秘密を守れますか?U
□◆追憶の迷宮
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「―――やっと見付けた」
ある嵐の日、1人の少女はそう言った。
薄暗い部屋で明かりも点けず、1つの巻物を広げて床に座り込んでいた。
彼女の胸が高鳴る。
内心の興奮を抑えきれず、嬉々とした顔で広げた巻物を持ち上げる。
「これさえあれば・・・」
ドタドタという階段を駆け上がる音が部屋の外から聞こえてくる。
足音が近付いてくる。
そして、外からやって来た誰かが、勢いよくドアを開いた。
「―――、よせ!アイツはそんなこと望んでない!」
しかし、少女は顔だけ振り返らせ、静かに言った。
「私が望んでいるのですわ」
巻物を再び床に置き、
「禁術に触れてでも私は―――」
ゆっくりと印を結んだ。
「私は―――――の傍にいたい!」
雷が落ちる轟音と共に、彼女はそう叫んだ。
――――――
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未来「―――え・・・?」
後ろから自分の右肩に深々と突き刺さっている白光する槍のような矢。
それを見て、彼女は間の抜けた声を発する。
突然のこと過ぎて、思考が全くおいつかない。
未来「(え?え??何だ、これ?何だこれ??
刺さってんのに痛くねぇ・・・。それとも、また俺の痛覚が鈍いのに戻っただけ?)」
意味が分からないその状況にただただ疑問符を浮かべるしかない。
近くで彼女の体に矢が刺さった瞬間を見た〈選り人〉のダグとアヤメは、目を見開いて驚き・・・
ダグ「おい、お前・・・!その矢―――!」
未来「あぁー、なんか痛みはねぇからダイジョーブっぽい」
未来「(ってか、どっから飛んで来たんだ・・・?)」
後ろを振り返っても、矢を放った者はおろか・・・人一人見当たらない。
彼女はとりあえず左手でその矢を抜こうと試みる。
が、いくら力を入れてもソレが抜ける気配はない。
そもそも、この矢は本当に体に刺さっているのか、という疑問すら出て来る。
人為らざるもの、犬神となっていた時のダグに噛まれた右腕、未だ血を流し痛みがはしる腕を無理矢理動かして、
今度は両手で矢を抜こうとする。
未来「ふぬー!」
「抜けねぇよ。俺以外の奴にはどうやったって抜けやしねぇ」
未来「、」
ダグ・アヤメ「「!」」
社の中に響く声。
近付いて来る足音。
3人がいる薄暗い間(ま)にその主はやって来る。
腕には草隠れの額当て、腰まである長い金髪に長い睫毛、細い体。
一見すると、少女にも見える少年・・・
未来「確かお前・・・海岸にいたな」
飛雷神の術で船を海岸に落とした時、影分身の自分は確かに彼を見ていた。
やって来た彼・・・チエミに馨(かおる)と呼ばれていた彼は、その言葉を受けて微笑する。
馨「やっぱりあの船はお前の仕業か」
未来「何の用だ?〈選り人〉は見ての通り元の姿に戻ったぞ。他の〈選り人〉3人もそうだ。
残ってるのは1人。行くならそっちだろ」
左手に〈神器〉である刀を構え、近くにいるダグとアヤメを庇うように立つ。
それを見て、馨は肩を竦めた。
馨「安心しろ。確かに〈選り人〉?とかいう化物を奪えっていう依頼は受けてるけど、俺の狙いはそいつ等じゃねぇ」
未来「俺か」
馨「そ、お前だよ」
未来「尚更何の用だ」
馨「最初は我愛羅とかカンクロウとかでもいいと思ってたんだ」
未来「!お前・・・〈参加者〉か」
草隠れの忍が、国の違う砂隠れの忍・・・しかも下忍である我愛羅やカンクロウのことを知っているはずがない。
だから、瞬時にその答えが導き出された。
言い当てられた馨は内心の驚きが隠せないという風に目を丸くする。
馨「・・・お前も俺と似たような存在か?でも、〈参加者〉ではねぇな」
馨「(だとするとこいつが・・・―――お邪魔キャラか?)」
未来「何でそう言い切れる?」
馨「分かるさ。この島に来たお前等を・・・お前をずっと見てたんだからな」
未来「ストーカーかよ」
馨「あの女みてーな男とオレンジの服の女も結構よかったぜ」
未来「お前が女みてぇとか言うなし」
馨「けど、我愛羅やカンクロウには劣る。そしてあの2人もお前には劣る」
未来「何が言いてぇ?」
馨「まだ分からねぇか?」
瞬間、
未来「!!」
ゾグンッと体中が粟立った。
目の前にいる金髪の少年が〈参加者〉だと理解したところで、彼女は気付いていなければいけなかった。
自分の右肩に刺さっている矢が、彼の〈能力〉に関係するナニカだということに。
未来は矢を見る。
薄く白光しているソレ。しかし、自分の肩から流れ出るように、ナニカ・・・黒いものがその矢を侵食していく。
それは前に行った世界、〈REBORN!〉の世界で体験した〈災厄を齎すもの〉と同じようで、真逆のもの。
ナニカ、黒いものが体に入り込む感覚ではなく、体から抜かれる感覚。
未来「(まずい・・・!)」
目の前の少年の〈能力〉の全てを理解したわけではない。
だが、その現象が何を意味するのかは理解することが出来た。
だからこそ、
馨「ん?」
彼女は残り少ないチャクラで瞬時に影分身の印を結び、
未来「皆に伝えろ!」
己の分身4人に飛雷神の術を使わせ、それぞれの場所へ向かわせた。
ザワザワと、凍り付くような悪寒が彼女の背筋を震わせる。
脈拍が急に早くなり、心臓がうるさい程鳴り響く。
これも、前の世界で体験したことのある現象。
白かった矢がどんどん黒に染まっていく。
その侵食を止めるように未来は自身の右肩を強く強く掴んだ。
アヤメ「矢が・・・!」
ダグ「(どうなって・・・!)」
ダグ「お前・・・そいつに何をした!?」
馨「俺の矢は普通の人間には効かねぇ。けど、こいつみてーな奴等には効果覿面なんだ」
そう言って、彼はゆっくり未来に近付く。
後少しで真っ黒に染まる矢に手を伸ばす。
その矢を抜けるのは彼だけ。そう彼自身が言っていた。
だから、
未来「っ・・・ダグさん、アヤメちゃん・・・・」
ダグ・アヤメ「「!」」
矢に触れられる前に、矢を抜かれる前に彼女は、
未来「絶対結界から外に出るな!絶対だぞ!!」
己の内から溢れ出すモノにガタガタと震え、冷や汗を流しながら2人にそう言った。
そして、矢に触れられると同時に―――
未来「テメェと俺はこっちだ」
馨「!?」
飛雷神の術で、とある場所へ飛んだ。
一方、本体よりも先に飛雷神の術を使った未来の4人の影分身は、
バキ、カンクロウとテマリ、海斗、瑠璃と我愛羅とリノがいる4つの場所へそれぞれ飛んでいた。
そして彼女達は別々の場所で彼等に本体の彼女と全く同じことを伝える。
未来(影分身達)「「「「絶対結界から外に出るな!絶対だぞ!!」」」」
リュイ「!?」
バキ「どういうことだ?」
カンクロウ「は・・・?」
テマリ「え・・・?」
海斗「それは一体・・・。というか、その矢は何なんです?」
我愛羅「?」
リノ「結界から・・・?」
ネコ「ニャフ?」
瑠璃「何で?」
未来(影分身達)「「「「結界から出なけりゃ多分ダイジョーブだ。
俺は少し出遅れるかもしれねぇけど・・・皆は任務を遂行してくれ」」」」
瑠璃「未来・・・?お前、何か震えて・・・・」
ネコ「・・・、」
そこで影分身の彼女達は同時に笑顔を作る。
本当に今にも崩れ落ちそうに、それでいて決して人に心配はかけないような笑顔を顔面に貼り付け、
未来(影分身達)「「「「ダイジョーブだ。・・・ダイジョーブに決まってる」」」」
まるで自分自身に言い聞かせるようにそう言って、
ボフンッ!
と音を立てて、それぞれの場所で同時に消えた。
瑠璃「ちょっ・・・!言うだけ言って勝手に消えないでよ!もっとちゃんと説明を―――」
未来の影分身が消えた虚空に向かって、彼女がそう言おうとした
瞬間のことだった。
ボウッ!!
と、凄まじい音を立てて爆発的な炎が遠くで上がった。
この島にあるもの全てを焼き尽くさんばかりの爆炎。
その炎は結界のすぐ近くまでやって来る。
最初に熱風が島を覆う氷の表面を削り、その後にやって来た火焔が完全に氷を溶かす。
――泡隠れの里で・・・
ザウリ「な、何だ、あの炎は・・・!?」
ロイ・レイ「「火事だーーー!!」」
ハヅキ「まさか、これも・・・あのカエナとかいう子の仕業?」
里の内部に隠された2つの祠を探していた彼女達は、結界の向こうに見える業火に驚いていた。
冷静に状況を分析しようとするハヅキの傍で、彼女の孫である双子が騒ぐ。
ロイ「お婆ちゃん!火事だよ!火事!!」
レイ「守らなきゃ!書庫室を守らなきゃ!」
双子「「―――“お姉さん”と“私”の約束を守らなきゃ!!」
そう言って、彼等はその書庫室へ向かって駆け出す。
ザウリ「ロイ!レイ!待―――」
ハヅキ「いいの」
ザウリ「ハヅキ様・・・?」
ハヅキ「あの子達にあの話をしたのは私だから・・・」
ザウリ「?」
ザウリ「(あの話・・・?)」
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