Ver.黒曜・リング編
□Red Scare
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未来「ぶっちゃけた話・・・お前等ディスペラーレを倒すだけなら、マフィアの連中を襲撃するよりも楽に出来たんよ」
観覧席の会話など知らない、聞こえていない彼女は淡々とガイオに向かって言葉を続けていた。
淡々と、事実のみを告げていた。
ガイオはその言葉はハッタリだと思う一方で、先程自分が簡単に攻撃を受け、吹き飛ばされた事実を思い出していた。
だから、
ガイオ「なら・・・何故そうしなかった」
未来「さっきも言った通り、戦う理由も倒す理由も皆無だったし、それ程重要でもなかったし。二の次だったんだよ」
ハァ、と疲れたように彼女はため息を吐く。
そしてまた続ける。
未来「だけど、必ずお前等を負かさなきゃいけねぇ理由が2つ出来ちまった。
ホント・・・何もかも、俺が思った通りに上手くいってくれねぇもんだよ」
やれやれと首を横に振る。
未来「ここまでくるのに随分遠回りをしちまった。いや、あの〈自称ミステリアスな占い師〉に言わせりゃ、随分な寄り道かな?
ま、それでもあのゴミは許してくれるだろーけど」
笑う、彼女は笑う。
誰かを思い出して、ほんの微かに嬉しそうに笑う。
ガイオ「?何が言いたい?」
未来「だからさ、
―――そろそろ終わらせようって言ってんだよ、シスコン」
右足を上げて空を切る。
その瞬間、ブーツタイプの安全靴から仕込み火薬が飛び出す。
自分に向かって真っ直ぐ飛んできたソレを、ガイオは溶断ブレードで切る。
それによって、ガイオに当たる前・・・ガイオと5メートル離れた距離で火薬は小さな爆発を起こした。
爆発の煙は未来とガイオの間に立ち込め、互いの視界を遮った。
ガイオ「(どうくる・・・?)」
煙の中から彼女がやって来るのではないか、それとも今のような中遠距離武器を使って遠くから攻撃してくるのではないか・・・。
そんなことを考えて、ガイオは警戒を強める。
立ち込める煙に何か変化はないか、と凝視していた時だった。
「織り込み済みだ、バカ」
ガイオ「!?」
背後から突然、声がした。
それは間違いなく、今まで対峙していた・・・煙の向こう側にいるはずの彼女の声。
咄嗟に振り向いて溶断ブレードで攻撃するよりも早く、未来の警棒が動く。
バキャッ!!
ガイオの右腕が、特殊警棒によって破壊され、無理矢理断ち切られる。
それによって、彼の右手の五指から出ていた溶断ブレードが消えてなくなる。
それでも・・・やはり、未来の攻撃は止まらない。
未来「寝てろ」
断ち切ると同時に、ガイオの背中を左足で蹴り飛ばした。
ガイオ「っ・・・!どうやって背後に・・・・」
未来「遮蔽物を上手く使っただけさね」
そう言って、自分の前方左斜め上を指差す。
そこにあったのは貯水タンク。
未来「パルクールを極めた俺は、さっき俺がいたとこから5秒もあれば登れる」
ガイオ「!」
ガイオ「(そうか・・・。ならあの煙は最初から・・・・)」
未来「1手目は騙しのフェイク、2手目を当てるのが基本なんだよ by シカマル(笑」
陽動作戦というものがある。
真の企図を隠し、敵の判断を誤らせるためにワザとある行動に出て、敵の注意をその方に向けさせる作戦だ。
未来はワザと仕込み火薬で煙を上げ、自分の姿を隠し、且つガイオの注意を煙の向こう側にいる自分に向けさせた。
彼の注意が煙に向いている間に、彼女は貯水タンクの下まで全力疾走。
その速度のまま上に登り、タンクを蹴って反動をつけてガイオの背後に回り込んだのだ。
↓図で表すとこんな感じ。
○ \
\
\
◇
〜〜〜〜〜〜/
/
/
/
△
※○=ガイオ ◇=貯水タンク
〜=煙 △=未来
/・\=未来の進行方向
未来「お前の・・・いや、お前とリーチェの敗因を教えてやろう」
傍に落ちたガイオの右手を拾い上げ、それをポーイと屋上から下に投げ捨てて言う。
まだこの戦いの勝敗はついていないというのに、彼女はもう勝ったつもりでいる。
未来「ズバリ、経験の差だ。
お前等サイボーグやアンドロイドは、莫大な力を持ってるが故に誰かと戦う時、その力で一瞬に片付けちまう。
だから自分と拮抗する相手、もしくは自分より強い相手となんか1度だって戦ったことがねぇ。・・・何か、言い返すことはあるか?」
ガイオ「っ・・・」
手元からなくなった右腕を左手で掴みながら、彼は立ち上がる。
言い返すことは何もない。全て事実だ。
それが分かっていた、という風に未来は言葉を続ける。
未来「そんなお前等は戦い方・・・いや、俺の倒し方が分からねぇんだ。
自分の力を制限せず、すぐに相手を倒してたお前等には・・・」
どんなにあらゆる攻撃、防御、回避パターンを想定していても、想定したそれが現実にならなければ意味がない。
想定するだけで体を動かさなければ、そんなパターンに遭遇しても無意味。
未来「相手をどんなに簡単に倒せても、経験値を稼ぐ為にコツコツやってかなきゃ強くならねぇ。
簡単に倒しちまったら、強くなるどころか弱っちまう。俺が言ってる意味、分かるよな?」
それは先程ガイオが言った、自分達を簡単に倒せるというなら、何故そうしなかったという問いに対する、明確な答えだった。
全ては経験値を稼ぐ為・・・
リーチェやガイオは彼女が強くなる為の都合の良い踏み台でしかないということ。
未来「こんな面白くねぇ戦いは早く終わらせてぇけど、経験値の為にゃしょーがねぇ。
だから、まぁ、安心しろ、少年。力は3割程度に思い切り抑えてやる。死神程度のピエロさんでいてやるよ。
それでも5分もたねぇっていうなら・・・多分、責任はそっちにあんだろ」
駆ける。
鉄筋コンクリートの地を蹴り、ガイオに向かって駆ける。
駆ける。
その左手の特殊警棒という凶器、その銀色を月明かりで煌めかせながら駆ける。
ガイオ「そう何度も喰らうかよ」
数十分前のリーチェのように、未来が何かしらの攻撃をしてくる前に彼は高速移動を開始する。
つまり回避。防御も攻撃もせずに彼女の攻撃をやり過ごし、その過程で生じた隙をつく作戦。
未来「まぁ、そりゃ学習するわな」
今、目視出来るガイオの姿は全て残像でしかない。
そんなところにむやみやたらに突っ込む程、未来はバカではない。
だから彼女は、
未来「どっからでもかかってきんしゃい」
全身の力を抜き、その場に直立不動。
目を閉じ、自然体になる。言わば、隙だらけの体だ。
ガイオ「!?」
ガイオ「(こいつ・・・舐めてるのか!?それとも、それで俺の気配が分かるとでも・・・・!?)」
未来「♪」
彼女はスリルを楽しんでいた。
彼女の好きなスリルはいつも己の生と死を懸けたものだ。
ここで1つ、彼女は大好きなスリルを味わうために大きな賭けをする。
未来「(さて、どーきてくれるかな?)」
ガイオ「(真正面からいくとカウンターをもらう可能性がある。そんなの自殺行為だ。それなら・・・)」
攻撃を喰らわせる1番いい位置に、彼は高速移動する。
そしてそのまま右足で彼女に蹴りを喰らわせようとした瞬間、
パチッ
未来「残念だよ」
未来「(結局お前もその程度か・・・)」
目を開いた彼女がそう呟き、右後方からのガイオの蹴りを屈むことで避ける。
未来「(感情のあるお前なら、リーチェと違って別の方向からくるんじゃねーかって期待してたのにな!!)」
ガイオの蹴りが空振ると同時に、未来は軸となっている彼の左足を払う。
体勢を崩すガイオ。
無防備なその体に彼女は特殊警棒で追撃を入れる。だが・・・
ガギンッ!
先程ガイオの右腕を断ち切ったそれは、何故か彼の鉄の体に弾かれた。
未来「チッ・・・」
未来「(炎を放出し過ぎたか・・・)」
微かに顔を歪め、仕方ないという風に警棒での攻撃を止めて、右足で彼を蹴り飛ばす。
吹き飛ばされ、背中から倒れたガイオは素早く起き上がる。
ガイオ「何で、俺がどこから攻撃するかが分かった・・・!いや、それ以前にどうやって攻撃するタイミングを感知出来た!」
リーチェと同じ右後方からの攻撃・・・。
それは未来の死角を的確に捉えている。
何故なら、彼女は右目を前髪で隠しているから。右側からの攻撃はほとんど見えていない。
それに加え、未来の右腕は折れて満足に動かすことが出来ない。現に、先程からずっと右手を使っていない。
だから、リーチェとガイオは弱点となる右後方から攻撃した。
未来「あるマンガの、かの天才さんと同じさ」
ガイオ「?」
未来「俺は、誰よりもずっと俺の弱点を知ってる。右目の死角と折れた右腕・・・。
ホント、いつも隠しててよかった、治さなくてよかった」
ガイオ「!まさか、お前・・・ワザと自分の弱点を作ってたのか!?」
未来「今更だな。お前はもっと、裏の裏を読み取って攻撃してくれると思ってたのに。
期待ハズレの的ハズレ、無駄骨だよ・・・」
未来「(わざわざ全方位に炎を放出するまでもなかったか・・・)」
彼女は賭けていた。
右後方からではなく他の方向から攻撃がくるのではないか、と・・・。
だがガイオは、そこまで未来の心理を読んでいなかった。
未来「お前は・・・今まで戦った奴の中で1番戦闘力が高い。だけど、その今まで戦った奴の中で1番弱ぇ」
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