白と青と、そして赤。

□モビーと共に
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日常はすぐに戻った。

この世界、いや海賊の世界になのか、喪に服すと言う風習がないのかもしれない。
みんないつものように笑い、当たり前のように生きている。

だからと言って、彼等の記憶からリアンダが居なくなったわけではない。
そして、この長い航海の中で、命を落としたのは彼女だけではないだろう。

出会いと別れの繰り返し。
人生も同じだ。
それが、モビーの中で日々起こる。

そう考えたら、

「海賊船すげーな」

と、ふと心に浮かんだ気持ち。
マストにへばり付き、モビーの偉大さに感動する。
パワースポットの御神木みたいだ。

そして、

『嬉しいな』

どこからとも無く、声。
しかも、聞こえたと言うより、感じた。

「え、骨伝導?」

辺りを見回しても、誰もいない。
もちろん、誰もいないから、バカな事をしていたわけで。

『抱きしめられたの、僕初めて』

二回目の声も、聞こえるのではなく感じた。
ああ、これはまさしく、

「モビー?」

『うん、僕はモビー・ディックだよ』

「・・・そっか」

『受け入れ、早いね』

「あ、うん」

まさかの突っ込み。
自分から話しかけといて、何なんだ。

そして、

『あのさ』

モビー自身も、私を受け入れた。
普通に話しかける気満々なようだった。

『ちょっと最近調子悪くてさ』

「・・・うん」

『なんか、関節ギシギシ言う感じ?』

「いや、関節ないでしょ!」

思わず、マストに裏拳で突っ込む。
痛いのは私の手だったが、仕方ない。

『冗談はさておき』

「冗談だったのかい!」

『調子悪いのは本当なんだ』

私の二度の突っ込みをスルーし、話を進めるモビー。
伊達に長い航海はしてはいない。

『さっきドツいて・・・抱きしめてくれたマスト』

「・・・・うん」

言い直したが、一々突っ込みまくっていたら、話は進まない。
聞くに徹していると、

『底のもっと下の、見えない所が虫に喰われてる。
次、衝撃あったら、根本から倒れるかも』

何か、凄い事を伝えてきた。

「虫・・・倒れるって?」

『うん、虫柱!
しかも、虫の呼吸じゃなくて、もう虫の息』

「・・・上手い事言ってるようだけど、笑えない」

膝をつき、言われた根本を見る。
やはり、そんな箇所は目には出来ない。
素人が分かるようなら、船大工が気付くだろうとも思った。

揺らしても、びくともしない。
それなのに、恐ろしい事を言ってくれる。

下から上。
そびえるマストを見上げた後、

「クラバウターマン出動!」

私は呪文を唱えた。
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