合わせ鏡

□◇Epilogue
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『そして今日、最も悪い運勢なのは・・・ごめんなさ〜い、みずがめ座のあなたです』


瑠依「Σ何っ!?」



テレビから音楽と一緒に流れ出て来る女性アナウンサーのその言葉を聞いて、私は箸を止めて画面に見入る。

朝からなんてテンションの下がることを・・・!



『軽い調子で判断し大ピンチ。状況を察して行動しましょう。

でも大丈夫!そんなあなたのラッキーアイテムはトレーニンググッズです』


瑠依「・・・、」



持っていた箸とご飯が入った茶碗をテーブルに静かに置く。

そしてそのまま席を立とうとした時、丁度居間に2つ下の弟、蛍(けい)が欠伸をしながら入って来た。



蛍「おはよ〜・・・」


瑠依「おはよう。またシャツが出てるよ」


蛍「ん。・・・あ、姉ちゃん。今日の占い、おひつじ座何位だった?」


瑠依「知らない。私は占いなんて信じてないから」


蛍「姉ちゃん・・・








何で鞄の中にダンベル入れようとしてんの?








瑠依「護身用よ





蛍「合気道っていう護身術習ってた姉ちゃんには必要ないと思うけど。

ってか、護身用にダンベル持ち歩いてる女子高生が俺の姉ちゃんなんて思いたくない」



席について朝食を食べ始める蛍。

その目が、どうせみずがめ座最下位だったんだろ、って物語ってる。


姉としての威厳が今、失われようと・・・!



「瑠依〜、蛍〜、ごめ〜ん」



キッチンの方から、パタパタっていう足音と一緒に聞こえてきた和やかなお母さんの声。

私達姉弟は揃ってそっちに視線を向ける。



「今日、お弁当に入れるはずだった卵焼き焦がしちゃった」



両手を合わせて謝るお母さん。

語尾にてへっ、とついてもおかしくないのほほんとした軽い調子で言うもんだから、こっちの調子が狂っちゃう。


しかし、油断するなかれ。

今、お母さんは卵焼きを焦がしたって言った。


だけど何かが焦げるような臭いは全くしなかった。

それはつまり、どういうことかというと・・・



蛍「姉ちゃん!水!もしくは濡れタオル!!」




そう。



フライパンから火柱が立ちのぼって、キッチンが炎上しかけてるってこと。



今まで何度も経験したその光景を見て、私はクラッと眩暈を起こしそうになった。




これが我が家の日常です。











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――――――――――
――――――――――――――












「瑠依ー!どうしよう、あたしこのままじゃ○○大行けないよー!」


瑠依「どうしたの急に?」



朝のキッチン炎上事件を何とか鎮めて、私はいつも通り学校に来て、いつも通り授業を受けた。

今日は1学期の終わり。明日から夏休みに入るってことで大掃除。


だから私も割り当てられた3階廊下の掃除してたんだけど・・・

親友であり同じ班の恵(めぐみ)がそんなことを言って泣きついてきたの。



恵「さっきさー、先生に呼び出されて「お前、このままの成績だとヤバいぞ」って言われちゃったー!」


瑠依「ドンマイ」


恵「え、それだけ?親友が困ってるのにそれだけ!?」


瑠依「私は今窓拭きで忙しいから。恵も口じゃなくて手を動かしてね」


恵「瑠依は真面目過ぎだよー。こんなのちゃちゃーっとやっちゃえば、」


瑠依「恵、夏休み勉強見てあげるからちゃんとやって」


恵「ほ、本当!?ありがとう、大好き!瑠依はあたしの女神だよ!」


瑠依「また大袈裟なんだから・・・」



軽い呆れ笑いを浮かべて、私はそのまま窓の外側を雑巾で拭きにかかる。

くっ・・・真ん中のところがどうしても届かない。


こうなったら・・・



恵「ちょっと瑠依、危ないよー」



窓の桟に腰かけて、上半身を外に出そうとしてる私を見て恵が心配そうに声をかけてくる。



瑠依「大丈夫。すぐ拭き終わるから」



雑巾を片手に持って、いざ!

って意気込んだまではよかったんだけど・・・丁度その時、強い風が吹いて持ってた雑巾が吹き飛ばされちゃった。



瑠依「あ、」



恵「Σ瑠依!?」



咄嗟に掴み取ろうと後ろ向きに身を乗り出したのが間違いだった。

風に飛ばされて落ちていく雑巾を掴めるはずもなく、私の体は急降下・・・ううん、急落下。



だけどそれが変にスローモーションに感じる。

驚いて目を見開く恵。多分、今の私もそんな顔をしてるんだと思う。



朝の占い・・・当たってるかもね。

ラッキーアイテム、ちゃんと持ってきてたのに何でだろ。


・・・あ、肌身離さず持ってなかったからか。




重力に従って落ちていく私。

頭の中は真っ白。



なのに耳は・・・

耳だけは遠くの声を拾ってた。





「危ない、希空!!上!!」





下から聞こえてきた焦った女の子の声。


それを聞いて、真っ白だった頭の中がパッと弾けた。



もしかして・・・下に、私の落下地点に誰かいるの!?



瑠依「ダ・・・メ!」



お願い!逃げて!!


叫ぶ暇もなく、私の体は下にいる誰かか、地面に激突して終わる。




終わるはずだったのに・・・痛みと、弾力を感じた。

何も見えない。だけど、感じる。



何か、温かな光が私の体を包み込んでる。



その光は何・・・?

私には、分からない。








この日。



私、榊瑠依は―――死んだ









To be continued...
 

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