Ver.黒曜・リング編
□終わりの始まり
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?「コうなルことハ・・・最初カら決まっテたと思ウ?」
また、何処かの建物の上で声が響く。
2つの影は、互いの背をつけて座り込んだ状態で話す。
?2「〈思考〉を私に求めるの・・・?」
?「そウじゃなイヨ。そこマで深ク考えズに、たダ思ッたことヲ言ってホしいンダ」
?2「最初から、決まってたかどうか・・・。私は・・・・決まってたと思う。決して、抗えない・・・―――運命のように」
?「運命・・・カ。運命ハ必然・・・・」
?2「・・・あなたは、どう思うの?」
?「僕?僕はドうだロ・・・やっパり、決マってなカったト思うヨ。ダから、偶然じゃなイかナ」
?2「どうして・・・?」
?「偶然っテいうノはネ、奇跡かラ出来ていルからサ。そシて、ソの奇跡は人が起コすもノ・・・。人ガ起こス奇跡は偶然じャなイ」
?2「・・・意味が、分からない」
?「あはは、〈思考〉ガ専門外の君ニはチョっと難シかっタかナ」
?2「あなたの変な言い回しは嫌い・・・」
?「さらりト酷いネ・・・(苦笑
ツまり、僕が言いタいこトはネ・・・偶然ト必然は対極の存在じゃナいっテことダヨ。
偶然≠必然ジャなくテ、
―――偶然=必然ナんダ」
?2「さっき・・・あなたが言ったことと、矛盾してる」
?「そウだネ。だカら僕はコう言い直スよ。こうナることハ最初から決マってナくテ、途中かラ決まっテしまっタ・・・ってネ」
?2「途中?」
?「〈最初の物語〉ノ延長・・・だケど途中かラ全ク別の違ウ〈物語〉にナってシまっタ。
コの戦いハ・・・ひーろーニ成りきレなかッた悪役〈達〉ノ物語にすぎナイんダ」
◇ ◇ ◇
イーラ「ガイ・・・オ・・・・?」
並中3階の廊下・・・。
そこで、先程ガイオに腹を貫かれたピンクの髪の少女は、血を流し、床に倒れた状態で掠れる声で近くにいる少年の名を呼んだ。
ガイオ「へぇ、まだ息があるのか。相変わらずしぶてぇな」
イーラ「どぅ・・・して、」
ガイオ「お前も分からねぇ奴だな。そんなの使い物にならねぇからに決まってんだろ」
瑠璃「そんな理由で仲間を・・・!?」
イーラ「私はっ・・・まだ、やれた・・・・っ」
ガイオ「勘違いすんな。使い物にならねぇってのはお前じゃねぇ。お前の頭ん中にある代理演算のチップが、だよ」
自分の頭を指でトントンッと叩いて言う。
ガイオ「一種の拒絶反応か、それとも・・・ただお前が自分のいいように作り変えたか」
イーラ「・・・どう・・・・いう、」
ガイオ「本当に分からねぇ奴だな」
ため息を1つ吐き、彼は言葉を続ける。
それは、この場にいる誰もが想像していなかった衝撃的な一言・・・
ガイオ「お前の両親なんて最初から死んでねぇんだよ」
イーラ「・・・ぇ」
ガイオ「今もどっかで生きてんだろ。お前のことなんか忘れて、幸せにな・・・」
洋一「ど、どういうことだ・・・?」
瑠璃「でも、その子はお父さんとお母さんを殺されたって・・・」
海斗「まさか・・・!」
ガイオ「お前の両親はお前を売った。お前は捨てられたんだよ、イーラ。
きっと、お前はその時自分の記憶を勝手に作り変えたんだろ」
イーラ「ウ、ソ・・・」
ガイオ「ウソじゃねぇ。それが真実だ」
イーラ「そんなの・・・ウソだ・・・・っ!」
ガイオ「・・・だから俺が楽にしてやるんだよ。両親のその呪縛を断ち切ってやる。死ねば、その苦しみから解放されるんだからな」
そこで彼はほんの一瞬・・・ほんの一瞬だけ優しい瞳になった。
だがその瞳はすぐに怒りとも悲しみともとれぬ瞳に変わる。
トドメを刺そうと、ガイオは足を上げる。
その足をそのまま踏み下ろそうとすれば・・・
ブォンッ!
ガイオ「!」
海斗「やらせません」
有幻覚で出したモーニングスターでガイオに襲い掛かる。
イーラにトドメを刺すよりも回避を選んだのか、ガイオはその攻撃をバックステップでかわす。
海斗がその2人をイーラの傍から離れさせたのを見て、洋一はおぶっていた瑠璃をイーラの近くに下ろした。
洋一「東雲、お前はそいつを連れて外に出ろ」
瑠璃「!でも・・・うちの足じゃ、」
海斗「下に有幻覚でマットを出します。そこに飛び降りてください」
目の前にいるガイオを見据えながら、彼は左手をイーラの腹に翳す。
彼女の貫かれた内臓を幻覚で補う為に・・・
海斗「っ、」
海斗「(翡翠さんとの戦闘で有幻覚を使い過ぎた・・・。残りの体力は全部、)」
瞬時にイーラの内臓を補い、右手に持っているモーニングスターで窓を割る。
それも、飛び降りさせる瑠璃達がケガをしないように、尖ったところを作らずに。
海斗「(全部この2人を逃がす為に使わなきゃ・・・!)」
窓の処理を済ませ、校舎の外の地面に有幻覚で分厚く弾力性のある大きなマットを出した。
長時間、そして何度も有幻覚を使ったことで彼の体力はもうギリギリだった。
おそらく、今残っている仲間内で1番疲弊し、ケガを負っているのは海斗だろう。
肩で息をする彼を見て、洋一はそれに気付く。
洋一「海斗、お前も一緒に(海斗「ダメだよ」けど、お前っ・・・!」
海斗「あのガイオとかいう人は強い・・・。
あの人を倒したり、あの人から〈災厄を齎すもの〉6つを奪うことは洋一1人じゃ出来ないだろう?
それに、谷垣さんの方も心配だからね。まだ、僕の幻覚や有幻覚が必要になるかもしれない」
洋一「・・・無茶だけはすんなよ」
海斗「お互い様だよ」
ガイオ「503、そいつ等の始末はお前に任せる」
洋一・海斗「「!」」
バッ、と瑠璃とイーラを庇いながら2人は身構える。
しかし、彼等のすぐ近くにいるゼロは、ガイオに命令を受けた彼は・・・微動だにしなかった。
ゼロ「・・・・・・」
ガイオ「何をやってるNo.Z503」
ゼロ「・・・・・・」
ガイオ「チッ・・・バグか」
洋一「なんかよく分かんねぇけど・・・今の内だな。そいつのこと任せたぜ、東雲」
瑠璃「うん!」
海斗「下に着いたら、マーモンさんに彼女のことを頼んでください。
僕も、戦いながら幻覚を維持し続けることが出来ないかもしれない・・・」
瑠璃「分かった。気を付けてね、2人共」
洋一「ああ!」
海斗「ええ」
瑠璃はイーラを担いで、窓から海斗の有幻覚のマットの上に飛び降りる。
着地の瞬間、衝撃で傷口が痛んだが、気にするまでのものでもない。
2人が無事下へ降りたのを確認して、洋一と海斗は目の前を見据える。
洋一「残りは両方3人・・・。だけど、〈災厄を齎すもの〉の6つは全部あいつ等が持ってる。不利だよなー、これ」
海斗「お互い、損な役回りを引いちゃったね」
洋一「ハハッ、だな」
軽く微笑を浮かべた後、2人は気合いを入れ直す。その眼差しは真剣そのもの。
海斗はモーニングスターを構え直し、洋一はギミック満載のブーツから2本のナイフを出して両手に持つ。
事実上の、相手のボスを倒すために・・・
ガイオ「ったく・・・どいつもこいつも使えねぇ奴ばっかだな。結局、俺が直接手を下すしかねぇのか」
これはとある悪役〈達〉の物語・・・
魔王を倒す力を持った幸せな勇者とは違う、自分が何の為の力を持っているかが分からない悪役〈達〉の。
守りたいものを守れず、力を振るう方向性を間違えた
―――ヒーローに成りきれなかった悪役〈達〉の闘争の物語・・・
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