秘密を守れますか?

□Petrel(後編)
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ボタ、ボタ・・・


大量の血が神社の地面に流れ落ち、小さな血溜まりを作り上げる。




ほとんどの者がその光景に驚き、言葉をなくしていた。





そんな中、血を流す者の呻き声と、1人の少年の声が響き渡る。




リン「やらせない、って・・・言っただろ?」


冷静に、冷酷に言って、血のついた刀を一振りする。


少女「ぐうううぅぅぅっ!」



袖から取り出した黒い数珠を持っていた右手が、腕ごと斬り落とされていた。

銀髪の少女は、血が吹き出す肘から下の部分を左手で押さえる。




ケガをしたのは紗那ではない。血を流したのは紗那ではない。


紗那は白い大蛇に襲われる寸前、海斗が地面に押し倒して難を逃れていた。



洋一「お、おい、リン・・・何もそこまでしなくても。そいつは女だぞ?」



リン「うん、それが?」



洋一「それがって・・・」



リン「男も女も関係ないんだよ、俺達〈参加者〉にはね。

殺るか、殺られるか・・・ただそれだけだ」



洋一「そんなの・・・」



間違ってる、と思った。


だが、リンが彼女の腕を斬り落とさなければ、銀髪の少女は何度も数珠で白蛇を操って皆を襲うところだっただろう。



一方では否定している自分が、一方では肯定している自分がいるという事実に、洋一は歯噛みする。




その間にも行き場をなくした大蛇は、呪いによって無理矢理依代(よりしろ)にされた小さな未来の腕の中に戻っていく。




紗那「あ、ありがとう、篠原君」


海斗「いえ・・・。それより早く、呪いを解いてください」


希「きっと、あの数珠が・・・あの蛇を、動かす、道具・・・・だったんだろう、な」


瑠璃「今の内だよ、紗那!」


紗那「うん、任せて!」



手に持っていた十字架のペンダントを、改めて倒れている小さな未来にかざす。

すると、その十字架が光り輝いた。



神様に貰ったソレ。

最初から紗那が持つと決まっていたソレの力は・・・




どんな闇も退け、光へ導く




それはつまり、全てを浄化するということだ。



小さな未来「っ!」


体の中で大蛇がのたうち回るのが分かった。


紗那「出てって。






未来の体から出てってよ!!





彼女の言葉に反応するように、十字架の光が強くなる。


すると、彼女の左腕から先程の白い大蛇が狂ったように出て来た。


宙を進むその大蛇は灰のようにボロボロと崩れ、風になって消えていく。




  パキンッ!




少女「!」



十字架の光の影響か、血を吸わせていたビー玉が粉々に砕け散った。



小さな未来の左腕や、体中に回った黒い染みのようなものが消えていく。

同時に、彼女の体から煙のようなものが発せられた。



瑠璃・紗那「「未来!?」」



煙は小さな彼女をあっという間に包み込む。



斬り落とされた右腕を押さえていた銀髪の少女は、その煙を見て忌々しそうに顔を歪めた。




「っとに、めんどくせーったらありゃしねぇ・・・」




一同(少女以外)「!!」



煙の中から、明らかに幼い子供の声ではない声が聞こえてきた。


それは、聞き覚えのある、聞き慣れた声。

たった1日聞いていなかっただけで、その声は随分懐かしく聞こえた。





煙が風によって消えていく。

その煙の中にいる者の姿が露わになる。




しっかりと、地面に足をつけた先程の幼女よりも大きい体・・・


1つに結った長い髪・・・


左腕にたくさんつけられたブレスレット・・・


風でなびくセーラー服・・・




未来「俺にこのシリアス全開な空気をどぅしろと?」







―――この時代の風花未来が、姿を現した。







瑠璃・紗那・リン「「「未来!!!」」」
洋一・希「「風花!!」」
海斗「未来さん!」



未来「ぃよっ、お前等。随分待たせたな」



笑う、彼女は笑う。

いつも通り、余裕そうに笑う。



瑠璃「待たせたなって・・・こっちは大変だったんだからね!」


紗那「そうだよ〜!」


未来「あぁ、分かってる。






―――世話になったな」





瑠璃・紗那「「っ・・・」」



元気そうな彼女を見て、余裕そうな彼女を見て、いつも通りの頼もしい彼女を見て、目に熱いものが溜まるのが分かった。

心の枷が取れたように軽くなり、涙腺が緩む。


そんな彼女達を見て、呆れたように困ったように未来は笑みを浮かべる。そして、その笑みを不敵な笑みに変え・・・



未来「どうだ?今の俺、ソートーカッコいいだろ」


瑠璃「っうん・・・。惚れちゃいそうなぐらい」


紗那「未来のバカ〜!大好きだよ、も〜!!(泣」


未来「ハハハッ!さすが俺だな!」


海斗「っ・・・笑い事じゃありません!今の状況、ちゃんと分かっているんですか!」


未来「うんうん、分かってる、分かってる。このシリアス全開なムードをぶち壊したかっただけだから、んな怒んなって、海ちゃん。

説教なら後でいくらでも聞くからさ」


海斗「あなたって人は・・・」



未来は苦笑すると、改めて周りの皆を見る。



未来「(見たところ・・・ケガはしてねぇみてーだな。



よかった・・・・)」





少女「またかっ・・・!」


未来「?」


少女「またお前は私の前に立ちはだかるのかっ!!!」



大量の血を流しながら、銀髪の少女は大声で叫ぶ。


苦しげに、憎らしげに、忌々しげに、苛立たしげに、疎ましげに、恨めしげに、苦々しげに、腹立たしげに、呪わしげに・・・


目の前の未来に向かって。



未来「よぉ、クソババア。まーた皺が増えたんじゃねーか?(笑」


ケラケラと笑う。


未来「その腕・・・リンにやれたのか」


リン「小さい未来のピンチだったからね」


未来「そっか・・・。んじゃ、帰るとすっか」



他一同「は・・・?」



未来「今何時よ、これ?ゼッテー6時回ってんだろ。夕飯の時間だ、けーるぞ」


洋一「いやいやいや、ちょっと待てよ、風花!おかしいだろ、色々!」


未来「わしにフツーを求めないでおくれよ。俺にとっちゃおかしいことこそフツーだ!」



少女「待、て・・・っ!情けでも、かけたつもりっ!?」



未来「情けだァ?そんなもんお前にかける位ならご飯にかけるわ」


瑠璃・洋一「「それ銀魂!!」」


未来「ただのケンカに命なんか懸けてらんねーよ」



少女「ケンカ・・・ですって?ふざけないでっ!これは〈殺し合い〉よ!!」



未来「ほーか、ほーか。なら俺はこぅ言うよ。

お前にゃ〈殺し合い〉でも、俺にゃ〈ケンカ〉止まりなんだよ。そもそも、




―――お前程度、殺す価値もねぇ」





少女「!!」




「お前程度の人間、殺す価値もねぇよ」




〈彼女〉はそう言って、自分を〈脱落〉させずに生かした。

銀髪の少女にとって、それは屈辱だった。




〈彼女〉の目は、戦っている間1度たりとも自分を映さなかった。

最初から最後まで、一切相手にされていなかったのだ。


それが悔しくて悔しくてたまらなかった。






いつしかその気持ちが、少女の中でとてつもない復讐心に変わった。






今この時、同じ〈顔〉をした〈彼女〉に〈同じ〉ことを言われ、少女の中の〈ナニカ〉が音を立てて決壊した。








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