Ver.黒曜・リング編

□雷の守護者戦
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――再び、とあるホテルの一室・・・


紗那「スゥー・・・スゥー・・・・」


瑠璃「ハァ・・・やっと静かになった」



うちの膝を枕にして眠る紗那の寝顔を見て、うちはホッと胸を撫で下ろす。


耳栓ってやっぱり効果あるんだね。

あれだけ叫べば、そりゃ疲れて眠くもなるよ。



紗那「スゥ・・・」


瑠璃「・・・・・・」



紗那の寝顔を見て、うちはその頭をそっと撫でる。

せめて夢だけは・・・幸せなものだといいね。




この現実も、




瑠璃「・・・夢、だったらいいのになぁ」



天井を見上げて、うちはそんなことを呟いてみる。

全部、夢・・・。


黒曜の事件が始まる前から、うちが見てる長い悪夢だったらいいのに・・・。

そしたら、



瑠璃「そしたら・・・未来やルッスーリアさんだって、」



心の中で思っていたことを口に出せば、自然とうちの目から涙が零れ落ちた。


夢だったらいいのに・・・これは夢じゃない。

どうして、こんな悲しい現実になっちゃうんだろ。どうして、こんな残酷な現実になっちゃうんだろ・・・



瑠璃「どうしてっ・・・」







「・・・泣いてんのか」






瑠璃「!」



聞こえてきたその声に、うちは慌てて涙を拭う。

だけどそれは、バッチリあの人に見られてたみたい。



XANXUS「やはりお前は暗殺部隊には向いてねぇ」


瑠璃「わ、分かってますよ、そんなことぐらい。っていうか、向いてたら逆にイヤですよ」



いつの間にか隊服に着替えてたボスはテーブルの上に置いてあった酒瓶を掴むと、グラスに入れずにそのままグビグビ飲み始める。

あれってテキーラだよね?何でこの人ジュースみたいにガブ呑み出来るの?



XANXUS「何でテメェはヴァリアーに入った」


瑠璃「・・・へ?」



ドカッ、って椅子に腰を下ろして聞いてくるボスに、うちは目を瞬かせる。


何でヴァリアーに入ったか・・・?

それは、



瑠璃「それはうちの意思じゃありませんよ。未来が勝手に・・・」


XANXUS「だがお前は断れたはずだ。入りたくねぇと、拒めたはずだ」


瑠璃「、」



確かにボスの言う通りだ。

うちは別に入りたくない、とは言ったけど・・・本気でイヤだ、とは一言も言わなかった。


どうして・・・?どうしてうちはそうしなかったの?

理由は簡単、



瑠璃「待ってるのが、イヤだったんですよ」


XANXUS「?」


瑠璃「未来達が頑張って修業してるのに、自分だけ呑気にしてるなんて・・・うちには出来なかったんです。

きっと、うちは・・・未来達と同じところに立ちたかったんでしょうね」



うちは、待てずに後を追って行くタイプだから。

先に進んで行く未来の背中を見て、居ても立っても居られずに追いかけて行っちゃうの。



瑠璃「だから・・・もどかしいんです。守護者じゃないから、リング争奪戦に参加出来ないっていうのは分かってるんです。

分かってるんですけど・・・ただ見てることしか出来ない自分が、凄くもどかしいんです」



そう言ってうちは拳をギュッと握り締める。


ヴァリアー側もツナ側もどっちも応援出来ずに、皆が傷付いていくのをただ黙って見てることしか出来ない・・・。


何か力になってあげたいけど、うちが力になれることなんて何もない・・・。



瑠璃「うちは・・・何なんでしょうね」



絞り出したその声は、凄く掠れてて・・・自分でも酷く情けないなって思った。


大体、ボスにこんなこと言ったって意味ないのに・・・。

こんなこと言われても、ボスは困るだけなのに。ううん、知るかって話なのに・・・







XANXUS「知るか」






ほら、やっぱり言われた。

どこまでも期待を裏切らない人だね、この人・・・(苦笑



XANXUS「お前自身が分からねぇのに、他の誰かが分かるとでも思ってんのか」


瑠璃「そうですよね・・・。甘えてますよね、うち」



本当に強い人っていうのは、自分のことでこんな風に悩んだり、迷いもしないんだろうなぁ・・・。


自分の進みたい道が、自分のやりたいことがちゃんと分かってて、振り返ることも立ち止まることもしないで突き進んでいくんだろうね。



未来みたいに・・・



XANXUS「いいか、ドカス。1度しか言わねぇからよく聞きやがれ」



わぁ、カスからドカスに昇格しちゃったよ。

いや、この場合は降格の方が正しいのかな・・・?



射抜くようにボスは真っ直ぐうちを見てくる。それに応えるように、うちも真っ直ぐボスを見る。

彼の紅い瞳と目が合えば、ボスは口を開く・・・



XANXUS「自分が何なのかはどうだっていい。1番重要なのは、









自分がどう在りてぇかだ





瑠璃「!」



ボスのその言葉が、うちの胸に突き刺さってゆっくり染み込んでいく。

あぁ・・・やっぱりこの人は強い人なんだね。


だから、スクアーロさん達がついていくんだ。

こーいうところに、スクアーロさん達は惹かれたんだろうなぁ・・・。



この人は、ツナとは違う優しさを持つ人なんだね・・・。



どう在りたいか・・・そんなこと、考えたこともなかった。



瑠璃「そう、ですね・・・。本当に、そうですね」



何故か震える声でそう言えば、また自然とうちの目から涙が零れ落ちた。

さっきの涙とは違う・・・温かい涙が頬を伝う。


寝てる紗那の顔に涙を落とさないように、ボスにこの涙を見られないようにうちは両手で顔を覆う。



XANXUS「もどかしいとか言ってやがったな」



数秒顔を覆ってたら、ボスのその言葉が耳に届く。

椅子から立ち上がったのか、足音も聞こえてくる。



XANXUS「ならお前にとっておきの任務をくれてやる」


瑠璃「にん、むっ・・・ですか?」



多分、今の顔は涙でボロボロだと思うから、顔を覆ったままうちは聞き返す。

こんな顔、絶対見せられないよ・・・



XANXUS「この争奪戦が終わるまで・・・―――もう2度と泣くんじゃねぇ」


瑠璃「!!」


XANXUS「弱音も吐くな。ヴァリアーに弱者はいらねぇんだ」



それは、つまり・・・うちに強く在れってことだよね。



XANXUS「出来るな?」


瑠璃「・・・っ、うちを・・・・誰、だと、思ってるん・・・ですかっ」



顔を覆っていた両手で涙を拭いながらうちは言う。


いつの間にかボスが目の前に来てたことに若干驚いたけど、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。

ちゃんと言わなきゃいけないことがある。



大きく深呼吸をした後、うちはボスの紅い瞳を真っ直ぐ見ながら言うの。


相変わらず、声は震えて変に上擦ったけど・・・力強く言ってやった。



瑠璃「うちはっ・・・ボンゴレ最強のっ・・・・どっ、独立暗殺部隊、ヴァリアーの・・・た、隊員、なんですよっ?

そんっ・・・なの、朝飯前っ!、ですよ!」



ついでにドンッ!って胸を叩いてアピールするんだけど、肺に直撃して一瞬息が出来なくなる。

で、その後は盛大に咽るし・・・


あぁ・・・しまらない、そして情けなさ過ぎでしょ、うち。

朝飯前とか言っといて、恥ずかしさでもう既に泣きそうだし・・・


ボスはどんな顔をしてうちを見てるんだろ、とか思って咳をしながらチラッと見たら・・・



XANXUS「ぶはっ!」



盛大に笑われてるし。


え、何この精神攻撃?そこはサラッと見て見ぬフリとかしてくれないわけ?

もしくは呆れるとか小馬鹿にするとか。そっちの方がだいぶマシなんだけど。


任務を言い渡されて早々、すぐに泣きたくなるなんてうちも思ってなかったよ。



ていうかこの人普通に笑うんだね。



瑠璃「ボス・・・いい加減笑うの止めてもらっていいですか。

地味に・・・っていうか、かなり恥ずかしいんで」


XANXUS「随分情けねぇ隊員がヴァリアー(うち)にいたもんだな」


瑠璃「うっ・・・(汗」



言い返せないだけに本当に泣きたくなるよ。

え、何この新種のイジメ?


っていうかあれなの?ボスはもしかしてうちをこーやって泣かせる気満々ってこと?


とか考えてたら、ボスが急に真剣な顔で・・・



XANXUS「その任務に失敗した時は、俺が直々にかっ消してやる」



そう言うもんだから、意外にそうでもなかったみたい。

うちにそれだけ言うと、ボスはスタスタ歩いて部屋から出て行く。


呆気にとられてたうちは扉が閉まった音でハッと我に返るの。


それで、閉まったばかりの扉に向かって大声で言う。今ならまだ届くよね。











   ◇  ◇  ◇











XANXUS「・・・・・・」



部屋から出た彼は、1人廊下を歩く。

その先にあるエレベーターに向かって、歩を進める。


と、そんな彼の後ろ・・・否、彼がついさっき出て来た部屋から大きな声が届く。



瑠璃の声「絶対、ぜーったい失敗なんてしませんからーーー!!!」



彼はその声に振り返ることもしなければ、立ち止まることもしない。


歩く、ただ歩く・・・。



しかし、そんな彼の顔には微かな笑みが浮かんでいた。



XANXUS「ハッ、カスが」



歩く、彼はただ歩く・・・。


目的地である、並中の屋上に向かって・・・








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