秘密を守れますか?
□Petrel(後編)
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小さな未来「(どぅしてかな・・・)」
口から血を吐き、地面に倒れる彼女は霞む視界に映る1人の少年の背中を見ていた。
彼の背を見て、彼女は思う。
小さな未来「(どぅして・・・海ちゃんが真っ先に来るんだろう。
真っ先に来るのは、〈アノ2人〉のはずなのに・・・。
どぅしてかな・・・)」
いくら考えても、答えは出てきてくれない。
だが彼女はこの時、何故か嬉しいと感じた。彼が真っ先に来てくれたことが、とても嬉しかった。
だから彼女は小さく、本当に小さく笑みを浮かべた。
「わざわざ来てくれてありがとう」と・・・
その笑みが見えていないはずなのに、その心の声は聞こえていないはずなのに、彼は力強く言った。
海斗「今度は僕が、あなたを守ります」
小さな未来「!」
意識なんて、もうほとんど保てないのに。体なんて、もう動かせないのに。
その声だけは、ハッキリと彼女の耳に届いた。
「助けて」、なんて一言も言っていないのに、状況なんて何一つ分かっていないはずなのに、彼は自分を「守る」と言ってくれた。
小さな未来「(どぅして・・・?)」
自分に価値を見出せない彼女には分からない。
〈大切な人〉だと言われたにもかかわらず、自分を守ってくれる理由が全く分からなかった。
小さな未来「(守らなくて、いいよ・・・)」
そう言おうとしても、声はいっこうに出てくれない。代わりに赤い液体が出るだけだ。
血を吐き出す音を聞いたからか、彼は初めて小さな未来を見る。
自分の血を見て、自分の体を見て、彼が驚いているのはきっと気のせいじゃないだろう。
少女「その子供はもう長くないぞ」
海斗「・・・何をしたんですか」
その声には、確かな殺気と怒りが混じっていた。
少女「なに、口が減らないから少し黙らせただけよ」
海斗「未来さんは〈参加者〉じゃありません。無防備な彼女を見て分かるでしょう」
少女「フンッ、そんなことぐらい最初から分かっていたわ」
海斗「なら何故・・・!」
そう聞くと、少し離れたところにいる少女はさも何でもないかのように答える。
少女「同じ〈顔〉だからに決まってるでしょう?」
〈参加者〉の未来と全く変わらない同じ人物だったから、だから呪いをかけた。
彼女の理由は単純明快で明確だった。
海斗「!それ、だけ・・・?それだけの理由でここまでしたんですか!?
この未来さんは何もしてないのに、それだけで呪いをかけたんですか!?」
少女「あなたにとっては〈それだけの理由〉でも、私にとっては〈それだけの理由〉じゃないのよ。
あなたには分からない、私が受けた屈辱を・・・。
だから、部外者は引っ込んでほしいわね」
小さな未来「・・・・・」
銀髪の少女と海斗の会話は、今の彼女にはほとんど聞こえていなかった。
ただ、海斗がとても怒っているということだけは分かった。しかし、自分の為に怒っているというのは分かっていない。
小さな未来「(僕が死ねば・・・海ちゃんは巻き込まれないのかな。
手紙通りじゃないけど、この時代の〈僕〉には悪いけど・・・)」
体なんて、もう動かせない。もう動いてくれない、なのに彼女はゆっくりと立ち上がった。
不思議と、立ち上がることが出来た。
体力なんてものはない。彼女は気力だけで立ち上がったのだ。
小さな未来「(巻き込みたくなんか、ないんだ。僕の為に傷付いてほしくなんか、ないんだ)」
それが、彼女を突き動かす決して折れることのない1本の芯だった。
立ち上がった彼女を見て、海斗と銀髪の少女が驚く。
小さな未来「(これで誰かを守れるなら・・・僕は何度だって立ち上がるよ)」
血反吐を吐いても、装備していた3つの武器を地面に落としても、それでも彼女は倒れない。
少女「大人しく寝ていればもう少し生きられたものを・・・。それ程自ら死を望むか」
海斗「未来さん!もう動かないでください!あの人は、僕が何とかしますから」
声は小さな未来に届かない。
彼女はゆっくりと、足を前に踏み出す。目の前の、銀髪の少女に向かって・・・
少女「いいわよ。そこまで死にたいなら、最期の最期まで苦しませて逝かせてあげる」
手の中にある〈モノ〉を強く握り締めようとする。しかし、その前に・・・
少女「!」
ブォンッ!という風切り音と共に、海斗がモーニングスターを振るってきた。
避けることが出来ないと分かった少女は、それを小太刀で受け止める。
海斗「させると思っているんですか?
その手に持っている何かを大人しくこちらに渡してください。見たところ、それで未来さんを苦しめているんでしょう」
少女「ナイト気取り?あの女に守る価値なんてあるのかしら」
海斗「あなたよりは十分ありますよ」
モーニングスターで、小太刀をギリギリと押していく。
さすがに片手では防ぎきれないと思ったのか、少女はもう片方の手の中に持っていた〈モノ〉を懐にしまい、代わりに札のようなものを取り出す。
そしてその札を小太刀の刃に素早く巻きつけた。
――バチッ!
海斗「!?」
札が巻きつけられた小太刀から凄まじい力が発せられ、弾き返される前に海斗は自分から身を引いた。
海斗「何ですか、それは」
少女「私の家は代々巫女の家系でね。生まれた時からそれなりの霊力を備えているの。
この意味、あなたには分かるかしら?」
海斗「・・・結界、ですか」
少女「そういうこと。あなたにはもう手出し出来ないわ」
海斗「っ・・・!」
少女「そこで指をくわえて、その女が死ぬ瞬間を見ているといい」
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