新撰組読み物
□紅梅
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斎藤と連れ立って暫く行くと、空が曇りだした。梅雨の晴れ間は雀の涙。帰るまでに雨が降らなければいいな、と沖田が空を仰ぐと前を歩いていた斎藤が立ち止まり、一瞬、沖田は斎藤ともつれそうになりながらも何とか踏み止まる。
「斎藤さん?」
斎藤が立ち止まったのは、四条木屋町の古道具屋。
「邪魔するぞ。」
さっさと暖簾を潜ってしまった斎藤の後を追い、沖田も店に入っていった。
「へぇ、何ぞお探しどっしゃろ?」
店の奥から現れたのは、顔に深い皺を刻んだ店主らしき初老の男。藍染の前掛けには、大きく「桝屋」と染め抜かれている。
「あぁ、妓に贈り物をしたいんだ。何かあるか。」
主人は、へぇへぇと店の奥に入っていった。
沖田は不満げに口を尖らせて斎藤の傍に寄り、小さな声で言う。
「妓の物を探すのに私を連れてきたんですか?」
斎藤には、桔梗屋の相生太夫という島原の贔屓が居る。一方、沖田は遊廓も酒も性に合わず、贔屓どころかキチンと遊んだ覚えすらない。
斎藤は横目で沖田をチラリと見て、口元に笑いを浮かべた。
「坊には見てもらいたいものがある。」
その時、桝屋の主人がうやうやと手の平大の長細い塗りの木箱を大切そうに抱えて戻ってきた。
「ほんならお侍様、珍しいかんざしは如何どっしゃろ?」
主人が箱を開くと、出てきたのは銀細工に鼈甲と珊瑚の飾りが付いたかんざしだった。
「ほぅ、これは美しい。」
塗り箱から斎藤がかんざしを取ると、珊瑚の紅が艶やかに煌めいて見えて、思わず沖田も斎藤の横から覗き込んで見た。
瞬間、斎藤の指先がつるりと滑り、珊瑚の鮮やかな紅が空で円を描く。
「あっ!!」
斎藤が思わず取り落としたかんざしに、沖田と主人の手が同時に出た。
おや?
沖田はあることに気付いて目を細める。
「いや、あいすまぬ。手元が狂ってしまった。」
「落とさなくてホントに良かった。」
かんざしを主人に返し、面目ない出直そう、と斎藤は沖田を連れて暖簾を出た。
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