Ver.黒曜・リング編

□Yellow Moon
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未来「それとも、2人で俺の相手をしてくれんのか?」



小首を傾げてそんなことを尋ねてくる彼女に海斗はため息を吐き、翡翠は苦笑した。

今までの殺伐とした雰囲気が吹き飛ばされている。



翡翠「君は不思議だね。今の空気に気にせず入って来るなんて」


未来「KYだってか?KYなのは洋一だぞ。俺は敢えて空気読まない、AKYだ」


海斗「そっちの方がタチが悪いですよ・・・」



彼女の乱入で、海斗も翡翠も毒気を完全に抜かれていた。

狙って彼女がそうしたのか、たまたまなのか・・・それは彼女にしか分からない。


黒い宝石のペンダントをブンブン振り回す彼女は翡翠の服を見る。

穴がたくさん開いたり、破れたり、血がたくさんついているその服。だけどケガらしいケガはしていない。



彼女は何かを納得したような顔になり、ポツリと言葉をこぼす。



未来「〈不老不死〉・・・正に〈翡翠〉の名に相応しいの」


翡翠「!!」


海斗「・・・?」


翡翠「もしかしたら・・・君はここで殺した方がいいのかもしれないね」


未来「右腕はやっても命まではやらねぇよ」



べー、と彼女は舌を出す。


右腕、というのは以前翡翠に折られ、今もくっついていない腕のことだ。



未来「それに、お前じゃ俺に勝てねぇからな」


翡翠「どこから湧いてくるのその自信?(苦笑」


未来「〈瑪瑙〉、だっけ?そいつのとこに行っても同じだ。

お前も瑪瑙って奴も、あの2人にゃ敵わねぇ」



それだけ言って、彼女は去って行く。

ペンダントを振り回しながら、闇に消えてまた違う場所へと歩いて行く。



海斗・翡翠「「(あの2人・・・?)」」











   ◇  ◇  ◇













瑪瑙「お前は出てくるべきじゃなかったな」



4階の廊下で、リンと智の2人と対峙している瑪瑙は言う。



智「どうして?」


瑪瑙「出てこなければ、まだ生きていられた」


智「そうかな?俺は逆だと思うけど・・・」


瑪瑙「何?」


智「俺がこの戦いに加わらなかったら、君はまだ生きていられた」


リン「いや、それはないな」


智「?」



グチャグチャになった左腕を意地で動かし、右肩から新しい刀を出すリンが言う。

彼は床に刀を突き刺し、言葉を続けた。



リン「お前が出て来なくても、俺はこいつを〈脱落〉させてた。生かすことはない」


智「君が考えてたやり方はどっちも時間がかかると思うけど・・・」


リン「先にお前を片付けようか?」


瑪瑙「フンッ、死にぞこないが2人揃ったぐらいで何が出来る」



彼がそう言うと、また小さな爆発が2人を襲う。

リンは智の服の首元を引っ張り、後ろに退いてその爆発を避ける。



智「く、首がっ・・・」


リン「助けてやっただけいいだろ」


智「自分は俺に礼も言わなかったくせに・・・」


リン「うっ・・・(汗」


智「まぁいいけど・・・。それより、あいつの半径3メートル以内には入らない方がいいよ」


瑪瑙「!」


リン「は?」


智「いくら〈天然物〉でも、そんな爆発がどこでも起こせるわけじゃない。

もしどこでも起こせるなら、とっくにこの廊下一帯を爆発させて、俺達を〈脱落〉させてるはずでしょ?」


リン「(言われてみれば・・・)」


智「俺がやられそうになった時も、あいつはわざわざ近付いて来た。それは近付かなきゃ爆発出来ない証拠。

そして、あいつに近付けば近付くだけ爆発も大きくなる。君もそれを体で経験したんじゃないの?」


リン「!」
リン「(そうか、だからあの時・・・)」


瑪瑙「それがどうした。近付かずに俺を倒す方法がお前達にはあるのか?」


智「俺は戦闘向きじゃないから君を倒したりすることは出来ないけど、」


リン「俺なら出来る。凄く呆気ないやり方で悪いけどな」


瑪瑙「何を言って、・・・?」



言葉を続けようとして、彼はある異変に気付いた。

月明かりに照らされれば、横の壁や床に自分の影が自然と映る。自分や智の影もちゃんと映っている。



だが、



瑪瑙「お前・・・」



目の前にいるリンだけ、その自分の影を持っていなかった。

彼はニヤリと笑って、瑪瑙に言う。



リン「―――もう遅い」



その瞬間、瑪瑙の背中から鮮血が飛び散る。

攻撃を受けた感覚はしなかった。急に痛みがきたかと思うと、血が噴き出したのだ。


後ろを見ても、誰もいない。

目の前のリンを見て、何をした、と目で訴えかければ、彼は左を指差す。


左、つまり瑪瑙の右横にある教室のドアを・・・



瑪瑙「なっ・・・!?」



そのドアを見て、彼は驚きに目を見開く。


何故ならそこには・・・



瑪瑙「何だ・・・!何なんだ、この影は・・・・!?」



膝をついている自分と同じ影のことではない。


その自分の影の後ろにいる、刀を持った誰かの影に瑪瑙は驚いていたのだ。



智「シャドウエンペラー・・・。この須王リンが、影の皇帝と呼ばれる所以だよ」


リン「あんまりこの〈能力〉は好きじゃないんだけどな・・・」


智「その〈能力〉、制約も多いし大変だね」


瑪瑙「そうか・・・。この影はお前の、」


リン「正解。影と体は一心同体。影に攻撃すればその本人もケガをする」


瑪瑙「(さっき出した刀は自分が使うためじゃなく影に使わせるために・・・!)」


リン「影を攻撃出来るのは同じ影だけ。でも影を操れる〈能力〉を持つのは俺だけ。お前に勝ち目はない、諦めろ」


瑪瑙「ふざ、けるなっ・・・!」



そう叫び、立ち上がろうとする。

だが、どうやっても立ち上がれない。力を入れても立ち上がれなかった。



瑪瑙「!?」


リン「言っただろ?影を操れるのは俺だけだって」


瑪瑙「ま、まさか・・・」


リン「そのまさかだ。俺はお前の影も操れる」



ドアに映った瑪瑙の影は動かない。

まるで、断頭台に上った囚人のように・・・。後ろのリンの影という処刑人が、自分の首を切り落とすのを待っているかのようだった。


リンの影が、持っている刀を振り上げる。



瑪瑙「!待て!!」



制止の声も虚しく、リンの影は瑪瑙の影を斬りつけた―――







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