奇奇怪怪

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和則「もう大丈夫だ。もう雷は止んだ」



穏やかなその言葉を受けて、悲鳴を上げて蹲っていたくるみは顔を上げる。


どことなく引き攣った顔をした和則の顔が1番最初に見えた。その次に、廊下に面している窓の手形と血文字が目に入った。

幻覚ではなかった。



くるみ「っ・・・」



悍ましくなり、彼女は自分の肩を抱きしめる。


和則も黒板の字や窓の手形と血文字に少なからずダメージを受けているのかもしれない。青ざめた顔をしている。

それでもくるみに心配はかけまいと、その顔に無理に笑顔を浮かべていた。



和則「いやぁ・・・鳥肌がスゲェの何のって。ビックリだよな」


くるみ「・・・ごめんね」


和則「え?」


くるみ「元はと言えば・・・うちが悪いんだ・・・・」


和則「?お前はさっきから何の話を・・・」


くるみ「こ、の文字はっ・・・その手形は、きっと・・・・きっと、うち等みたいに、ここに閉じ込められた子達が・・・やったんだ」



肩に痛い程爪を喰い込ませ、途切れ途切れになりながらも彼女は必死に言葉を繫いでいく。

その瞳から、次から次へと涙が零れ落ちていった。



くるみ「ここにっ・・・閉じ込められて、死んだ子達・・・・。諦めた子達・・・」


和則「、」


くるみ「ここは、異常なの・・・!

うち・・・うちっ、知ってたら・・・・皆をこんなとこに誘わなかった・・・!」


和則「(誘う・・・?)」



今の言葉を受けて、和則は眉を寄せた。


最初にこの建物に入ろうと言ったのは彼女ではなかったはずだ。確か、慎司だったはず。

彼女はどちらかと言うと乗り気ではなかったように思える。



和則「くるみ、お前・・・ショックで記憶が滅茶苦茶になってるんじゃないか?探検しようって言い出したのはお前じゃないだろ?」


くるみ「違うっ・・・今回は、そうだけど・・・・・違うの」


和則「(今回は・・・?)」


くるみ「1番最初はうちなの・・・!あの時は皆で・・・・朱里と、拓篤と華澄と楓も一緒に11人で入ったの・・・!」


和則「1番最初・・・?11人・・・・?は?何言ってんだよ、」


くるみ「あの放送が鳴って・・・変な黒いのに襲われて・・・・・皆、バラバラになっちゃった・・・!

一緒に逃げてた悠香も!楓も!―――あの黒いのに殺された!!」


和則「!?」


くるみ「うちがっ・・・戦えるうちが守らなきゃいけなかったのに・・・・!死なせちゃった・・・!」



ごめんなさい、と。

彼女は小さな子供のように泣き叫んだ。


これこそが彼女が隠していた事なのだろう。

1人で溜め込んでいたものが堰を切ったように彼女の口から涙と一緒に溢れ出していく。



くるみ「皆を・・・見付けられなかった・・・・!

今度こそ・・・皆と逸れないようにしようって・・・・何があっても守ろうって、思ってたのに・・・うちはまた、同じことを繰り返してる・・・・!!失いたくないのにっ・・・!!」


和則「・・・くるみ、」


くるみ「どうしよう・・・!皆がまた死んじゃったらどうしよう・・・・!」


和則「落ち着け、くるみ!」



蹲っているくるみの前で膝を付き、彼女の肩を揺する。

しかし彼女は顔を上げなかった。涙を流し、しゃくりあげ、嗚咽を漏らしながら「ごめんなさい」と謝り続けるだけ。


彼女が言っていることの半分も和則は理解出来ていない。理解出来ないながらも、彼は諭すようにこう言った。



和則「それでもまだ・・・―――お前は諦めてないんだろ?」


くるみ「!!」


和則「諦めたくないんだろ?」


くるみ「う゛ん・・・!うん・・・・!!


和則「だったら足掻こう。アイツがよく言ってるだろ?足掻いて足掻いて足掻きまくれば―――」


くるみ「大抵のことはっ・・・ぐすっ、何とか、なる・・・・」


和則「そうだ。だから、教えてくれ。この学校の中で何が起こってるのか。俺達の身に何が起こってるのか」



暗闇の中で1人震え続けていた少女。

失いたくない、失いたくないと、もがき苦しんでいたその少女が涙を拭う。


何とかなる、心の中で自分自身にそう言い聞かせると不思議と胸が軽くなった。


彼女の顔つきが変わったのを見て、和則は立ち上がり、近くにあった椅子を2つ引いた。

1つにくるみを座らせ、もう1つに自分も腰を下ろす。


くるみは深呼吸を何度か繰り返し、呼吸を落ち着かせていた。

最後に軽く鼻を啜り、咳払いを1つ。



くるみ「えっと・・・どうしよう。どこから説明すればいいかな・・・・?」


和則「俺に聞かれても困る」


くるみ「カズは・・・さっきも聞いたけど・・・・やっぱり、何も憶えてない?」


和則「それが何の話か分からない=何も憶えてないってことなんじゃないのか?」


くるみ「そうだね・・・」


くるみ「(説明していけば、思い出すこともあるかもしれないし・・・)」


くるみ「じゃあ、1から説明していくね。

理解出来なかったり、信じられないかもしれないけど・・・今から話すことは全部実際起こった話、実際起こってる話だよ。そこは納得して」


和則「分かった」


くるみ「実はね・・・うち等がこの廃校に来たのは今回が初めてじゃないの」


和則「そこからもう意味が分からん」


くるみ「皆、憶えてないだけ、忘れちゃってるだけ。さっきの朱里の録音で分かった。あの黒板の正の字の意味・・・。

あの録音がされたのは9回目か10回目。今のうち等はもう、12回位繰り返してるんだ」


和則「繰り返してる?何を?」


くるみ「林間学校で、この山に登る時から何度も・・・何度も。ここに入って、閉じ込められて、殺されてを繰り返してる」


和則「!?」


くるみ「事の始まりは急な雨から。雨の中で見付けたこの廃校に避難した。そこはいつも変わらない・・・。

1番最初は11人一緒にここに来たんだ。なかなか雨が止まないから、時間潰しに中を探検してみようってうちが言い出したのがきっかけ」


和則「泰雅と未来は・・・」


くるみ「バスで酔ってペンションでダウン。あの2人は1度も来たことがないと思う。来てたら・・・こんなに繰り返してない」


和則「・・・・・・」


くるみ「最初は本当に何も知らなかった。

中を全部探検し終わったら雨が止んでるかもしれない、止んでなかったら昇降口で待ってようって話になってノリノリで探検してたんだけど・・・あの放送が鳴って、」


和則「不審者放送か・・・」


くるみ「うん。録音の中の朱里達が遭遇したのと同じモノ・・・黒い化物?みたいなのが現れて、うち等を襲ってきた。

とにかく怖くて、何が起きたのか分からなかった。誰かの「逃げろ」って声でバラバラに散って・・・うちは悠香と楓と一緒にはぐれた他の皆を探した」



だけど、とそこで彼女は言葉を途切れさせた。

彼女の瞳が潤んでいる。


和則は無理に続けさせようとはせず、じっと彼女が話し出すタイミングを待っていた。


震える唇をきつく結び、くるみは自身の左腕に爪を喰い込ませる。悲しみを痛みで塗り替える。



くるみ「だけど・・・また放送が鳴って、あの黒いのと遭遇しちゃった・・・・!うちは、悠香と楓を守れなかった・・・!!

なのにっ・・・なのに、楓は逃げろって・・・・!皆を見付けて、ここから出ろって・・・!」


和則「っ・・・」


くるみ「泣きながら走ったよ。泣きながら皆を探した。色んな教室を探したけど、見付からなくて・・・最初に襲われたところに戻ったら拓篤がいた。でも、もう・・・息してなかった・・・・!

最初に逃げろ、って皆を逃がしたのは拓篤だった。拓篤が、1人残ってあの黒いのを引き付けてくれてたんだってその時になって分かったの・・・っ」



血を吐くような顔で、苦しそうに、辛そうに、悲しそうに。

彼女は言葉を続けた。



くるみ「悲しかった・・・!辛かった・・・悔しかった・・・・色んな感情がいっぺんに溢れてそこで泣くことしか出来なかった。

ずっと泣いてたら、いつの間にか校舎が消えて真っ暗な世界に1人でいたの」


和則「真っ暗な世界・・・?」


くるみ「うん。その時はうち、もう・・・正気じゃなかったから記憶も曖昧だけど・・・・声が聞こえてきたんだ」


和則「声?」


くるみ「誰の声かは分からない。性別も年齢も・・・。その声が、言ったの。「もう出てもいいよ」って―――」











耳に、脳に響いた言葉に今まで泣いていたくるみは「は・・・?」と声を上げた。

意味が分からなかった。理解出来なかった。


ずっと泣いていたせいで喉が嗄れて上手く声が出せない。何とかか細い声で彼女が尋ねる。



くるみ「皆は・・・?



“もういない。生き残ったのは君だけだ”



くるみ「!!」



“だからもう出てもいい”



くるみ「何・・・それ・・・・。ふざけんな・・・。

出られるわけ・・・ないよ・・・・。皆残して・・・うち、1人だけ?―――ふざけんなよっ!!」



止まっていた涙がまた流れ落ちる。

彼女は真っ黒な地面を力の限り叩いた。



くるみ「―――してよ・・・!皆を、生きて返してっ・・・・!!何だって、するから・・・!!」



“生き残ったのにか?”



くるみ「うち1人が生き残ったって意味ない・・・!皆がっ・・・・いないと・・・!だから、返せよぉ・・・・!」



“・・・なら今度は上手くやることだ。―――君の記憶だけは残しておく”








くるみ「―――気付いた時には、うちは行きのバスの中にいた。最初は夢かと思って、山に登ったけど、また雨が降って・・・・ここに辿り着いた。

その時は11人じゃなくて、うちと瑠璃と健矢とカズの4人だった。うち、今度は絶対に探検しようなんて言わなかった。

3人を連れて雨の中、引き返そうとしたの。だけどそこで・・・」


和則「何かあったのか?」


くるみ「軒下に、傘があったの・・・。朱里達の傘。うち等が辿り着く前に、朱里達がここに来て雨宿りしてたんだってすぐに分かった」


和則「そして中に入ってた」


くるみ「うん・・・。2回目までしか憶えてないけど・・・・うち等11人は、必ずこの廃校の中に入るんだ。組み合わせを変えて、必ず」


和則「だから朱里の録音に健矢と悠香の声が入ってたのか・・・」


くるみ「だと思う。2回目は、探検をしつつ・・・うち等は先に入った朱里達を探してた。

でも、なかなか見付からなくて・・・やっと紗那を見付けたと思ったら、拓篤が傍で亡くなってた」


和則「!」


くるみ「泣き喚く紗那から何とか話を聞き出したら、1回目の時みたいに7人はあの黒いのに襲われてバラバラになってたんだ。

夢と同じだけど、夢と違う状況。時間が巻き戻ってたんだ、って気付いた時にはもう何もかも手遅れだった。2度目に行った1−1教室で、華澄が冷たくなってた。

音楽室で・・・悠香が動かなくなってた・・・・!皆パニックになって、はぐれて・・・うちは、慎司と合流出来たけど・・・・」



カタカタと震える体。

その体も、ちゃんと当時のことを憶えている。


そして、彼女は衝撃的な事実を口にする。












くるみ「―――後ろから刺されたんだ」














和則「え・・・?」










To be continued...

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