秘密を守れますか?U

□瓦解する終末論
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木の葉の森で、1つの激突があった。

前衛として戦っていた生きた傀儡の2人と希によるものだ。


攻撃を避けつつ、希は神経毒を塗っている千本を男達に掠らせていく―――のだが、



希「(無理矢理動くか・・・)」



麻痺して動かない体。

それをものともせずに、いいや、体が麻痺していることに気付いていないように、前衛の2人は攻撃を続けてくる。


しかし、確実にその動きは鈍くなっている。



紗那「多分・・・だけど、私が前に見た人と一緒なら、その人達に理性だとか知性はないと思う」



「あぁ、その通りだ。そいつ等は命令に忠実な殺戮人形。止めたければ殺すしかないぞ」



その女の言葉には、無理だろうがな、というニュアンスが含まれている。

先程の紗那と今の希の戦い方を見れば分かる。殺さずを貫いている彼女達が、この殺戮人形を殺すはずが―――殺せるはずがない。


もし、殺そうと突き進んできたとしても女は別に構わない。

下忍にやられる弱い人形はそもそも必要ない。捨てる手間が省ける分、メリットにしかならないのだから。



希「(白みたいに仮死状態に出来ればな・・・)」



生憎自分にはその知識がない。

どうするべきか、と彼が考えていると動きの鈍くなった前衛2人の腕や足に水の鞭が絡みついた。



紗那「今だよ、希君!」


希「あぁ、助かる」



水遁・水龍鞭で拘束され、上手く攻撃出来ない男2人。

希はその隙に彼等の意識を刈り取る。これで3対2。だが、これで状況が良くなったとは希も紗那も思っていない。


だから、



紗那「(これで何とかなりますように)」



彼女はそこで空に向けて1本の起爆札付きクナイを投げた。


もう自分はチャクラを使い過ぎて戦力にならない。

ならば足手まといになる前に応援を呼ぶ必要がある。


都合良く誰かが来てくれるとは思わない。しかし、そうすることであの女達に援軍が来るのでは、と迷いを生ませることが出来る。

正に苦肉の策だ。


上空で起爆札が爆発する。

凄まじい光と衝撃波。それに驚いた鳥達が一斉に飛び立っていく。



女「この期に及んでまだ誰かが助けに来てくれると?

もし、仮に今の爆発に気付きこちらへ向かって来てくれていたとしても・・・だ。お前達ではそれまでの時間を稼ぐことも出来ないだろうに」


紗那「っ・・・」


「愚かだな」



彼女がそう言ったと同時に火遁使いが屈み、取り出したクナイで足元を一閃した。

飛び散る水の雫。


それを見た紗那が目を見開く。



女「起爆札で視線を上に集め、下から細くした水龍鞭で捕えようと考えていたんだろうが・・・あまりに拙い。

それを狙うなら目視し辛い程にしなければ意味がない。まぁ、それでも水の糸だったなら光の反射ですぐに気付くがな」


紗那「(そんなっ・・・!)」


希「(思っていた以上に厄介だな)」


「お前達に付き合うのももう飽きた。さっさと終わらせよう」



途端。


紗那の足元から岩で出来た槍が飛び出してきた。



紗那「!!」


希「!―――紗那!!」



それは相手を串刺しにする恐ろしい槍。

自分の心臓に突き刺さるビジョンがすぐに紗那の脳内に浮かんだ。






彼女自身、その時に何故そんな行動をとったのかは分からない。




だがその行動によって生き永らえることが出来たのは事実だった。





紗那「かっ・・・はっ・・・・」





口から洩れ出す空気。

首に走る鈍痛に意識を失いそうだった。



彼女、紗那は、迫り来る槍を避けるではなく、自ら槍に向かっていった。

身を前に乗り出したことで、心臓に当たるはずだった槍が首に―――そこに巻いている額当てに当たった。


額当てが貫かれることはなく、ぶつかった衝撃だけが紗那を襲い、彼女は反動で勢いよく地面に頭を打った。


本当に、1歩間違っていれば死んでいたことだろう。

だけど紗那は思う。



紗那「ぁ・・・っ・・・・」



上手く声を出すことも、上手く呼吸をすることも出来ない朧気な意識の中で、それでも紗那は笑みを浮かべてそう思うことが出来た。

もしかすると、先程の「諦めるのはまだ早い」という、あの無機質な声がそうさせたのかもしれないな、と。



彼女のとった行動に希は只管に驚いていた。

あの紗那がそんなことをするとは思っていなかったのだ。


そして同時に、盾で守っているから彼女は安全だと高を括っていた自分を殺したくなった。

彼女があの行動をとっていなければ、また自分は大切な人を目の前で失うことになっていた。



希「(くそっ・・・!)」


「醜い。そこまで生にしがみつくか」


希「お前っ・・・!」


「何を熱くなっている?そもそもお前は自分に出来ることぐらいこいつ等にも出来る、とは思わなかったのか?

その2人は腐っても上忍だぞ?自分と相手の力量を測り間違えれば死ぬ、当然のことだろう?」


希「くっ・・・」



とにかく今は紗那の許へ、と彼は地を蹴る。

しかし。


立ち塞がるように現れた上忍の男が、そんな希を蹴り飛ばした。



希「うぐっ・・・!」



見えなかった。

彼の足蹴りを捉えることが出来ず、回避も防御も何も出来なかった。


地面を数度バウンドした希は、近くの木に激突する。

激しい痛みに顔を歪めていると、視界の端で火遁使いが動いた。


その男は転がっている自分のところにではなく、盾の後ろで仰向けに倒れている紗那の許へ行ったのだ。

希の頭に警鐘が鳴り響く。



希「止・・・めろ・・・・!」



痛む体に鞭打って彼は起き上―――ろうとして、見えないナニカに左足を貫かれた。



希「―――っ!!」



あまりの痛みに悲鳴も上げられない。

そんな希を嘲笑うように女が楽し気に言う。



「お前は大人しくそこで見ていろ。なに、すぐにお前も同じ場所に逝けるんだ。心配する必要はない」


希「、」



女の言葉は無視した。痛みは封殺した。

希は地を這いずって紗那の許へと急ぐ。


彼のその必死な顔が見えたのだろう。

だから最後に紗那は、



紗那「ご・・・めんね・・・・



痛む喉に力を入れて、希に謝った。


傷付けてごめん。


さんざん1人で勝手をしてごめん。


巻き込んでごめん。



そして、










―――最後まで一緒に戦えなくてごめんね。










という思いをその一言に込めて。





止めろ、と希が再び火遁使いに向けて叫んだ。

もうボロボロになって、自分と同じように足までやられて立ち上がることすら出来ないのに、それでも必死に自分を助けようと届くはずのない手を伸ばしながら。

紗那は、小さく笑った。



紗那「(せめて・・・希君をこの場から逃がしてあげられたら・・・・)」






『問題ありません』






また、空耳が聞こえる。

ブゥーン、という複数の小さい振動音が周りから聞こえてくる。


無機質な声が無感情に続ける。







『全てこちらの計算通りです』







紗那「(そうなの・・・?じゃあ、安心だね・・・・)」



声の主がどこの誰なのかは分からない。

しかし何故かその言葉を信じる気になれた。


傍に立っている火遁使いがクナイを取り出す。

最後の瞬間を目にする前に、安堵した紗那はそのままゆっくりと意識を手放した。






「殺れ」





無慈悲な女の一言。

それを受けて火遁使いがクナイを―――




  ガクンッ




「!?」



クナイを放とうとして、白目をむいてその場に倒れこんだ。

何が起こった、と驚愕する女の前で異変が続く。


這いずる希の近くに立っていた上忍の男もまた糸が切れたように倒れこんだのだ。



希「・・・?」



「(一体何が・・・)」



倒れた2人の男に交互に視線を向けるも、女には何がなんだか分からない。

―――と、その聴覚に不快な振動音が微かに届いた。



「!」
「(まさか・・・!)」



彼女は2人の男達に、そして周囲に目を凝らす。


ブゥーン、ブゥーン・・・と。

小さな羽を高速振動させる大小様々な同種の虫がそこに居た。


まるで、自分達を包囲するかのように。



女は、泡隠れの里での宝玉や〈選り人〉を巡る戦いから帰還したチエミから情報を得て知っている。

その虫―――トンボを操る幻術使いのことを。






「砂のガキか・・・!」







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