番外編
□秘密の日常
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――AM.4:30、
〈風花家〉
カンッ!カンッ!
ダッ!ダッ!バゴンッ!
未来「ッフー・・・」
日も昇っていない早朝、彼女は自宅の中庭で日課のトレーニング・・・という名の修業をしていた。
松の木の枝に縄で吊るした30cm程の数十にものぼる竹。
それをそれぞれ長さの違う両手の竹刀で打ち込む修業が今終わり、彼女は次の修業に移ろうとする。
と、その時・・・
「朝っぱらからカンカン、カンカン・・・近所迷惑だって何度も言ってんだろ」
同じく朝のトレーニング・・・否、稽古をしていた2つ上の兄が帰って来た。
言われた未来は、マスクを持ったジャージ姿の彼を一瞥して・・・
未来「うっせぇ。朝っぱらから蛍光タスキなしで公道走りやがって・・・。通勤車のメーワクだって何度も言ってんだろ」
兄「ハッ、残念でしたー。今日は忘れずちゃんとしてましたー」
と言って、彼はポケットに入れていた(隠していた)タスキを見せる。
その瞬間―――!
兄「っ!」
彼の顔面スレスレに矢が飛んできた。
飛ばしたのは勿論、次の修業に移ろうと弓と矢を手にしていた実の妹。
兄「おまっ・・・!今、明らか眼球狙ってただろ!」
未来「やっぱ的は動く方がいいよなー(笑」
などと笑って言って次々に矢を放つ。
兄は飛んできた数本の矢を全て避け、彼女に向き直る。
その顔は真剣そのもの。
微かな殺気と共に、彼は静かに尋ねる。
兄「・・・やるか?」
未来「やらいでか」
彼女は持っていた弓と矢を松の下へ。
兄は着ているジャージの上を傍に脱ぎ捨てる。
そして、家の中から聞こえてくる一定のリズムの木魚の音を合図とばかりに、2人は地を蹴った。
手数とスピード重視の未来の攻撃は当たるが、兄に大したダメージは与えられない。
正確さとパワー重視の兄の攻撃は急所に当たらないが、未来の手数を減らす。
地面に綺麗に敷き詰められた砂利が2人の動きによって辺りに飛び散る。
兄「も・・・らったぁ!!」
未来「くっ・・・らうかぁ!!」
2人の勝負がヒートアップしそうになった、正にその時!
「朝から洗濯物を増やすなぁ!!(怒」
ゴィ―――ン!
突然窓を開けて現れた人物が、両手に持っていたフライパンを未来と兄の頭に叩き付けた。
兄「がっ・・・!」
未来「っ・・・ぉ母さん、いくら僕が石頭だからってフライパンはねぇと思う」
兄「俺は・・・石頭じゃないんで・・・・手加減プリーズ・・・」
母「組手なら旧館の方でやりなさいって毎日言ってるのに、言うこと聞かないあんた等が悪い。
飛龍、あんたは未来より早く出なきゃいけないんだから、さっさとシャワー浴びて朝ご飯食べな。もう5時回ってるよ」
飛龍(兄)「い゛っ・・・マジで!?」
母「ついでにお父さん起こして、お風呂掃除もよろしく」
飛龍「ハァ・・・分かったよ」
肩を落として玄関の方へ行き、お経が聞こえてくる家の中へ入って行く。
その背を見送った未来は笑う。
未来「フッ、ざまぁ」
母「未来、あんたは散らかした弓矢と竹刀、薙刀を片付けて、砂利を綺麗にしなさい」
未来「うげー・・・」
母「〈うげー〉じゃない。ほら、分かったらさっさとやる」
未来「ふぁ〜い」
竹刀や弓矢、薙刀などを片付けようとすれば、窓からもう1人の人物が出て来る。
祖母「お嬢ー、昨日言ってた通り、お婆ちゃん、友達の家に行くから夜の7時半に来る佐藤さんの着物の着付けよろしくね」
未来「ふぁ〜い」
軽く手を挙げてそれに応え、家の中から聞こえてくる祖父のお経を聞きながら片付けを開始する。
木魚の音と一緒に、流れるメロディのように耳から入ってくるお経。
それが何故か止まった。
同時に、ゲホッ、ゴホッ、という咽るような声が聞こえてきた。
未来「!クソジジイ!また仏さんのお供え物食いやがったな!!」
祖母「お嬢!〈クソ〉なんて女の子がそんな汚い言葉使わないの」
母「お義母さん、〈ジジイ〉って方はいいのね・・・(苦笑」
風花家の朝は、大体こんな感じ(笑
――AM.6:30、
〈篠原家〉
海斗「え・・・じゃあ、今日お客さん来るの?」
2つの弁当箱にご飯を詰めながら、
丸いちゃぶ台がある居間に座って自分達のシャツやハンカチのアイロンがけしてくれている祖母に尋ねる。
祖母「えぇ、そうなの。海斗も小学生の時に会ったことがあるんだけど・・・憶えてない?久子ちゃんっていう人」
海斗「えっと・・・確かお婆ちゃんの同級生の?」
祖母「そう。私の親友」
祖父「久子ちゃんとばーさんは学校のマドンナだったんだぞ、海斗」
同じ居間で新聞を読んでいた祖父が話に入ってくる。
何でも、そのマドンナの久子という女性を落としたのが2つ上のおかしな先輩だったとか、
自分は久子という女性とお婆さんの2人に告白して何度もフラれたとか・・・。
昨日のことのように自分達の青春時代を語る祖父。
それを聞きながら、海斗は朝ご飯をちゃぶ台の上に並べていく。
祖父「海斗、お前も好きな子がいるならビシッと決めて、男を見せんといかんぞ」
海斗「Σなっ・・・!」
あまりの唐突ぶりに、ちゃぶ台の上に置こうとしていた湯呑みを落としそうになる。
海斗「ど、どうしてそういう話になるの!?」
祖父「?何だ、好きな子がいるから合気道を始めたんじゃないのか?」
そう。
1年前、トリップして元の世界に戻って来てすぐ、海斗は合気道を習い始めた。
これからの為に、多少の力をつけておいた方がいいと判断したためだ。
しかし、習おうとした理由は好きな子が出来たからだと祖父母は考えていたようで(あながち間違いではないのだが)、
2人は不思議そうな顔をして海斗を見た。
海斗「い、色々あるんだって・・・。
それより、その久子さんが来るなら買い物しなきゃだね。学校帰りにスーパーに寄ってくるよ」
祖母「あら、いいのよ。海斗、今日稽古でしょ?
私がスーパーに行って買って来るから大丈夫。晩御飯も私が作るわ」
海斗「・・・分かった。ありがとう」
微笑んで礼を言えば、つられて祖父母も笑った。
そんな穏やかな時間が流れている居間とは対照的に、2階ではドタバタと人が動き回る音がしていた。
妹の声「兄さまのバカー!!どうして起こしてくれないの!?」
祖父「アッハッハ。今日も元気だな」
海斗「もう小学生じゃないんだから・・・(呆」
妹の声「今日、朝練あるって言ってたのに〜〜〜!!」
海斗「(だったら自分で起きる努力をしなよ・・・)」
篠原家の朝は穏やか7割、騒がしさ3割。
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