Ver.黒曜・リング編

□Yellow Moon
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リン「チッ・・・。だから嫌いなんだ」



砂のように消えていく1人の〈参加者〉を見ながら、彼は苦虫を噛み潰したような顔をして言う。

いつの間にか、影は自分の許へ戻っていた。



リン「この〈能力〉は後味が悪い・・・」


智「自分が直接手を下してないから?」


リン「っ、」


智「でも、その〈能力〉がなかったら君は彼に勝てなかったでしょ?」


リン「その時はっ・・・!その時はアイツに銃でも借りたさ」


智「ウソ。君は・・・君〈達〉はそんなの借りないって言ってたよ。

〈ストック〉の中には入れてるけど、君〈達〉は1度も使ってないって言ってた」



リンの影が使っていた刀を持って、ソレをリンに差し出す。



智「だからアイツは君〈達〉に武器を貸してるんだ」


リン「・・・・・そうだな」



刀を受け取り、また右肩にしまった。


右肩・・・04と刻まれた数字の中の〈ストック〉の中に―――



智「〈チームメイト〉だっていうのに、俺〈達〉には貸してくれないんだよ。

きっと、アイツにとっての本当の〈チームメイト〉は君〈達〉なんだね・・・」



少し、ほんの少し悲しそうに笑って言う。


そんな彼にリンは言葉をかけようとするが、何も思い浮かばなかった。

否、何を言っても彼を慰めることは出来ないから・・・何も言えなかったのだ。


智は瑪瑙が消えた場所へ歩いて行って、彼の影とリンの影が映っていた教室のドアを見る。



智「影を攻撃することは出来ない・・・か。それ、ちょっと語弊があるよね」


リン「口の軽いお前が俺の〈能力〉をバラすんじゃないかってヒヤヒヤだったよ」


智「Σなっ!俺はそんな大事なことを簡単に言ったりしないよ!」


リン「アハハ、だといいなー(棒読み」



そう言って、自分のグシャグシャになった左腕に応急処置をしていくリンを見て、智は頬を膨らませる。

プイッと横を向けば、また教室のドアに視線がいった。



智「彼も、このドアを得意の〈能力〉で爆発させれば影は映らなかったのに・・・」


リン「人間追い込まれれば、まともに物を考えられないってことだろ」


智「だね。俺の予言通り・・・彼の未来は〈脱落〉っていう真っ暗な闇になっちゃった」



手の中から出した蒼い水晶が、彼の言葉に反応するように真っ黒に塗り潰された。











   ◇  ◇  ◇












紗那「ハァッ、ハァッ・・・」



3年校舎の2階から3階へ上がる階段を彼女は息を切らしながら上っていた。

夜目がきかない彼女は手すりに手をかけ、1段1段を探るように、だけど決してゆっくりではないペースで上がって行く。


後ろから迫って来る、〈敵〉から離れるために・・・



リーチェ「鬼ごっこをしている暇はないのですが、」



後ろの暗闇から声が響く。

その声にビクッと肩を跳ね上げながら、紗那は必死に上る。



先程・・・校舎全体の電気が消えたあの時、彼女は突然の暗闇の怖さに悲鳴を上げた。

お化けが怖い彼女にとって、暗闇もまた怖いものの1つだった。


いつ闇の中からお化けや幽霊が出てきて、自分をそっちの世界へ引きずり込むのか分かったものではない。



だが、そんな中でもリーチェは攻撃をしてきた。

この闇の中では、紗那はその攻撃を防御も出来ずに受けることしか出来なかった。


今も、リーチェの攻撃を受けた背中がズキズキと痛んだ。



紗那「(どこか・・・どこか明るいところに行かなきゃ・・・・!)」



後ろの暗闇から響いてくる幽霊のようなリーチェの声に身を震わせながら、彼女はまた1段1段上って行く。


だが、



紗那「あっ・・・!」



ガクガクに震えた足では暗い階段を上手く上ることは出来なかった。

階段を踏み外し、彼女は前に倒れ込む。


その隙が、命取りだった。



リーチェ「せめてもの情けです。楽に逝かせて差し上げましょう」



彼女は握り締めていた拳を開いて、倒れ込んだ紗那の背中に狙いを定める。

指先はドリルの如く、彼女の背中から心臓を貫くことだろう。


それを予想し、リーチェは何の躊躇いもなく・・・



リーチェ「!」



攻撃しようとしたところで、彼女は何かに気付いて5段程下に下りる。

何故、彼女がそうする必要があったのか・・・。


それは、





「ッフー・・・危なかったなー」





リーチェがいた場所に、上から人が飛び降りて来たからだった。



紗那「え・・・」
紗那「(この声・・・)」



彼女は起き上がって、声が聞こえてきた自分の後ろを振り向く。

振り向いたところで彼女には何も見えない。しかし、彼女は分かっていた。


自分が見ているその場所に〈彼〉がいることを・・・



紗那「―――洋一君・・・」


洋一「悪ぃ、ちょっと遅れた」



見えない〈彼〉はきっと苦笑してそう言っているのだろう。

彼の声を聞いて、彼女はホッと胸を撫で下ろした。



リーチェ「樋上洋一・・・元Bクラストップ。基本的攻撃パターンは体術。しかし、実力は未知数」


洋一「えーっと・・・もしかしてこいつもアンドロイドか?」


紗那「う、うん。そうみたい・・・」


洋一「マジか・・・」


リーチェ「上の階にはNo.Z503がいたはずですが・・・」


紗那「え、洋一君・・・1人、倒したの?」


洋一「谷垣・・・俺、もう1つお前に謝らなきゃいけねーことがあるんだ」


紗那「もう1つ・・・?」


洋一「悪ぃ。俺と戦ってた相手・・・」



話しながら、彼は紗那を抱き上げる。(俗に言うお姫様抱っこ)

そしてそのまま上の踊場へと移動するのと同時に、自分達がいた場所へまた1人上から下りて来た。


その人物は・・・



ゼロ「逃がしません」



洋一「連れて来ちまったんだ」



アハハ、と彼は困ったような笑みをこぼす。



紗那「Σえぇ!?」


洋一「アンドロイドってホント厄介だよなー。アハハハ」


紗那「笑い事じゃないよ、洋一君!現実逃避!?」


リーチェ「No.Z503、〈災厄を齎すもの〉はどうでしたか?」


ゼロ「屋上はまだですが・・・3階と4階には存在しませんでした。そちらは?」


リーチェ「1つ、見付けました」



そう言って、石のように輝きを失った1つの神器・・・勾玉のブレスレットをゼロに見せた。



紗那「ΣΣえ、ウソ!?見付けてたの!?」


洋一「よーし!じゃあ目的地は決まったな」


紗那「へ?」


ゼロ・リーチェ「「?」」


洋一「屋上だ!!」



紗那を担いだまま、彼は階段を駆け上がって行く。

敵を一掃しろ、と命令を受けているリーチェとゼロはその後を追う。




こうして、この4人の戦いの場所はまだ調べていない屋上になった。






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