Ver.黒曜・リング編
□Red Scare
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ガイオ「がっ・・・ぐっ、」
たくさんの弾丸を受けた彼は、屋上に仰向けに倒れ込んでいた。
体を動かそうにも、脳から送る電気信号が各部に受けた損傷で遮断される。
鉄の体も、そのなかの導線も・・・ほとんどが〈分解〉されていた。
ガイオ「(俺は・・・負けたのか?)」
唯一動く視線を辺りに彷徨わせれば、所々から煙が立ちのぼる屋上で1つの生体反応を見付ける。
すぐに彼女だと分かった。
だが、己の目が捉えた彼女を見て、彼は大きく目を見開いた。
彼女・・・風花未来はその場に膝をつき、口から大量の血を吐き出していたのだ。
そこで、自分の中のデータが告げた。
彼女の脈拍が弱まり、呼吸が薄くなっていることを・・・
ガイオ「おい、ウソだろ・・・お前、」
仰向けの状態で、血を吐き続ける未来を見る。
とても、驚いた表情で・・・
未来「ぐっ・・・あ゛ぁ?体内から血が出んのが、そんなに不思議か?吐血なんてする奴はするだろ・・・・」
ガイオ「いつからそんな体で・・・。限界なんてとっくに超えてる、いつ壊れてもおかしくねぇ体じゃねぇか。
いや、お前はもう既に死にかけてっ・・・!」
未来「あのなぁ・・・死神ピエロさんはホントに〈死神〉なんていう不死じゃねぇんだよ。
お前等みてーな鉄の体を持ってるわけでもねぇ。もう1度言っとくけど、俺はただの、人間だ。
それで世界中のマフィアに、世界中の人間にケンカ売ってんだからよ、どっかで頑張んなきゃいけねぇのはトーゼンだろ」
彼女は立ち上がろうとしているのか、左手と足に力を入れる。
しかし、膝が震えて上手く立つことが出来なかった。
そして再び、口から血を吐き出すのだ。
ガイオ「頑張る・・・?それはもう頑張るって言わねぇ。それは無茶って言うんだろーが」
未来「ゴホッ・・・いやいやいや、俺にとっちゃちょっとの頑張りなんよ。痛みなんてお前が気にすることじゃねぇ。
俺って生き物は、目的や目標の為ならそーいうのはどーでもよくなっちまうんだ」
ガイオ「イカれてやがる・・・!」
未来「あぁ、知ってる」
ガイオ「自分の魂を差し出した姉ちゃんよりも、自分の体を鉄に変えた俺よりも・・・テメェはイカれてる!
鼻と口を塞げば簡単に死ぬ生身の人間が、何でそこまで・・・」
未来「手が届いたからだよ」
何でそんなおかしな質問をしてくる、と言いたげに彼女は答える。
未来「ホントにどう足掻いても、どう頑張っても不可能ってものなら諦められた。でもさ、俺の場合は違ったんよ。
1つ1つ乗り越えてったら、積み重ねていったら、ぜーんぶ可能になっちまうんだ」
血を左袖で拭い、彼女は両手を挙げてお手上げのポーズをする。
自分に呆れているように、自分を嘲るように、自分に嫌悪するように・・・
未来「そりゃまぁ、多少の危険はあるけどさ・・・。俺はそーいうスリルが好きだからそれも問題じゃなかった。
ちょっと頑張って手を伸ばせば届くんだ、関節でも外せば手は届くんだ、勢いつけて頭から飛び込めば手は届くんだ。
わざわざ誰かに取ってもらう必要なんてねぇだろ?」
笑う、彼女は笑う。
疲れたように、力なく笑う。
◇ ◇ ◇
瑠璃「勝った・・・んだよね?未来が、勝ったんだよね?」
希「多分・・・」
獄寺「やりやがった・・・」
紗那「じゃ、じゃあ、あの〈災厄を齎すもの〉とかいうのは全部・・・」
ディック「うん、未来のものだね」
洋一「勝負はついたんだし、もう迎えに行っていいよな?」
彼にそう尋ねられた復讐者(ヴィンディチェ)が、返事を返そうとすれば・・・
ザワッ――
ツナ・希・ディック・XANXUS・復讐者達「!!」
一瞬で凍り付くような悪寒が背筋を走り抜けた。
そして何故か、胸の中で大きく心臓が脈打つ(復讐者以外)。
自分でも何にそこまで反応したのかが分からない。
だがその時、確実に思った。
―――空気が異質なものに変わった、と・・・
山本「どーした、ツナ?」
レヴィ「ボス・・・?」
ツナ「何・・・今の?」
希「(何だこれ・・・)」
体が震える。何故か小刻みに震える。
その異質な空気が嫌だ、と体が・・・心が拒否しているような感覚だった。
紗那「如月君・・・!?大丈夫!?凄い汗だよ!」
希「・・・っ、黒い・・・・・デカい、」
紗那「え・・・?」
洋一「お前・・・何か感じるのか?」
希「嫌だ・・・!どんどん・・・・デカく、なる。―――嫌だ!!」
海斗「希!?落ち着いて!」
瑠璃「ちょっと、どうしたの!?」
希「ぐっ・・・!」
その場に膝をつき、震える自分の体を力一杯抱きしめる。
彼は、黒く禍々しいものがどんどん大きくなっていくのを感じていた。
それは、言い知れぬ恐怖・・・
希「(嫌だ・・・!怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわイこわイこわイこワイこワイこワイコワイ―――!)」
過去、今までに経験した1番の恐怖が駆け巡る。
「大丈夫だよ。だって私は―――希のお姉ちゃんだもん」
希「っ・・・!!」
記憶が刺激され、絶望が蘇っていく。
抗おうにも、それに抗う術を希は知らない。
紗那「如月君!しっかりして!!」
気付けば、彼女は希に抱き付いていた。
何かに突き動かされたと言ってもいい、その時・・・何故か彼を放っておいてはいけないと思ったのだ。
紗那「大丈夫。皆がいるから大丈夫」
希「ハァッ、ハァッ・・・ハァ、―――ッフー・・・・」
乱れていた息が彼女のおかげで落ち着く。
蘇りかけていた記憶もどこかに沈むように落ちていく。
2人は気付かない。周りにいた皆も気付かない。
その時、紗那の〈神器〉である十字架のペンダントが、光り輝いていたことに・・・
十字架のペンダント・・・その〈神器〉の力は、
どんな闇も退け、光へ導く
希は、黒く禍々しいものが消えていくのを感じていた。
何かが、その黒を照らして綺麗に晴らしたように・・・
ベル「あのモヤシ・・・(怒」
瑠璃「ま、まーまー。今は何か知らないけど、如月相当パニクッてるみたいだから。大目に見て(苦笑」
マーモン「どうしちゃったんだい、彼?」
洋一「平気か、希?」
希「っ・・・知ってる」
洋一「?」
希「俺はっ・・・・あの感じを・・・知って、る。あれは、」
何かを言おうとして、また嫌な記憶を思い出しそうになったのか、ギリッと奥歯を噛み締める。
口にしたいが、口に出せない。
心を恐怖に支配されてしまう。
希「―――っ!」
復讐者「アレに中(あ)てられたようだな・・・」
海斗「(アレ・・・?)」
ディック「!じゃあ、まさか・・・未来は!」
希に向けていた視線を、バッとカメラの映像の方へ向ける。
そこに、映っていたのは・・・
ディック「あぁ・・・!」
復讐者「奴でも・・・か」
そこに映っていたのは、左手が黒檀のように黒く変色し、
プラスチックのような無機物になっている少女、―――未来の姿だった。
彼女は、目を見開いて自分のその左手を見ていた。
復讐者「奴でも、耐えられなかったか・・・」
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