Ver.黒曜・リング編

□Yellow Moon
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リン「て・・・―――天眼(てんげん)?」



月の光に照らし出されている彼、〈脱落〉したはずの咲野智を見てリンも瑪瑙も驚きに目を見開いていた。


リンは掠れる声で何とか彼の通り名を口にする。

呼ばれた智は不快そうに口を尖らせて言った。



智「いい加減、その名前で呼ばないでよ」


リン「そっ・・・それはこっちのセリフだ!お前だってさっき俺のことをあの名前で呼んだだろ!

しかも、急に現れて何だ!手を加えたとか、何とか・・・。そんなこと言われて思考が追い付くか!!」


智「別にそんなに驚くようなことじゃないと思うんだけど・・・」


瑪瑙「バカな・・・。確かにお前は、」


智「〈脱落〉した、って?ロクに確認もしないで勝手にそんなこと決めつけてほしくないね」


瑪瑙「何だと・・・?」


智「君、あの後俺の水晶を持ってったよね。どうしてそこで、その水晶が・・・」



彼は右手を大きく広げる。

すると、その手の中から・・・



智「俺の〈能力〉で出したものだって気付かなかったの?」



その手の中から出て来たのは、彼がいつも持っている蒼い水晶だった。



瑪瑙「!!」


智「〈参加者〉が〈脱落〉すれば、〈能力〉の効果も消える。〈参加者〉なら誰でも知ってることだよね?」


リン「うわぁ、相変わらず似非だな・・・」


智「似非じゃないよ!俺はミステリアスな占い師!」


リン「あー、はいはい、分かった分かった(棒読み」


瑪瑙「・・・だが、あの爆発の中、どうやって生き残った。俺の〈能力〉をどう防いだって言うんだ」


智「まぁ、あの時は本当に危なかったね。俺も〈脱落〉するかと思ったよ。

―――彼女が来るまでは」


リン「!」
リン「(未来のことか・・・?)」


智「そのおかげで、混沌の渦に俺も飲み込まれちゃったよ」



片手で弄んでいた水晶を月の光にかざしながら、彼はそんなことを呟く。

そして軽く失笑して、また言葉を続けた。



智「やっぱり嵐の日に、海を見に行くものじゃないね」











   ◇  ◇  ◇












瑠璃「その左足だけ・・・生身、だよね?」



暗闇になっていても、彼女が騒ぐことはなかった。

ただ、自分の疑問を確かめようと目の前にいるイーラに問いかける。


右腕も左腕も右足もアンドロイドのような鋼鉄なのに、左足だけが違うイーラ・・・。

問われた彼女は淡々と事実を述べた。



イーラ「〈アンドロイドではない〉、という先程の問いかけに対する答えは肯定。今の問いかけに対する答えも肯定」


瑠璃「でも、腕や右足は・・・」


イーラ「私は俗に言う〈サイボーグ〉」


瑠璃「サ、サイボーグ・・・?」
瑠璃「(それってアンドロイドとどう違うの・・・?)」



※アンドロイド=人間そっくりのロボット

サイボーグ=異常な環境への順応などのため、動物、特に人間の生体機能の重要な部分を電子機器などに代行させたもの。



瑠璃「何でそんな体に・・・?他のディスペラーレの人達にやられたの?」


イーラ「答える義務はない」


瑠璃「義務って・・・まだ小学生ぐらいなのに、何でこんなことしてるの?

そうまでして、〈災厄を齎すもの〉を手に入れようとする理由は何なのさ!」


イーラ「言ったところで、お前達は理解しない。絶対に!」



感情を露わにし、瑠璃に右拳で殴り掛かる。

だが・・・



  ヒュ――ン!



鋭い風切り音と共に、その鋼鉄で出来た右腕がバキッと音を立てて床に落ちた。

否、正確には―――断ち切られた。



瑠璃「うん・・・きっと理解出来ないと思う」



大鎌をイーラに向け、悲しい顔をして彼女は言う。

今、イーラの鋼鉄の右腕を断ち切ったのはこの大鎌だろう。



瑠璃「そんな体になってまで・・・マフィアを殲滅するなんて、理解出来ない。

お前の過去に、何があったのかは知らない。知らないけど、うちはこう言い切れるよ。






――お前がやってることは間違ってる、って・・・」





イーラ「っ!私と同じ立場だったら、皆絶対に同じことをする!」



今まで冷静だった彼女が、怒りの感情を露わにする。

それでも・・・そんな彼女を見ても、瑠璃は悲しい顔をしたまま首を横に振るだけだった。



瑠璃「しないよ、絶対」


イーラ「する!目の前に希望があったら、誰でも縋る!それが人間!」


瑠璃「その希望が・・・〈災厄を齎すもの〉?」


イーラ「そうだ」


瑠璃「・・・うん、やっぱりお前間違ってる。〈災厄を齎すもの〉だけが希望じゃないよ。希望は、探せばもっとある。

だから、一緒に探してあげる。お前にとっての希望を皆で探してあげる」



そう言って、彼女はイーラに向けていた大鎌を構え直す。

覚悟を決めたような、強い意志のこもった眼差しで目の前の少女を見つめながら、瑠璃は言った。



瑠璃「今のお前を止めて、ね・・・」











   ◇  ◇  ◇













海斗「ぐっ・・・」



2階の廊下で、彼は左腕を押さえながら呻く。

床や天井、窓、壁といった彼〈等〉の周りには凄まじい戦闘痕・・・


ソレはここで何があったのかをありありと物語っている。



翡翠「もう止めた方がいいよ、〈麒麟〉さん」



八節となった元九節鞭を引き摺りながら、緑の髪のその少年は海斗を見て言う。


疲弊し、ケガをしている海斗に比べ、翡翠は全くの無傷で今まで戦っていた、というのがウソであるかのように元気だった。

戦う前と違うのは、そんな翡翠の服が汚れていたり、破れていたりするところだけだろう。



翡翠「〈参加者〉の〈麒麟〉さんならまだしも、君じゃ相手にならないよ」


海斗「っ・・・あなたは―――化物ですか?」


翡翠「まさか。普通の非力な一般人だよ」



笑ってそう言って、彼は持っている元九節鞭を回す。


バリバリッと音を立てるその鎖の鞭で、彼は目の前にいる海斗に攻撃する。



海斗「っ、」



飛んできたソレを屈むことで避け、ついでに右手で元九節鞭を掴んで思いっきり引っ張った。

当然、それを扱っている翡翠も前に引っ張られるわけで・・・



翡翠「Σわわっ!?」



海斗は元九節鞭ごと翡翠を引っ張り、まともに防御も避けることも出来ない無防備な翡翠の腹をメイスではなくモーニングスターで打ち付ける。


モーニングスターの棘が肉に刺さる嫌な感触がしたが、海斗は構わずそのまま翡翠を力一杯吹き飛ばした。



ポタポタ・・・と、モーニングスターから翡翠の血が滴る。



体を棘で貫かれ、吹き飛ばされた翡翠は床に倒れている。その体から、真っ赤な血を流しながら・・・




だが・・・




翡翠「酷いことするな〜、も〜」




そんな呑気な声を上げながら、彼はケロリと起き上がった。


体にはモーニングスターで刺された傷があり、そこから今も血が止めどなく流れている。

しかし、それはみるみるうちに治り、ケガなど初めからしていなかったかのような綺麗な肌に戻った。



海斗「チッ・・・」



先程から、それの繰り返しだった。

いくら傷を負わせても、すぐに治っていく。



翡翠「治るけどケガする時は痛いんだからね」


海斗「へぇ、あなたにもそんな神経があるんですね」


翡翠「だから化物扱いしないでくれるかな〜」



起き上がり、元九節鞭を束ねていく。



翡翠「ね、そろそろ瑪瑙のところに行かせてくれない?勝ち目がないってことは分かったでしょ?」


海斗「まだ勝負はついてませんよ」


翡翠「ん〜・・・。君はもっと聡明だと思ってたけど、意外にそうじゃないのかな?」



そう言ってまた彼は元九節鞭を振り回し、バリバリッと音を立てる。


どちらが不利で、どちらが有利かなど考えるまでもない。



海斗は翡翠という化物をどうやって〈脱落〉させるか模索する。しかし、いい案は浮かばなかった。



海斗「(どうすれば・・・)」



翡翠は今にも元九節鞭で襲い掛かろうとしている。

彼がギュッとその鎖の鞭を握り締め、前に出ようとした瞬間―――



  カツ、カツ、カツ・・・



翡翠・海斗「「!」」



廊下の向こうから、足音が響く。


その足音の主は自分にとって敵か味方か、と考えて、2人は揃って携帯端末に視線を向ける。


どちらも自分の味方ではない、ということが分かった。

ならば相手の味方か・・・と考えて、海斗と翡翠は互いの顔を見た。



翡翠「その様子からして・・・」


海斗「違いますね」



どちらも、その足音の主は自分の敵でも味方でもないと判断した。


そんな人物は、たった1人しか存在しない。



翡翠「〈動く宝〉・・・とは、よく言ったものだね(苦笑」


海斗「―――未来さん・・・」



足音がピタリと止まる。

代わりに何かを振り回す、ブゥンブゥンという風切り音が聞こえてくる。


そして、



未来「おょ?ここは停戦?」



などと言う、呑気な彼女が窓から入ってくる月明かりに照らし出された。






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