新撰組読み物
□北斗星
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今すぐ腹切ってやるよ!と野村が雪の地べたに座り小刀を前に置いた所で、土方が一喝した。
「やめねぇか!お前等!」
土方は座り込んだ野村と春日の間に入り、俯く野村の頭に手を置く。
「せっかく生き残って、この北の地まで来たんだ。こんな所で命散らせるこたぁねぇだろ。」
「副長…。」
ゆっくりと春日を振り返る。
「春日くん、二人を返してはくれまいか?」
春日は、精悍な眉を釣り上げ野村を睨み付けたまま押し黙っている。土方は野村の背を叩いて立ち上がらせながら、言葉を続けた。
「彼らは、我らにとって大切な御方の、最期を届けてくれた仲間です。私は二人に戻ってほしい。」
その言葉に、野村は少し驚いた。
土方とは、こんなに熱く柔らかな人だっただろうか。京で鬼と呼ばれた彼とはまるで雰囲気が違っている。
思わず見上げた土方の横顔が、美しいほどはかなく消え入りそうで、野村は土方の上着の袖を強く握り込んだ。
「良きに計らっては貰えないか。」
春日は大きく息を付くと、土方に向き合った。
「解りました。野村は新選組へ。しかし、相馬は暫らくお預けいただきたい。彼らは陸軍隊の幹部です。一度に二人も抜けられるのは、こちらも困る。」
「ありがとうございます、春日陸軍隊長。」
土方が頭を下げると、春日が大いに慌てた。
「や…やめてください土方さん。箱館では私らは貴方の配下だ。」
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