奇奇怪怪

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2階の4−2教室、廊下側の窓。

真っ赤な手形でびっしりと埋め尽くされたその窓を見て、3人の少女は固まっていた。



瑠璃「こ、こんなの・・・さっき走ってきた時なかったよね?ねぇ!?」


悠香「う、ん・・・。あったら、さすがに今みたいに立ち止まってるよ・・・・」


紗那「これ・・・全部血の、手形・・・・?」


悠香「ペンキっていう可能性も・・・」


瑠璃「あったとしても異様なことに変わりないよ」


悠香「入ってみる?」


紗那「絶対イヤ・・・。怖い」


瑠璃「今は、放送室を目指そう」


悠香「分かった」


紗那「ふ、2人共・・・絶対、手離さないでね」



2人の間にいる彼女は、瑠璃と悠香の手を握る両手に力を入れた。



悠香「紗那、手汗凄いよ」


紗那「だって怖いんだもん!」



怯え、竦む足を何とか動かして3人は進み始める。

しかし、中央階段で悠香が足を止めたことですぐにまた立ち止まることとなる。



瑠璃「どうしたの?」


悠香「この時計・・・」



そこにあったのは1階にあったものと同じ柱時計。

その文字盤を悠香はじっと凝視していた。



瑠璃「これならさっきもあったよ?気付かなかった?」


悠香「いや、そうじゃなくて・・・」


瑠璃・紗那「「?」」


悠香「時間が・・・変わってる気がする」


瑠璃「え?」


悠香「さっき通った時は・・・そう、5時位だった気がする。けど、今は・・・・」



瑠璃と紗那は目を凝らし、柱時計の文字盤を確認する。

壊れた時計が指し示すその時間は、7時29分。


悠香が言っている時間と2時間程違う。



紗那「見間違いじゃない?」


瑠璃「うん。どう見ても壊れてるよ、これ」


悠香「だといいんだけど・・・」



気を取り直して彼女達は進む。










ゆっくりとした足取りで時間はかかったものの、何とか放送室の前へ辿り着いた。の、だが―――



悠香「鍵かかってる・・・」


瑠璃「放送かけた後、律義に閉めたってこと?ますます誰の仕業だよ」


悠香「う〜ん・・・人間じゃないってことなのかなぁ?うち等を助けようとしてるいい幽霊とか?」


紗那「ポジティブにもほどがあるよ〜・・・」


悠香「あ、職員室だったら鍵あるかもだよね」


瑠璃「行くと?」


悠香「うん。それに職員室こそ何か色々ありそうだし」


紗那「神経図太過ぎない?」


悠香「ホラーゲームとかだと、進まないとクリア出来ないよ」


瑠璃「進んでもクリア出来ない人は出来ないよ」


悠香「瑠璃ちゃん、繰り返すよ?それを言っちゃおしまい」


瑠璃「ソーデスネ・・・」


悠香「そうと決まれば職員室を探そうっ」


瑠璃・紗那「「おぉー・・・」」



意気込む悠香とは対照的に、瑠璃と紗那は力なく拳を上げる。

まずはこの廊下の奥を調べてみよう、という話になり、3人は先に進む。


放送室の隣は多目的教室。目的の場所ではないので、中は確認せずに前を素通りした。

そして、多目的教室の隣が―――



悠香「思ったより近くにあったね、職員室」


紗那「近くにあってくれて良かった・・・」


瑠璃「本当、それ」


悠香「うち、後で校内の見取り図的なもの描くね。マップはやっぱりゲームでも必須だから」


瑠璃「もう好きにして・・・」


悠香「それじゃあ失礼しま―――」



職員室の扉に手をかける。そのまま横に引いた時だった。

中から、真っ白い手が開こうとしていた扉にかかって―――



悠香「Σすぅ!?」



肩を跳ね上げ、両手で勢いよく扉を締め直した。

中にいたのが人間であるなら、手を挟まれたことで悲鳴を上げるだろう。しかし、そんな声は聞こえてこない。


それどころか、挟んだと思った真っ白い手が消えていた。



悠香「!?」


瑠璃「ビックリした・・・。何?どうしたの?」


紗那「悠香・・・?」


悠香「今の・・・見た?」


紗那「今のって?」


瑠璃「何か視えたの?」


悠香「手が・・・中から手が出てきたんだけど、消えてて・・・・!え、何あれ。怖い怖い!」


瑠璃「うち等はお前の盛大な反応が怖かったよ」


紗那「うん・・・」


悠香「何か・・・開けたらいけない気がする。何か、いそうな気がする。人間じゃない何かがいそうな気がする!」


瑠璃「分かった、分かったから、落ち着いて」


悠香「ドラえもんの歌熱唱していい?」


瑠璃「銀さんか!」


悠香「うちもう家帰りたい・・・」


瑠璃「さっきまでの意気込みはどうしたよ」


紗那「どうする?更衣室戻る?」


悠香「戻る」


紗那「瑠璃、」


瑠璃「ハァ・・・しょうがないね。戻ろっか」



























悠香「疲れた・・・。肉体的にも、精神的にも」



更衣室に戻って、鍵をかけるなり彼女は床に座り込んだ。



紗那「雨の中、山を登ったり、廊下走って階段駆け上がったりししたもんね・・・」


瑠璃「皆とはぐれるわ、変な黒いのと遭遇するわ、変な手形はあるわ、最後には手だっけ?色々キツイね、もう」


悠香「ちょっと休憩ー」


瑠璃「はいはい、お好きにどうぞ。

・・・あ、そうだ。悠香、さっき家庭科室で寒いとか言ってたけどもう大丈夫?走ったから温まった?」


悠香「ううん、まだ寒い。走っても、芯は温まらない感じって言えば分かるかな・・・?」


瑠璃「バスタオルでも被る?」


悠香「うん、そうする」



もそもそと動き、鞄から上着とバスタオルを取り出す。

上着を着てから彼女は窓側の壁に背中を預け、自分の体にバスタオルをかけた。



瑠璃「紗那は大丈夫?」


紗那「うん、私は全然―――」



平気。そう彼女が口にするかしないかの瞬間、外が光った。

次いで、大地を震わせる雷鳴が轟く。


キャアアア!!と、耳を劈くような紗那の悲鳴が更衣室に響き渡った。



瑠璃「うるさっ」


紗那「か、雷・・・雷がっ、」


瑠璃「うんうん、凄い音だったね。大丈夫、ここには落ちない。・・・・・・多分」


紗那「多分なの〜!?(泣」


悠香「雷・・・」


瑠璃「?悠香?」


悠香「・・・アノ時も、確か・・・・」


瑠璃「え?あの時って?」


悠香「―――へ?何の話?」


瑠璃「お前が言ったんでしょ。あの時って、」


悠香「そうだっけ?あの時って何だろ?」


瑠璃「いや、知らんし。頭、大丈夫?」


悠香「う〜ん・・・自分が思ってる以上に、さっきの手に動揺してるのかも(苦笑」


瑠璃「だろうね」


悠香「・・・でも、1人じゃなくて良かった。うち1人だけで皆とはぐれてたらどうなってたか分からないよ」


瑠璃「それはお互い様」


紗那「うん・・・私も、2人がいてくれて良かった。怖いけど、そこまで怖くないから。・・・・・雷は怖いけど、」


悠香「ごめん。うち、ちょっと寝るね。2時間位したら起こして」


瑠璃「こんなところでよく寝る気になれるね」


悠香「それがうちの凄いとこ(笑」


瑠璃「本当にね」


悠香「2人も、休める時に休んだ方がいいよ。この先、何が起こるか分からないんだし・・・」


瑠璃「それはそうかもしれないけど・・・全員寝るわけにはいかないでしょ。ここは公平にジャンケンで見張りを」


悠香「Zzz」


瑠璃「おい、早過ぎないか?」



バスタオルに包まって寝息を立てる悠香。

そんな彼女を見て紗那が笑う。



紗那「こんな時でも悠香は悠香だね〜」


瑠璃「らし過ぎて困るよ・・・。

紗那も寝ていいよ?見張りはうちがやっとくから」


紗那「え、いいよ。私、今の雷で眠れそうにないから・・・」


瑠璃「じゃあ2人で起きてようか」


紗那「うん」













――――――
――――――――――
――――――――――――――












スー、スー、という規則正しい寝息が2人の少女から聞こえる。



紗那「(瑠璃も何だかんだ疲れてたんだね・・・)」



眠ってしまった瑠璃に彼女は鞄から取り出したバスタオルをかける。

そのまま窓の外に視線を移す。あれから(悠香が眠ってから)2時間程経ち、雨も段々止んできていた。



紗那「皆は・・・大丈夫かな」



家庭科室ではぐれたくるみ達。

そして、2−1にあったボイスレコーダーから自分達よりも先に入って来ているであろう朱里達の身を案じる。



紗那「(未来と泰雅が来てくれたらなぁ・・・)」



窓の外を見つめ、彼女が1人でそんなことを考えている時だった。

部屋のドアが揺れた。



紗那「!」



誰かが廊下から開こうとしているのかガタガタとドアが揺すられる。



紗那「(誰・・・?)」



不安と恐怖で息を呑む。

ドアは尚も揺すられる。ガタガタ、ガタガタと。



紗那「っ・・・」



瑠璃と悠香を起こそうかと僅かに逡巡する。



紗那「(ダメだ・・・)」



唐突に、そんな思いが頭に浮かび上がった。


何故?

自分自身に問いかけるも理由は分からない。ただ、2人をここから出してはいけないという漠然な思いが過るのみ。



紗那「・・・・・・」


紗那「(そうだよね・・・。ここは、私1人で頑張らないと。

そうじゃないと、また“あの時”みたいに―――・・・)」


紗那「あの時・・・?あの時って・・・・いつだっけ?」



遠い昔のような気もするし、そうでもない気もする。

頭の中に灰色の靄のようなものがかかって、上手く思い出せない。



紗那「(まぁ、どうでもいいか・・・)」



フッ、と微笑を浮かべ、覚悟を決める。

揺れるドアに1歩、また1歩と近付き、彼女は―――








鍵を開け、廊下側から勢いよく開かれたドアの向こうに突撃した。












To be continued...
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