新撰組読み物

□桜雨
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 バタバタと急に廊下が騒がしくなり、巨体の島田魁が飛び込む様にして土方の部屋に現れた。

「……………副長……!」

土方は体を起こして島田を見上げる。島田は部屋の敷居も跨げずに、その場に膝を付き絞りだすように言った。

「近藤局長が……薨りました……。」

土方の背筋を、冷たい感情が下りていく。

「斬首の上、さらし首であったと……」

島田は悔しげに言葉を噛み締めた。その横にスッと音もなく、次の間に付かせていた小姓・玉置良蔵が座り、何も言わずに真直ぐ土方を見つめる。彼はもともと、近藤が気に入って傍から離さなかった少年だ。

俯き、乾いたままの自分の頬に触れてながら土方は小さく呟く。

「野村に、相馬は…。」
「………依然、行方は掴めていません。」

投降する近藤に付いて行った野村利三郎、助命嘆願の書簡を持たせた相馬主計、いずれも年若い隊士だ。
無事で帰ってくれればいいと、そして、叶うならば近藤勇の最期の姿を伝えて欲しいと心から願う。

「島田。明日より、新選組の全指揮は俺が取る。皆にそう伝えろ。」

はっ!と拳をついて、島田は部屋を下がっていった。入れ違いに現われたのは、会津からの間者であった事を自ら明かし、会津藩と共に会津を守ると土方に進言したばかりの、斎藤一だった。
斎藤は辻に立ったまま、真直ぐ土方に声をかけた。

「旦那。俺に『新選組』としての、最後の仕事をくれないか。」
「斎藤…。」
「局長の首は、江戸を出て京の三条河原に再び晒される。局長を、旦那に返したい。」

少しばかり暇をくれ、と斎藤は拳を付いて嘆願する。
土方はゆっくり立ち上がり、斎藤の肩を叩いた。

「局長を、頼む。」
「はっ!」

ざぁ、とまた一陣風が強く吹き、軒の桜が粉雪のように花弁を舞い上げる。




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