」
希空「僕知ってる。そーゆーのをシスコンって言うんだ」
茶化すように言ったら、無言の頭グリグリ攻撃を喰らいました。
地味に痛い・・・。
麗央兄が心配するのも無理はない。
僕は今までに誘拐されたり、コンビニ強盗に巻き込まれたり、銀行強盗の人質にされたり・・・etc.
とにかく色々なトラブルを体験してきた。
昔はこの僕がトラブルを振り撒いてるんじゃないか、って本気で思い込んだものだよ。
・・・なんて思い出話は置いといて、
希空「今日も今日とて学校生活という繰り返しの虚無的な1日を過ごしてくるよ」
麗央「いい加減にしないと本気で心の病院通わせるぞ」
希空「アッハッハ、麗央兄は面白いこと言うね」
麗央「ハァ・・・。まぁ、とりあえず気を付けてな。お守り、ちゃんと持ってるか?」
希空「勿論」
7年前に亡くなったおばあちゃんが「お守り」だって言って僕にくれたクリスタルのペンダント。
トラブルに巻き込まれるのを回避してくれることこそなかったけど、
そのトラブルで大怪我をすることは、このお守りのおかげなのか1度もなかった。
だから僕はこれを肌身離さずいつも持ってる。
このペンダントを見てたら、落ち着くっていうのもあるからね。
希空「じゃあ、行ってきます」
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希空「解せぬ・・・」
虚無的な1日を終わらせて、明日から夏休みっていうパラダイスに入るつもりだったのに・・・
最後の大掃除で美術室のゴミ捨てが回ってきた。
何であそこでグーを出しちゃったんだろ。チョキを出してれば1人勝ち出来たのに。
希空「やっぱり僕は幸運になれるしし座じゃなかったんだね」
「ごめん、何の話?」
ため息を吐いて肩を落とす僕を、隣で幼馴染みの陽菜(ひな)が不思議そうに見てる。
希空「占いはやっぱり当たらないなっていう話」
陽菜「あー・・・でも希空、そーいうの信じてないでしょ?」
希空「ううん、信じてるよ。悪い方の結果のみ」
陽菜「なるほど!それなら絶対当たるね―――って悲しいよ!」
希空「盛大なノリツッコミをありがとう」
腕を上げたね、って言って僕はゴミでパンパンになったゴミ袋を持ち上げる。
ここから遠い体育館裏のゴミ捨て場までこんな重いのを持って行くのかと思うと・・・ため息が止まらないよ。
陽菜「そんなに落ち込まないで。ほら、私も手伝ってあげるから」
希空「陽菜は優しいね。ジャンケンで勝ったのにわざわざやってくれるなんて・・・」
陽菜「私と希空の仲でしょ。っていうか、私が一緒に行かないと希空、絶対どこかで転びそうだもん。
で、ゴミをぶちまけるっていう・・・」
希空「僕、そこまでドジじゃないから」
まったく・・・麗央兄といい陽菜といい過保護なんだから。
って思ってても口には出さずに、ゴミ袋の端を持ってもらって一緒にゴミ捨て場に行く。
だけどその途中で、
「あ、早川さん、ちょっといい?」
陽菜「え、あ・・・えーっと、」
陽菜が(多分)部活の先輩に呼び止められた。
希空「いいよ、陽菜。もう近いから1人で大丈夫」
陽菜「そう?ごめんね。すぐ行くから」
希空「うん」
軽く手を振り合って、陽菜は先輩と部活のことについて話し合い?をして、僕は体育館裏に向かう。
それでやっとこさ辿り着いたゴミ捨て場にゴミを投げ入―――ゴホンッ、ゴミを静かにゆっくり置いて、任務完了!
解放された腕を回しながら僕は満足気に戻る。
希空「やーっと終わった」
これで夏休みだー!
その時だった。
家で毎日ダラダラ出来る喜びに打ちひしがれてる僕の許に、急に災難が降りかかったのは。
ボトッ
希空「ん?」
若干重い音が後ろでして、何だろ?って振り返って見たら雑巾が落ちてた。
何でまた急にこんなものが・・・?
首を傾げてたら、背中に声がかかる。
「危ない、希空!!上!!」
希空「陽菜・・・?」
また振り返ったら、焦ったような陽菜の顔が見えた。
・・・ん?上、とな?
見上げてビックリ!
希空「Σ!?」
親方ー、そ、
空から女の子が!!
――って、ラピュタじゃなくて!!
本当に女子が上から落っこちてきてた。
え・・・ちょっと待って、あの人の落下地点って・・・・僕?
希空「あぁーっ!もうっ!!」
考えるより先に体が動く。
両手を前に突き出して、落ちてくる女子を受け止め―――
希空「みぎゃっ!」
きれずに押し潰されちゃった。
あぁ・・・ごめんなさい。どうやら僕にはパズー並の筋力がなかったみたいだ。
楽しい出来事が続々到来・・・?やっぱりあの占いは当たらなかっ―――あ、もしかして野菜ジュース飲まなかったから?
陽菜が僕の名前を叫ぶ声を遠くに聞いて、意識は素敵にブラックアウト。
意識を手放す瞬間、太陽みたいに温かいナニカが僕を包み込んだ気がした。
まさか・・・この時は思ってもみなかったよ。
これはただの始まりに過ぎなかった・・・なんて。
To be continued...