Ver.黒曜・リング編

□Red Scare
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未来「さて・・・ほいじゃ、お前を負かす算段もついたし、そろそろ反撃に移ってやりまひょか」



左足のブーツの中から特殊警棒を取り出し、それを伸ばす。



未来「時間もねぇしな」



コキコキと首を鳴らし、「それに眠ぃし」と大きな欠伸をして付け足す。

その余裕そうな彼女の行動が、またガイオを苛立たせ、彼の怒りを増幅させる。


彼女は、それに気付きながらまたニヤリと笑う。そして、先程言った言葉を繰り返した。



未来「お前の怒りはその程度か?」


ガイオ「っ!」



彼女の言葉を聞き、彼は己の右手を水平に振るう。

それは横合いにあったフェンスを切り裂き、未来の側面から襲い掛かる。


未来はそれを身を屈めてくぐり抜け、ガイオに向かって駆ける。



未来「まったく面白くねぇ〈ケンカ〉だぁょ!」


ガイオ「チッ」



向かって来る彼女に追撃を喰らわせようと左足を上げる。

しかし、



  ドンッ!



ガイオ「!?」



蹴りのために上げようとしていたその左足は、未来の右足によって踏み潰されていた。

動きを封じる、壮絶な反則技―――


鉄の足なので痛みこそないものの、足は縫い止められたように動かない。

ガクンッ、と止まる己の体に、ガイオは思わず踏みつけられた自分の足に視線を落とす。


だが、それは致命的な間違い。


真下に落とした彼の視界の死角になるように、真上から特殊警棒が振り下ろされた。

金属製のソレが、ガイオの無防備な頭のてっぺんを強打する。


そして未来はそのまま左手に持っている特殊警棒でガイオの右手を振り払う。



しかし、それでも彼女の攻撃は止まらない。



特殊警棒による強打で無理矢理下を向かせられたガイオの眼前には、彼女の左膝が迫っていた。



未来「ルッス姐のメタル・ニー程じゃねぇけどな!」



服の膝の部分に何か金属物を仕込んでいるのか、強烈な膝蹴りがガイオの顔面に叩きこまれる。


まだ、止まらない。彼女の攻撃は続く。


彼の左足を踏みつけていた右足をどかし、曲げていた左膝が・・・

ガイオの顔面に叩きいれた左膝が伸ばされ、彼の腹に強烈な蹴りを入れた。


蹴りを喰らったガイオは、その衝撃で後ろに吹っ飛ばされる。



未来「おいおい、こんなもんかよ。マフィアガッコの前チャンピオンって奴は」



心底がっかりした呆れ声で、現チャンピオンの彼女は言う。


お手上げという風に両手を上げ、誰に言うでもなく未来は言葉を発する。



未来「今の俺にはマトモにやり合う力はねぇ。何もねぇんだよ、ホントに。

この1ヶ月、色んなことをやってた俺は体力も気力もすっからかんだ。もぅマトモに戦える状態じゃねぇんだ」



だけど、と彼女は言った。



未来「それでも、俺を殺したいと思う奴等は待ってくれなかった」



だから、と彼女は告げた。



未来「俺はちょっちいくつかの反則をすることにした」



ニヤリ、と彼女はまた不気味な笑みを浮かべる。

彼女の蹴りで吹き飛ばされたガイオは起き上がりながら、未来の言葉を聞いていた。



未来「バカデケェ力と力をぶつけ合っちまえば、大抵ロクでもねぇ被害が周りに広がっちまう。

それならその被害を1ヶ所に集中させればいい。

リング争奪戦と一緒にこの戦いをすりゃ、ボンゴレやチェルベッロが直してくれるだろーからな」



それが、この並中が戦闘フィールドになった理由。

それが、反則の内の1つ。



ガイオ「それが・・・何だ。この戦いを仕組んだのがお前だったってだけだろ」


未来「仕組まれたその戦いに、何で俺を殺したいと思ってる他のマフィア連中じゃなくてディスペラーレが選ばれたと思う?

否、否、どうしてお前等ディスペラーレは、他のマフィア連中には分からなかった俺の居場所が分かった?


どうして俺を、追うことが出来た?」



ガイオ「それは、」


未来「それは、死神ピエロの行き先をディスペラーレにだけ流してくれる、親切な情報屋がいたから。

なら、その情報屋はどうして死神ピエロの行き先を知っていた?どうしてその情報屋は・・・












―――日本に行けと言ったんだ?」






ガイオ「!まさか・・・お前が!?」


未来「いやぁ、まさかここまで気付かれねぇとは俺も思いもしなかったよ。ずーっと信じ続けるもんだから、俺も笑ったね。

その時治ってなかった傷口が開くかと思ったよ」



警棒を持った左手でその傷口とやらがあったであろう腹を擦って、軽く笑いながら言う。


それが、ディスペラーレが日本と、この戦いに誘われた理由。

それが、反則の2つ目。



未来「だから、さっきのお前の言葉「この戦いを仕組んだのがお前だったってだけだろ」ってのは訂正する必要があるな。

お前等ディスペラーレは最初から俺の掌で踊らされてただけだって」



ニコリ、と彼女は完璧な笑顔を浮かべる。

それを聞いて、ガイオは面白い程に狼狽える。



ガイオ「ふざけるなっ・・・!何でそんなマネが出来る・・・・!自分が殺されるかもしれない情報を、何でお前は・・・」


未来「だから言ったろ?「バカデケェ力と力をぶつけ合っちまえば、大抵ロクでもねぇ被害が周りに広がっちまう。

それならその被害を1ヶ所に集中させればいい」って・・・」



それはつまり、彼女1人に被害を集中させれば他は何も傷付かないということ。

自分の首を常に白刃の許へ晒すことで、それ以上の被害や犠牲、悲劇を回避し、誰かを救うことが出来る・・・そう思っての行動。


正気の沙汰ではない。











   ◇  ◇  ◇













獄寺「イカれてやがる・・・」



観覧席で彼女とガイオの会話を聞いていた彼は、ポツリとそう呟いた。

それは彼だけでなく、他の者達もそう思っていたのか皆同じように表情を硬くしている。



リボーン「前から妙な片鱗はチラついてたが、今のは決定的だったな」


洋一「何でだよ・・・。何で風花が傷つくことが前提なんだ。何で風花が犠牲になることが当たり前なんだよ!

何で何も・・・言ってくれなかったんだよっ!」


海斗「っ・・・」



彼はまた、以前未来が〈参加者〉の呪いによって小さくなった時に言っていた言葉を思い出す。




小さな未来「僕1人が耐えればいいだけでしょ?」




彼女は、風花未来という少女は、自分が傷付くことを全くと言っていい程厭(いと)わない。

否、それ以前の問題・・・。


厭わないのは、自分が価値のない存在だと今も思っているから。

昔壊れかけていた彼女は、今や完全に壊れてしまっている。


それに気付いて、海斗は歯噛みする。

今すぐにでも彼女の許へ駆けつけたい衝動を、拳を痛い程握り締めることで抑える。



海斗「(くそっ・・・!)」



ディーノ「あいつを・・・風花をあそこまでつき動かしてるものは何なんだ?」



ほとんどの者が苦い顔をする中、全身が麻痺して動くことの出来ない少女が平然と言う。



トゥーナ「別にそんにゃに驚くことでもにゃいと思うけど」



ツナ「えっ・・・?」


ディーノ「何だと・・・?」



トゥーナ「にゃにがそんにゃにおかしいのか、私には分からにゃいね。にゃにをするのにも、当然の代価は払われるものにゃんだから。

今、死神ピエロがやってることは正しい以外のにゃにものでもにゃいよ」



獄寺「あれの何が正しいことなんだよ!」


了平「うむ、タコヘッドの言う通りだ。話はよく分からんが、風花がしていることは極限におかしい」



トゥーナ「にゃにがおかしいの?」



洋一「何がってそりゃ・・・誰かを助ける為にあいつが犠牲になることが、」



トゥーナ「バッカじゃにゃいの?

これだけ大勢の人間を巻き込んでおいて、その首謀者が無傷にゃのこそおかしいことでしょ」



洋一「!!」
ツナ達「!!」


海斗・希・ディック・XANXUS・ゼロ「・・・・・・」



トゥーナ「自分の起こしたことで、傷付くかもしれにゃい誰かを助けるには犠牲が必要だった。

だから死神ピエロは当事者として真っ先に自分を犠牲にした。自分が起こしたことは自分でケリをつける。


それのどこが間違ったことだって言うの?」



それは、明らかに嫌悪を含んだ言葉だった。

何も分かっていない者達へ対する・・・怒りにも似た感情。


現に、今のトゥーナは怒ったような顔をしている。



トゥーナ「私から言わせれば、高みの見物を決め込んでる奴の方が他人を巻き込む資格がにゃいね」


ゼロ「・・・?」



そう言ったトゥーナは、何かを知っているのか不愉快そうに顔を歪める。

自分を作った者の些細なその変化に、ゼロはほんの小さく首を傾げた。






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