Ver.黒曜・リング編
□終わりの始まり
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リーチェ「命令は・・・絶対、ですので」
未来「そぅか・・・。残念だ」
残念、と言いつつ残念そうでない彼女は左足のブーツの中(足首とブーツの間?)から特殊警棒を取り出す。
金属製のソレを彼女が伸ばせば、ソレは40cmぐらいのものになった。
初めて明確な武器を手にした未来に、リーチェは警戒を強める。
データは告げていた。
今まで未来の様々なデータを取ってきたにもかかわらず、データはある答えを導き出していた。
【FORZA INCOGNITA(力 未知数)
ANALISI IMPOSSIBILE(解析不能)】
未来を抹殺するプロセスが組み立てられない。
彼女が言っていたように肉弾戦をすればいいのか、それとも羽の力で戦えばいいのか・・・
データが何千、何万、何億、何兆通りの戦術を練っても、自分が彼女を抹殺した、というイメージが出来ない。
彼女は、―――〈死神〉だから。
人を始めとして、神や魔王をも死に誘う〈死神〉だから。
未来「安心しろ。すぐ終わらせてやるから」
リーチェ「っ、重度の問題を確認。回避に専念します」
未来が何かしらの攻撃をしてくる前に、リーチェは高速移動を開始する。
彼女自身が言っていたように、今の第二形態は第一形態の時のスピードよりも遥かに速い。
薄暗闇も相まって、目視は不可能。
そんなあり得ない速度で動くリーチェの言葉は、どこかぐわんぐわんと歪んで聞き取りにくかった。
リーチェ「あなたがどんな攻撃しようと、この速度域についてこれなければ無意味。一瞬で終わらせれば何も問題はありません」
壁や天井を蹴っているのか、あるいは移動時の衝撃波が叩いているのか、調理室のあちこちから打撃音にも似た硬い音が連続して響き渡る。
確かに、この領域に達してしまえば、特別な力を持たないただの人間である未来には手も足も出ないだろう。
闇雲に警棒を振るっても、リーチェには掠りもしないだろう。
紗那「こ、こんなの・・・反則だよ〜」
未来「おぉ、スゲースゲー(棒読み」
リーチェ「(これで決まりです)」
天井を蹴って、彼女は未来の右上斜め後方から拳で殴り掛かる。
だが、
未来「でも、ま、それがどうしたって話じゃね?」
ガキンッ!と、リーチェのその固く握られた拳は彼女の左手が持つ特殊警棒によって防がれる。
リーチェを目で捉えることなど、出来ていなかったはずなのに。
リーチェがいつ攻撃するかなど、分からなかったはずなのに。
なのに・・・
リーチェ「何故、あなたは・・・!」
未来「まずはその邪魔そうな羽からだな」
ニッと不気味な笑みを浮かべて、彼女は警棒をクルリと回転させて逆手に持ち替える。
リーチェが後ろに下がろうとする前に、未来は折れた右手で伸ばされたままの彼女の腕を掴み、思いっきり引っ張った。
前のめりになるリーチェとすれ違うように数歩歩き、未来は警棒で彼女の左上と左下の2枚の羽を破壊する。
その警棒が若干赤い炎を纏っているのを、紗那は微かに見た。
リーチェ「ちゅ、中度の問題を確認。回避しま―――」
未来「出来るならな」
冷たくそう言い放ち、未来はリーチェの膝の裏を蹴る。(超荒っぽい膝かっくん)
自分の意思とは無関係に、無理矢理膝を曲げられたことでリーチェは床に倒れ込む。
無防備なその背中に残った右上と右下の2枚の羽・・・。
未来は情け容赦なく、その2枚の羽を先程と同じように警棒で破壊する。
未来「人間を模して造られたのが仇(あだ)になったな。人間ってのは関節潰されりゃ動けねーもんなんよ。
だから、さ・・・前にも他の奴に言ったんだけど、
―――人体の弱点ぐらい覚えておこうぜ、お嬢ちゃん」
リーチェ「(まずっ・・・!)」
危険を察知して起き上がろうとした瞬間―――
バキャッ!!
ガギャッ!!
リーチェの右足と右腕が、警棒と未来の安全靴を履いた足で破壊される。
逆手に持っていた警棒をまたクルリと回して、元の持ち方に変えた未来は言う。
未来「右手と左足が残ってたらまだ動けるけど、残ったのが左手と左足だったらバランス悪過ぎて動けねぇだろ?」
まるで、それは小さな子が人形の手足を毟り取るように・・・
風花未来というこの少女は、そんな子供のような無邪気な顔をしていた。
紗那「凄い・・・」
その戦い・・・否、未来が言った通りの一方的なイジメを見ていた彼女は、両手で口を覆ってそう呟いた。
本当に凄い。しかし、
今の未来は少し、恐ろしくもあった。
紗那「(アノ時と・・・同じだね)」
リーチェ「命令は・・・絶対」
右手足を破壊された彼女は、それでも起き上がろうとする。
近くの机に左手をかけ、ゆっくりと身を起こす。
未来「最後の最後まで足掻くか・・・。ホーント、健気だねぇぃ」
ため息を吐き、立ち上がり始めたリーチェを見る。
そこで未来は、視界の端に〈あるモノ〉を捉えた。
未来「、」
内心で舌打ちをして、彼女は右手を懐に入れる。
リーチェもまた、足元に落ちていた〈モノ〉を左足で蹴り上げる。
カチャ
パシリッ
2つの音が同時に響く。
未来が懐から出したのは、片手に収まる程の小型銃・・・
リーチェが足で蹴り上げて左手で掴んだモノは、先程磁石の羽で引き寄せた長包丁・・・
未来「装填、ペレット―――」
リーチェ「私は、壊れるまで―――」
2人の声が重なり合う。
未来は弾倉に何かの弾を入れる。
リーチェは左足を軸に体を半回転させる。
そして、
未来「―――属性は晴」
リーチェ「―――戦います!!」
引き金を引く未来。長包丁を投げるリーチェ。
未来が撃った弾は、リーチェの頭すれすれを通って窓の外に突き抜ける。
リーチェが投げたナイフは、未来の右頬を掠める。
どちらも、致命傷にはならなかった。
机という支えを自ら手放したリーチェは、そのまま倒れていく。
リーチェ「(ここまで・・・ですか)」
未来「とくと見させてもらったぜ」
そう言って、彼女は初めてリーチェに向かって行く。
左手には特殊警棒、右手には小型銃。どちらも今のリーチェを倒すには十分過ぎる武器だ。
だからこそ、なのか・・・
未来「―――お前の勇姿ってやつをな」
その少女はどちらの武器も使わず、右足で左側の壁にリーチェを蹴り飛ばした。
未来「だからもぅ休め」
自らが壁に叩き付けた少女を見て静かに言い、右手に持っていた小型銃を懐にしまった。
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