Ver.黒曜・リング編

□雷の守護者戦
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ザーザーと雨が降りしきる竹林の中、2人の少年は傘もささずに立っていた。



リン「昨日はやっぱり、ルッスーリアが負けたんだろ?」


海斗「ええ。あなたは・・・知っているから来なかったんですか?」


リン「そうでもなければそうでもある」


海斗「どっちですか(呆」



彼、海斗は朝と昼はリンに体術の修行を、夕方と夜(争奪戦が始まるまで)はマーモンに幻覚の修行をつけてもらっていた。


だから今日もこの竹林の中へやって来たのだが、修行をつけてくれるリンはやる気がないのか、さっきから竹に背を預けたまま全く動こうとしない。



海斗「そろそろ始めてもらってもいいですか」


リン「気分が乗らない」


海斗「どうしたんですか、いつものあなたらしくありませんね」


リン「俺だって変な〈能力〉を持ってるけど結局は人間だからね。人間らしく悩むこともあるよ」


海斗「・・・何を悩んでいるんですか」


リン「教えない(笑」


海斗「、(イラッ」



リンは分厚い雲に覆われた空を見る。


大粒の雨が顔を打ち付けるのも気にせず、じっと空を見上げ続ける。

海斗には何故か、その彼の姿が泣いているように見えた。



リン「〈アノ日〉もこんな雨の日だった・・・(ボソッ」


海斗「?」



小さく呟かれたリンの言葉は、雨にかき消されて聞こえなかった。



リン「雨は嫌いだ・・・」


海斗「やる気がないのなら今日はもういいです。僕は帰りますから」


リン「んー」


海斗「風邪をひかれると明日や明後日の修行が出来ないので、あなたも早く帰ってください」


リン「んー」


海斗「・・・・・・」




  ブチッ




海斗「あぁ、もうっ!何なんですか、あなたはさっきから!!」


リン「んー」


海斗「咲野さんがあの瑪瑙、とかいう〈参加者〉に倒されたからですか!?」


リン「、(ピクッ」


海斗「だったら尚更、そんな風に沈んでいる場合じゃないでしょう!」


リン「・・・そんなんじゃないよ。それで悩んでるんじゃない。

こう言っちゃ悪いけど・・・〈天眼(てんげん)〉が、咲野が脱落したことはどうでもいいんだ」


海斗「なら、どうしてあなたは・・・」











「どうしてあなたは、あれ程怒っていたんですか?」








海斗・リン「「!!」」



突然聞こえてきた声に、2人は一斉にその声がした方を向く。

そこにいたのは、一昨日の晩に出会った紫の髪の少年・・・



リン「ディスペラーレが何の用かな。確か戦いは2日後のはずだけど・・・」


海斗「闇討ちですか?」


少年「今私はディスペラーレに関係なく、ただの私情で動いています。・・・いえ、私に私情という感情はありません。

ですのでこの場合、自分のデータを埋める為に動いている・・・と言った方が正しいでしょう」


リン「おかしな奴が来たもんだね」


海斗「何のデータですか?」


少年「それは先程説明しました。〈どうしてあなたは、あれ程怒っていたんですか?〉と・・・」


リン「それは、一昨日の晩のことを言ってるのかな?」


少年「肯定します。あなたのあの怒りという感情は、私にはよく理解出来ませんでした。

瑪瑙に対してだけでなく、どうしてあなたは自分自身に怒りを覚えていたんですか?合理的な回答を望みます」


リン「敵であるお前に、どうしてそんなことを言わなきゃいけないんだ?」


少年「ディスペラーレに関係なく動いています、と私は先程の言葉を繰り返します」


海斗「だから今は敵ではないと?」


少年「肯定します」


リン「言いたくない、って俺が言ったら?」


少年「何故言いたくないのか私は問いかけます」


リン「面倒臭い奴だな・・・(呆&苦笑」



毒気を抜かれ、やれやれとため息を吐く。

紫の髪の少年は相変わらずの無表情無感情無機質で、リンの回答を黙って待っていた。



リン「海斗には言ったと思うけど、〈天眼(てんげん)〉・・・咲野は俺の〈元〉チームメイトのチームメイトだ。


だから・・・〈元〉チームメイトの新しく出来たチームメイトを〈脱落〉させてしまった自分が許せない。


俺はまた・・・アイツから奪ってしまった。大切なチームメイトを」



海斗「・・・そんなに、大切な人なんですね。その〈元〉チームメイトの人は」


リン「当たり前だ。俺が命を懸けて守りたいと思った〈チーム〉だぞ」



少年「その回答は理解出来ません。チームメイトや脱落についても意味がよく分かりません。

ですが、その人が倒されたのはあなたの責任ではないでしょう、と私は率直な感想を述べます。


それはあなたが怒る理由にはなりません。間接的にあなたがその人を倒したわけでもないでしょう。

その人があなたのせいだと言ったわけでもありません。なのに、何故?」



リン「理屈じゃないんだよ。人の感情っていうのは、理屈じゃない」


少年「感情・・・ですか。ならば私は、一生その回答は理解出来ないでしょうね。

人間というものは全く不合理な生き物です」


海斗「まるで自分が人間ではない、とでも言うようですね」












少年「その通りですよ」












海斗「え・・・?」
リン「何だと・・・?」



少年「私は人間ではありません。俗に言うアンドロイドです」








・・・・・・。








リン「ごめん、どこからつっこめばいい?」


海斗「アンドロイドなんて急に言われても・・・」


少年「信じられませんか?なら、こうしましょう」



自分の左腕の皮に右手の指を食い込ませる。

そして一気に・・・



  ベリッ!



海斗・リン「「!?」」



一気に、その皮を剥がした。

皮を剥いだ腕は普通なら肉が見えるはず・・・だが、彼の左腕に見えたのは銀色の鋼鉄だった。



少年「この皮は合成樹脂で作られたものです。これで信じてもらえましたか?」


リン「まぁ、本当だってことは分かったけど・・・。自分がアンドロイドだって、俺達に言ってもよかったのか?」


少年「?これを言ったところで、我々の勝率は変わりません」


リン「さいですか・・・」


少年「それでは、私はこれで失礼します」



剥がした皮をポケットにしまい、来た道を戻ろうとする。

だが、その背に海斗が声をかける。



海斗「待ってください」


少年「何か?」


海斗「そちらの質問にリンさんが答えたんです。次はこちらの質問にあなたが答える番ですよ」


少年「それは道理に適っています。何でしょう」


海斗「あなた達ディスペラーレは〈災厄を齎すもの〉を手に入れて、一体何をするつもりなんですか?」


少年「一人一人目的は違います。私の場合は、インプットされた命令に従うだけなので目的は存在しません。

私や翡翠、瑪瑙を除くディスペラーレメンバーの唯一共通する目的は〈マフィアを全て殲滅すること〉です」


海斗「(六道骸さん達と同じ・・・)」
リン「(骸達と同じか・・・)」


少年「質問は以上ですね」


リン「いや、最後にこれだけ聞かせてくれ」


少年「私が答えられるものであれば」


リン「お前の名前は?」



その問いに、紫の少年は人間のように首を傾げる仕草をする。

なるべく人間らしく見せようとしているのかもしれないが、彼のその仕草はリンや海斗といった本物の人間からすると、かなりぎこちないものだった。


紫の彼はその仕草をしたまま、また無表情無感情無機質に言う。



少年「私、というものを一言で表す普通名詞は、アンドロイド。固有名詞は存在しません」


リン「じゃあ他のディスペラーレから、お前は何て呼ばれてるんだ?」


少年「No.Z503・・・もしくは503ですね」


海斗「名前というより・・・製造番号みたいですね」


リン「う〜ん・・・







じゃあ〈ゼロ〉って名前にしよう!」





少年「え・・・?」


海斗「名前にしようって・・・(呆」


リン「それなら困らないし、忘れないからな」


少年「ゼロ・・・ですか。分かりました、データにインプットしておきます。

それでは、今度こそこれで失礼します」



それだけ言って、彼は来た道を戻って行く。

彼が見えなくなると、海斗は傍にいるリンを見て言う。



海斗「よかったんですか?」


リン「何が?」


海斗「ディスペラーレの連中は、全員ボコボコにする・・・と以前言っていたでしょう」


リン「・・・屁理屈になるかもしれないけど、話を聞く限りじゃあいつは自分の意思で未来を襲ってたわけじゃない、ってことだろ?

だったら悪いのはその命令をあいつにインプットした奴だ。だから俺はあいつを倒しはするけど壊しはしない」


海斗「そうさせるのがディスペラーレの手だとすれば?」


リン「その時はどうにかするよ。・・・まぁ、こんなこと言ってるけど、もしもの時はあいつも壊すと思う。

俺は自分の〈目的〉の為なら、何でも犠牲にするよ」


海斗「・・・それは、未来さんも・・・・ということですか?」



彼がそう尋ねれば、リンは困ったように笑う。



リン「イヤなところを突くね」


海斗「どうなんですか」


リン「・・・それは、きっと出来ないだろうな」



再び空を見上げ、彼は言葉を続ける。



リン「〈目的〉の為なら仕方ないって割り切っても、体が動いてくれないと思う」


海斗「・・・・・・」







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