新撰組読み物
□北斗星
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野村は、土方のラシャの上着に縋りついて願う。
「副長!俺を新選組に戻してください!そうだ、相馬。相馬も!」
野村が振り返る。飛び出してきた野村とは反対に、相馬主計は陸軍隊の一隊の前でじっとこちらを見つめていた。
「相馬…!」
懐かしい仲間の姿に溢れた涙を拭う事もせず、相馬は土方に聞こえるように声を張り上げた。
「近藤先生は敵陣に在られても臆する事無く、立派に最期を務められました!!」
土方は、思わず相馬に駆け寄った。
「近藤さんの最期を…」
「立ち会いました。」
相馬の切れ長の瞳が、潤んでまた一粒零れた。
自決を留めて投降を願ったあの日を、土方は痛く後悔していた。
必ず救うと心に決めたのに力及ばず、切腹も許されず屈辱の中で近藤は薨った。武士として惨めな最期としか思えずにいたのに、相馬が伝えたその姿は、立派に武士であった。
「浪々と漢詩を読まれ、全ては本望だと。敵の守衛にも見事だと言わしめたほど、立派であらせられました。」
「相馬……。長く煩わせたな。ご苦労だった。」
「ありがとう…ございます……!」
大久保大和の助命嘆願書を持って敵陣に届けるよう相馬に命じたのは、土方だった。労いの言葉を受け、相馬の仕事は漸く終わったのだ。
「君は、新選組であったな。相馬。」
言葉をかけたのは春日だった。
「戻りたいか、新選組に。」
相馬は、涙を拭い真直ぐ隊長を見据えて言う。
「戻りたいです。しかし、今私は陸軍隊の小隊長です。いずれは帰隊したいと思っていますが、時期に付いては隊長に委ねます。」
「うむ。相馬くんはやむ無し。しかし、野村は論外だ!」
春日は、土方の後ろにいる野村の首根を掴んで怒鳴り散らした。
「貴様は今までの軍規違反を含めて腹を切れ!」
「んだと!」
土方がポカンと見ていると、何故か相馬が小声で謝る。
「すいません…。どうも、似たもの同士でお互い気に入らないらしくて…。」
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