Ver.黒曜・リング編

□終わりの終わり
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理由なんて、1つも考えたことはなかった。








言い訳なんて、1つも考えたことはなかった。












自分の大切な人を助けるために、

いちいちそんなことを悩まなくてはならないほどに、落ちぶれたつもりはなかった。







だから、







「僕、頑張るよ・・・。

何があっても、どんなことになろうとも、君をここから出して、連れて帰るから・・・」







ある1人の少女はその日、1つの誓いを立てた。


少女はその日、






「待ってて。全部終わらせて、僕が戻って来るまで・・・。

必ず、必ず生きて、ちゃんと戻って来るから・・・・だから、」







棺桶を思わせる1つの冷凍保存装置の前で、






「だからっ・・・!全部上手くいったその時には・・・・―――目を覚まして、マヤ」






願い、請うた。


そして、






「目を覚ませば、きっと驚くようなことがそこで待ってるよ」






少女はその日、






「・・・じゃぁ、僕はもぅ行くね。

君達を・・・
















―――君を潰した世界をぶち壊してくる」











1人、たった1人で世界に戦いを挑んだ。








「その為なら、ふざけた死神にだって、ふざけたピエロにだってなってやるよ」











――――――
――――――――――
――――――――――――――












未来「1ヶ月ぶり・・・か」



現地時間、午後3時27分。

場所はイタリアの隠れた孤島―――絶望の島、ユピテル。


そこに復讐者(ヴィンディチェ)の炎でやって来た少女、風花未来は感慨深げに辺りを見渡す。



未来「変わりがねぇようで安心したよ。

ホントーに本格的に島守の役目を放棄してたら、さすがの死神ピエロさんもこの宝石(災厄を齎すもの)に身を委ねてたよ」


ディック「〈災厄を齎すもの〉の脅威を知ってる未来なら、いつか必ずここに戻って来るって思ってたからね。

特に今の島の守りは厳重だよ。ファミリーの皆が島の四方に散って結界を張ってるから」


未来「5代目じゃなくて、お前が手伝ってくれるのか?」


ディック「うん。皆には言ってなかったんだけど・・・3日前、僕が6代目に就くことが正式に決まったんだ」


未来「いちぉーおめでとー?めでてぇのかは分からねぇけど・・・」


ディック「アハハ、一応ありがとう」


未来「そいじゃ、そろそろ始めよーぜ。俺も限界が近い」


ディック「分かった」









「何を始めるんですか?」









未来「何ってそりゃこの宝石(災厄を齎すもの)の封―――あり?」



突然後ろから聞こえてきた第三者の声に、未来とディックは顔を見合わせ、揃って目をパチクリ瞬かせる。

そして2人は、先程聞こえてきた言葉を頭の中で反芻させる。


該当する声の主はただ1人。


本当にその人物がここにいるのかと、半信半疑なまま2人は後ろを振り返る。

未来は、出来れば幻聴であってほしいと思いながら・・・







しかし、







未来「何で・・・」





現実は、彼女の望んでいないことばかりを実現させる。





未来「何でここにいるんだ・・・―――海ちゃん」











   ◇  ◇  ◇












理由なんて、1つも考えたことはなかった。








自分のやろうとしていることが、間違いだとは微塵も思わなかった。












自分の大切な人の傍に行くために、

いちいちそんなことを悩まなくてはならないほどに、落ちぶれたつもりはなかった。







だから、







「そうじゃなきゃ、あいつはお前達の前から何度も消えるぞ。何度も消えて・・・最後には、戻って来ない。

手遅れになる前に、しっかりその手を握り締めていないとな・・・」







少年はその日、ある1人の少年の言葉を思い出した。


少年はその日、






「だから、万に一つの失敗もなく、何もかも・・・ゼッテーに成功させてやるから、



―――お前等は何も心配しなくていい」







今にも消えてしまいそうな1人の少女の前で、






「(もう僕には、待ってることなんて出来ない・・・!)」






拳を固く握り締めた。


そして、






「(行かなきゃ・・・)」






少年はその日、






「(それがあの人の望んでいることじゃないとしても・・・。

あの人に・・・














―――嫌われたとしても)」









1人、たった1人で世界と戦っている少女の味方になる道を選んだ。






「(あの人と同じところに立つためなら、同じものを背負うことが出来るなら・・・何だってするよ)」











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海斗「(ここは・・・?)」



とある場所に辿り着いた少年、篠原海斗は初めて見る景色に眉を顰めた。

少し先には、何かを話している2人の少年少女がいる。


島守、死神ピエロ、災厄を齎すもの、6代目、などといった様々な言葉が聞き取れた。


そして、話しをしていた1人の少女が、何かを決意するように言った。



「そいじゃ、そろそろ始めよーぜ。俺も限界が近い」



すると、彼女と話していた1人の少年がその言葉に頷く。



「分かった」



そこで海斗は確信した。


〈彼女〉はまた、自分達の知らないところで、自分達の知らない何か危ない無茶をしようとしているのだと。




だから、





海斗「―――何を始めるんですか?」





それを知る為に、彼は声を出した。

その声は思いの外、よく通った。


彼の質問に1人の少女は普通に答え始める。



「何ってそりゃこの宝石(災厄を齎すもの)の封―――あり?」



途中になって気付いたのか、話していた2人の少年少女の時間が止まる。

1、2秒してようやく、その2人はこちらを振り返った。



「何で・・・」



振り返り、自分を見た少女は案の定、悲しそうな顔をした。






「―――何でここにいるんだ・・・海ちゃん」






〈彼女〉は、とても・・・とても悲しそうな顔をした。

それは、いつものポーカーフェイスがウソのように・・・。



海斗「っ、」



予想していたこととはいえ、自分が〈彼女〉をそんな顔にさせたのだと思うと、胸の奥が締め付けられるように痛んだ。


それでも、彼はその痛みを隠し、口元に微笑を浮かべて言い放った。








海斗「追いかけて来ちゃいました」








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