Ver.黒曜・リング編
□Red Scare
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死なない、
ゴッ!!
死なない・・・
ドゴォッ!!
死なない。
ガイオ「っ・・・!」
ガガッ!!
―――死なない!
何度やっても、何度溶断ブレードで攻撃しても、目の前の少女の体はバラバラにならない。
何度弾き飛ばされても、何度倒れても、何度転がっても、目の前の少女は何度も立ち上がってくる。
ガイオ「っ・・・何なんだ、お前は!!」
未来「ただの、人間だよ」
立ち上がった彼女はそう答え、微笑する。
その返答に、ガイオの顔が歪む。
ガイオ「(これが・・・)」
これが死神ピエロ。これが風花未来。
何か特別なことをするわけではない。
ただそこにいるだけで、ただそこに立っているだけで、人に不気味さを与え、同時に誰にも負けない強さを周りに見せつけるモノ。
異端者。ヒーロー。
ガイオ「・・・だったら何だよ」
彼は呟く。
ミシィ!!と、彼が握り締めた左拳が、強大な握力と共に不気味な音を立てる。
ガイオ「姉ちゃんは死んだよ。お前とは違う方向のヒーローみたいに」
未来「あぁ、知らねぇけど知ってる」
ガイオ「だったら・・・だったら俺は姉ちゃんの遺志を尊重する!
目の前でぶっ壊された仮初の残酷な世界が、満足そうに笑顔を向けて死んでいった姉ちゃんの行動が!!
全部・・・全部丸ごと否定されるような優しい世界なんざぶっ壊してやる!!」
もしも未来がもっと早く来ていれば、彼の姉は、ミリアは、死なずに済んだかもしれない。
彼女が生存したまま、彼女の問題が解決出来たかもしれない。
その可能性を敢えて拒絶し、排除する。
ミリアが死んでよかった、それが最上だったという評価を構築する為、
その金字塔を揺るがす未来の存在を全力で打ち消そうとする。
未来には未来の、ガイオにはガイオのルールがある。
これはその戦い。
ガイオは死者には何も届かないことを知りながら、それでも亡き姉のために拳を握り直す。
ガイオ「続けようか、死神。死者が絡んだ戦闘は何よりも重いぞ。
何しろ当の死者本人が歯止めをかけることも出来ず、その隣に立つ生者の怨念だけが延々と増幅していくんだからな!!」
ゾゾゾゾザザザザザ!!と憎悪の嵐が、黄色い瞳の少年を中心に全方位へ吹き荒れる。
そんな中、未来は呟いた。誰にも聞かれぬ声で。
未来「知ってるよ。俺もそんな風に出来たら、どんなに楽かって考えたことがあるからな」
未来「(やっぱ、正しい世界はいつも卑怯だ・・・)」
そしてまた、戦いが続行される。
大切な者を奪われた悲しい世界の中。仲間が全員倒され、自分達以外誰もいない屋上で。
死者の尊厳だけは守り抜こうとする者と、この先の結末を見据えた者の戦いが。
◇ ◇ ◇
獄寺「何で風花の奴は反撃しねーんだ!」
観覧席で屋上の映像を見ていた彼が吠える。
戦いが続行されても、未来がガイオに手を出すことはなかった。
溶断ブレードを受けても、ガイオの拳や蹴りを受けても・・・彼女が反撃することはない。
それどころか、自分から動こうともしない。
なのに立ち上がる。何度も、何度も、何度も・・・
ディーノ「あれだけの攻撃を受けて、無事ってことが俺には信じられないな・・・」
レヴィ「まさか、幻覚か・・・?」
その彼の発言に、幻術使いであるヴァリアーの2人が大きなため息を吐く。
勿論それは、マーモンと海斗だ。
マーモン「未来は幻覚の才能が皆無に近い。それにカメラを騙せる幻覚なんて、そう簡単に出来ないよ」
海斗「大体、あのガイオとかいう人はサイボーグなんですよ?
熱反応、生体反応などを感知して本物か幻覚かを見破ることは余裕で出来るはずです」
ゼロ「肯定します。私を含む3名・・・リーチェとガイオに幻覚は通用しません」
バジル「なら一体どうやって・・・」
ベル「あいつ、そんなタフそうに見えねーけど・・・」
瑠璃「無事でいられてる理由は分からないけど・・・何で反撃しないかは何となく分かるよ」
ツナ「それって・・・?」
反撃しない理由について尋ねてくるツナの視線を受け、瑠璃は軽く微笑する。
周りの皆からもそんなツナと同じ視線を向けられ、彼女はカメラの映像を見ながら口を開いた。
瑠璃「自分の方が強い・・・って、確信してるから」
洋一「確信?」
瑠璃「そう、確信」
ディック「傲りじゃなくて?」
瑠璃「未来は傲り高ぶったりしないよ」
山本「何で自分の方が強ぇって確信してたら反撃しねーんだ?」
瑠璃「んー・・・分かんないかなー?まぁ、そうだよね。未来が戦ってるとこ、皆そんなに見てないし」
自分で言い、自分で納得してしまう彼女。
そんな瑠璃を皆は疑問符を浮かべて見る。
不思議そうな顔をする皆に、彼女は少し可笑しくなって・・・そして同時に未来の戦い方に若干呆れて、クスッと笑う。
瑠璃「未来にはね、戦いの流儀があるの」
スクアーロ「流儀、だとぉ?」
瑠璃「うん。洋一達は決定戦の時の未来を見てて気付かなかった?
あいつ、自分から最初に仕掛けること1度もなかったんだよ」
洋一・海斗・ディック・ディーノ・スクアーロ「!」
瑠璃「あいつは待つんだよ。相手が最初に攻撃してくるのをいつも待つ」
雲雀「(言われてみれば・・・)」
1年前に自分と戦った時も、見回りで不良達にケンカを売られた時も・・・彼女は自分から最初に攻撃することはなかった。
必ず相手の攻撃を待ってから倒していた。
他の者達も、先程のリーチェと未来の戦いを思い出して納得する。
彼女は随分後からリーチェに攻撃していた。
瑠璃「流儀って言うより・・・これはルールって言った方がいいのかもしれないけど、
未来が攻撃を待つのは、決まって自分より弱いと判断した人だけなんだよ。
だから、挑戦権っていうのかな?最初に攻撃するチャンスを相手にあげるの」
紗那「じゃあ、自分より強いとか、互角だと思った相手にはどうするの〜?」
瑠璃「勿論自分から突っ込んでいくよ。自分が挑戦者なんだから。
あ、でも本人は無意識でそのルールで戦ってると思う」
それを聞き、皆はカメラの映像を見る。
未だ反撃することなく攻撃を受けては立ち上がる彼女・・・未来を見る。
ツナ「今も・・・無意識なの?」
瑠璃「ううん、今は意識的。
反撃どころか避けることもしないってことは、相手が弱いだけじゃなくて他にも理由があるんだと思う」
リボーン「あいつのこと、よく分かってるんだな」
瑠璃「・・・まぁ、未来が戦うところはよく見てたからね」
紗那「そう、だね・・・瑠璃は、」
瑠璃「うん・・・」
どこか歯切れ悪く曖昧に答える瑠璃と、納得した風にぎこちない笑みを浮かべる紗那・・・。
そんな彼女達を他の者達は不思議そうに、訝しげに見つめる。
勘が鋭い者は、何か隠しているということが分かったが、それ以上深く追究しなかった。
それはきっと彼女達にとって、触れられたくない過去なのだろう・・・と。
だから彼等はそっと視線を彼女達から逸らし、屋上を映すカメラの映像に再び集中した。
倒れても立ち上がる未来に、ガイオは苛立っているようだ。
その苛立ちが、こちらにまで伝わってくる。
ガイオ『何のつもりだ。お前は一体・・・何がしたいんだ!』
苛立ちを、怒りを、憎しみをそのままゆっくり立ち上がる未来にぶつける。
それに対し、未来はあっさり、平然と答えた。
未来『何もしたくねぇよ』
何バカなことを聞いているんだ、と言いたげな表情で彼女はそう言った。
彼女のその返事に、ガイオだけでなく映像を見ていたツナ達も意味が分からなくなる。
何もしたくない、だから反撃しない。それは一見、筋が通っているようにも感じる。
しかし、何もしたくないと言っている人間が、自らこの戦いに参加している。それは紛うことなき矛盾だ。
だから皆には意味が分からない。未来とガイオの会話は噛み合っていない、そう感じた。
未来のおかしな返事を理解しているのは、この場で復讐者(ヴィンディチェ)達だけだ。
ガイオ『戦う気がねぇってことか』
黄色い眼光で対峙している少女を射抜くように見つめる。
見つめられている未来はため息を吐き、さもめんどくさいと言うように口を開く。
未来『まぁ、そんなとこだわな。お前を負かす理由はあっても、戦う理由も倒す理由も皆無だし。
俺にとっては、言う程重要じゃねぇついでみてぇなもんだからな。いや、ただのオマケと言うべきか?』
顎に手を添えて、彼女は言葉を整理していく。
未来『マフィア連中を襲撃するのは全部終わらせた。自分探しの旅もケッコー上手くいった。
このオマケも終わらせりゃ、テトリスみてぇに山積みにされた問題は一通り取り除くことが出来るってわけだ。
そしたら後はとんとん拍子。とんとん拍子で誘爆後の〈燃えかす〉と昔の〈残りかす〉を処理出来る』
その言葉に、皆は自分の言語機能がおかしくなったのかと思った。
だが、違う。
そもそもにおいて、大前提の部分から間違っていたのだ。
風花未来は〈災厄を齎すもの〉という問題を解決する為に、命を懸けて戦いに身を投じていたのではない。
命を懸けた戦いで何かしらを処理する為に、厄介で面倒くさい〈災厄を齎すもの〉という問題を解決しようとしていただけだったのだ。
XANXUS「・・・・・・」
思い出すは、嵐戦の時の彼女との会話・・・
XANXUS「・・・そのやっていることを、やろうとしてることをして、お前に何の得がある」
未来「そーだな。メリット、デメリットで生きる俺としては考えらんねぇ考えだ。
ま、強いて言うなら・・・メンドーごとが減るから、かな?」
ここでようやく彼女が言っていた言葉の意味を理解した。
そして、先程彼女が言った「何もしたくねぇよ」という意味も・・・。
風花未来という少女にとって、〈災厄を齎すもの〉は何の価値もない。ただの面倒事の許でしかないのだ。
だから、わざわざしたくもないこの戦いに加担し、その面倒事を失くそうとした。それだけなのだ。
XANXUS「どこまでもぶっ飛んだガキだ・・・」
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