長編

□君しか見えない
2ページ/9ページ



寒い季節になると、毎日の様に見る夢がある。雪の中を一人ひたすら走っている夢だ。
これを見て起きた朝はいつも涙を流した跡がある。眠ったに関わらず、どっと疲れが溜まった様な気がする。

いつからだったか、突然その夢を見てからは、まるで映画の様な内容の夢を見るようになった。俺は別に歴史や忍者とかに興味は無かったのに。
それが自分の前世だと知ったのは、大学に入ってある人物に出会ってから。

大学二年生の冬。今日も冷たい風が吹いており、昼休みなのに中庭のベンチには誰も座っていない。
いつも一緒に食事をする友人と合流するべく、学食のいつもの場所に座る。もう来るであろう、友人二人の席も確保して。

「・・・留三郎」

次の講義の参考書を、しっかり読む訳でもなく適当にペラペラと捲っていると、後ろから声を掛けられた。

「長次。早く飯喰おうぜ・・ん?小平太は?」
「・・・そのうち来る。先にランチを取ってこよう」

長次と小平太とは、この大学で知り合った。知り合ったというか、知っていた人物に再会したというか。
俺と同じ様に記憶を持つ、昔の同窓であり今の俺の同級生。
ただ、小平太には記憶がない。これから戻るのかどうか分からないが、今の時代では二人は幼馴染みとして昔の様に仲が良かった。

「優しいな、長次は。小平太の分も取っておくのか」
「・・・食べたいランチが切れていた時のあいつは、後がめんどくさい」
「はは、そうだな」

席に戻り箸を取ったものの、いまいち食欲が出ない。空腹なのには違いないのに。その様子に長次が気付いたのだろう。

「・・・最近、顔色が良くない」
「ん?ああ・・・。また夢を見てな。なんか眠った気がしないんだ」
「例の走っている夢か」
「ああ」
「・・・捜してみたらどうだ?」
「え、伊作をか?」

長次は黙って頷く。急な提案に少々焦った。俺だってそう思った事はある。長次や小平太が居るのだ、伊作だって何処かで生きているかもしれない。
よし、と思った時にいつも頭を過る事。
伊作に会ってどうする?何を話す?君の事は嫌いだと言われたら?
負の思考がぐるぐる巡る。どうやって捜せばいいのか分からないという言い訳をして今日まで来た。

「・・・会いたいだろう、伊作に」
「ああ・・・本当は会いたい。ずっと」

今だって、俺は伊作の事を愛している。

黙りこくった俺に、長次が何か話そうとした様子だったが、それは賑やかな男の声に掻き消された。

「長次っ!ランチありがとなっ!さすがだ大好きだぞ長次〜!」
「・・・黙って早く食べろ。冷めるぞ」

うん、と素直に頷きながら座り、掻き込む様にして食べる。味は分かってんのか?

「何してたんだ小平太。遅かったな」
「ここの入り口で知り合いの女の子達に声を掛けられた」
「相変わらず交遊関係が広いな。その中に彼女はいないのか?」

そう言ってはっとし、長次の顔を見ると、無表情のまま黙々と食事をしていた。小平太は明るい性格で女の子にも優しく、友人も多い。

「彼女なんていない。私は長次といるのが良いんだ」
「女友達多いじゃねえか」
「友達はな。でも長い時間一緒に過ごすのは長次の隣が居心地良いんだ。長次を越える女の子がいたら付き合うけど」
「ふーん」

ちら、ともう一度長次の顔を見ると、やはり無表情で食べ続けていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ