Ver.黒曜・リング編

□終わりの始まり
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リーチェは、躊躇なくチェーンソーと化した羽で未来の首を飛ばす。









その、










ほんの数秒前のことだった。












「ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ。全っ然ダメ」







失望したような声が、聞こえてきた。


それは、目の前・・・。

リーチェが首を切り落とそうとしていた少女の口から聞こえてきた。


チェーンソーと化した羽を彼女の首元へ振りかざした時、リーチェはその少女に蹴り飛ばされた。



リーチェ「!?」



飛ばされ、背中を床に打ち付けたことで切れ味抜群の羽が自身の左足と床を抉った。

左足の装甲が切れ、中の電線やら導線やらに羽の刃が達しようとした時、リーチェは急いで羽の回転を止める。


彼女の視線は、自分を蹴り飛ばした人物へ向く。



リーチェ「何故?目は見えないはず・・・」


未来「また余計な問答を始めるか?聞かなくても、今の俺を見りゃ分かるだろ?」


リーチェ「?」



彼女は未来を見る。


別段、変わったところはない。

ただ、強いてあげるとすれば、左目が閉じられ・・・―――いつも右目を隠している前髪が耳にかけられているところだろう。



リーチェ「!まさか・・・」


未来「あぁ、お前はさっきの光で俺の左目を眩ませたのは眩ませた。けどな、


―――俺の右目にその光は届いてねぇんだよ」




丁度、髪がその光を遮断したから。

左目は見えなくなっても、右目だけは見える。


だからこそ、未来はリーチェの戦法に「ダメだ」と言ったのだ。



未来「なぁ、もっと俺を楽しませてくれよ。そんなんじゃ、他のことを色々考えるヨユーがあり過ぎる。

だからさ・・・もっと俺を追い込んでくれよ」



左ポケットから黒い宝石のペンダントを取り出して、いつものようにブンブン振り回す。

未だ目の見えない紗那は、彼女の声を聞いてホッと胸を撫で下ろした。



紗那「無事なんだね、未来」



未来「んー?あぁ、まぁ攻撃は一切受けてねぇから無事なんじゃね?」



リーチェ「中度の問題を確認。由々しき事態と判断します。データの解析速度を上げましょう」



未来「めんどくせぇ奴だな・・・(呆」



リーチェ「(低度の問題が中度の問題を解決する策となる可能性が浮上)」



チラリと、彼女は視線を紗那に向ける。



リーチェ「(1位を抹殺するため、庇護対象である5位を先に殺すのが得策と判断)」



先程、未来は吹き飛ばされた紗那を庇ったように見えた。

ならば、紗那を攻撃しようとすれば未来がまた庇うのではないか。



庇うのであれば、未来を殺すことが出来る。


庇わなければ、紗那を殺すことが出来る。



どちらでも、リーチェには構わない。



しかし、



リーチェ「(優先順位を重視。主(マスター)の命令を重視。死神ピエロである風花未来を抹殺します)」



自我を持たないアンドロイドである彼女にとって、命令は絶対。


それを守らなければ存在意味がない。それを守らなければただのスクラップ(鉄くず)でしかない。



彼女はまた4枚の羽を羽ばたかせる。


そして、左上の羽から電磁波を放出させる。その瞬間――



  ガチャガチャ!

     ガキンッ!



調理室に置いてあるボウルや包丁、お玉、スプーンやフォークといった金属がリーチェの左上の羽に吸い寄せられ、引っ付いていく。

今の彼女の左上の羽は、超強力な磁石と化しているのだ。



紗那「え・・・わっ!?」


未来「おっおー」



鉄扇を持っていた紗那も、底に鋼板が入っている安全靴を履いている未来も、その羽に吸い寄せられる。


包丁などが引っ付いて、危ない凶器と化したその羽へ―――



未来「それもダメだな」



ズルズルと引き寄せられていた彼女はそう言って、右足を上げて空を切る。


すると、そのブーツタイプの安全靴から黒い小さな塊が出て、リーチェの方へ飛ばされた。

眼前に突然現れたソレ等を見て、リーチェはその塊の正体に気付いた。



リーチェ「(―――仕込み火薬!!)」



時既に遅く、小さな爆発が彼女を包む。


爆発を起こした張本人は右耳にかけていた髪を下ろし、左目を開け、欠伸を1つして言う。



未来「洋一とやり合ったなら知ってるはずだろ。ブーツタイプのコレはギミック満載に出来るって。

あ、因みにこの仕込み火薬は俺のおししょー様を参考にさせてもらいました。わー、パチパチ。スッゴーイ」



紗那「未来・・・テンションおかしいよ〜?」



やっと目が見えるようになってきたのか、瞬きを繰り返して苦笑しながら未来に言った。



未来「寝不足だからだろ。自分でも何言ってんのか分かってねぇよ、今」




「やはり・・・一筋縄ではいきませんね」




爆煙の中から、声が聞こえてきた。



紗那「!」


未来「お前もな」



煙が晴れていく。

最初に見えたのは1枚の羽。それは右下の1枚・・・。


その羽は他の3枚の羽よりも大きく広げられ、リーチェの前に存在した。

そう、それはまるで己を守る盾のように・・・



リーチェ「死神ピエロ・・・伝説通りの人間。あれもこれも徹底的に織り込み済みですか」



右下の羽で爆発を防いだ彼女は無傷だった。


爆発で飛ばされたのか、磁石と化していた左上の羽についていた金属が床に散らばっている。

今、左上の羽には何もついていない。


それを見て、未来は肩を竦めてため息を吐く。



未来「ダメだな」


リーチェ「?」


未来「もぅ飽きた。お前じゃ俺を殺せねぇよ。〈殺し合い〉にならねぇ、ただの〈ケンカ〉止まりだ」


リーチェ「これが・・・ケンカ、ですか」


未来「もしくは一方的なイジメになっちまうかもな。

上手く隠してるつもりかもしれねぇけど、お前はその羽の力を複数同時に使えるわけじゃねぇんだろ?」


リーチェ「、」



磁力で金属を持つ者を引き寄せることが出来るにもかかわらず、引き寄せた者を切れ味抜群の羽で攻撃したりはしない。


盾となる羽で防御をしながら、磁石となる羽で相手を引き寄せることもしなかった。



未来「力の切り替えのタイムラグは常に一定で、切り替える度に戦いを仕切り直そうとする。

だから動きは単調、簡単に読める」


リーチェ「っ、」


未来「それならまだ肉弾戦に頼ってた方がよかったな。


さぁ、どーする―――お嬢ちゃん?」






ニヤリ、と・・・



人間の皮を被った〈死神〉は笑う。







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