秘密を守れますか?U
□◆ずっと待ってる
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「そちは・・・不思議な奴じゃのぉ」
紫の鳥居がある社の前で、1匹のドラゴンは目の前でたくさんの鳥と戯れている少女を見て呟いた。
長い赤髪を後ろで結っている赤目のその少女は振り返り、首を傾げてドラゴンを見た。
「何が不思議?」
「まるで、そちには・・・鳥の言葉が分かっているようじゃ」
ドラゴンがそう言うと、赤髪の彼女はフッと笑った。
「、まさか。分かるわけがない」
腕や肩にとまらせていた鳥達を空へ飛び立たせる。
青い青い空へ向かって飛んでいくその鳥達を見送り、空に張られている1枚の結界に彼女は視線を向けた。
そして、ポツリと呟く。
「・・・アノ人の遺言」
「、」
ピクッ、と。
ドラゴンが微かに反応する。
赤髪の少女はまたドラゴンの方を向き、微かな微笑を浮かべて言う。
「〈目を覚ましたお前に、1番最初に「おはよう」と「おかえり」を言うのは俺だ〉って・・・」
「!?な、にを・・・言うとるんじゃ・・・・アイツは。
幽霊になるとでも言うのか・・・・?」
「さぁ?それはどうか分からないけど・・・とりあえず、期待して待っていればいいんじゃない?」
「馬鹿馬鹿しい。残すなら、もっとマシなことを言い残せばよいものを」
「アノ人はちゃんと残してくれたよ」
「・・・何じゃ。そち、何か知っておるのか?」
「フフッ・・・さてね。目が覚めた時、きっと分かるよ。それまでは秘密」
「また来るよ」と言って、赤髪の少女は去って行く。
その宣言通り、彼女は何度もドラゴンの許へ来た。
春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て・・・
8度目の冬が来たある寒い日も、いつものように成長した赤髪の彼女は社ではなく地下に移されたドラゴンの許へ訪れていた。
右目があったと思われる場所から、赤い液体を流しながら・・・
それを見て、驚いたドラゴンが声を上げる。
「――、どうした!?その目・・・里で何かあったのか!?」
「大丈夫・・・何も問題ないよ。この目は、自分でやっただけだから・・・・」
「自分で・・・?どういうことじゃ!?」
その問いには答えず、赤髪の彼女は薄く笑う。
困ったように、自分自身に呆れているように笑う。
「死ぬ前には、思い出が走馬灯のように見えるっていうけど・・・あたしはどうやらその逆らしい」
「何を言って・・・」
「だからあたしは道になることにした」
彼女は軽く握り締めていた右手を開く。
そこには、紅い瞳をした眼球があった。おそらく、彼女自身のものだろう。
血に塗れたソレに彼女は口づけをする。
途端、血の術式のようなものが眼球に刻まれた。
クスッと微笑を浮かべ、彼女はその眼球を祠へ静かに置く。
「何をするつもりじゃ、――!」
「幸せだったよ。この島に来て、あの里で生活をして、あんたに会えて・・・。勿論、悲しいことや辛いこともあったけど、それでも幸せだったんだ」
「――、わしの質問に答えよ。そちは何を考えている・・・!?」
「だから、あんたも幸せになれ。目覚めた世界で、バカ兄貴〈達〉と一緒に幸せにならなきゃ許さない」
赤髪の彼女はドラゴンの話など聞かない。
一方的に話を進めていく。
まるで、説明してやれるだけの時間がないという風に。
「これからあんたは見たくないものをいっぱい見ることになると思う。目を逸らしたくなるようなことがいっぱい起こると思う。
それでも・・・お願いだから、見ててくれ。悲しくなっても、辛くなっても、苦しくなっても、寂しくなっても・・・・しっかり見ててくれ」
「何故・・・」
「(何故そんなことを言うんじゃ・・・。それではまるで、)」
「大丈夫、皆が繋げてくれるから。あんた達〈選り人〉は何も心配しなくていい。あたしが全部面倒を見るから」
「(まるで、)」
遺言のようではないか、と考えたドラゴンの額に、赤髪の彼女が己の額をつける。
目を閉じて、静かに最後の言葉を告げた。
「―――大好きだよ、ミナヅキ」
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