新撰組読み物

□紅梅
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 六月初めの湿り気を帯びた風が一陣、壬生寺の境内に吹き渡っていった。
京の梅雨風は何だか甘い匂いがする、と沖田総司がふと気を散らした途端、石段の影から男の子が沖田の足に飛び付いた。

「捕まえた!次は沖田はんが鬼やー!」

梅雨の最中に久しく現れた晴れ間が惜しいと、沖田は今、近所の子供達と鬼ごっこに興じている。

「しまった。これは油断しました。」

長身を少し折り曲げて、沖田はえへへと笑う。
そこに、下駄をカラカラと鳴らしながら珍しい顔が現れた。

「あぁ、おいでなさった。」

渋い着流しに、ちっとも変わらない飄々とした顔で壬生寺の石段を上がってきたのは、非番の斎藤一だった。

「おや、斎藤さん。人探しですか?」
「お前さんを探してたのさ。」
「私ですか?」

これは珍しい。斎藤一が自分に何の用事があるのだろう。

訝しげに瞬きをして見せると、まぁ一緒に来なさい、と斎藤は沖田を町へ連れ出した。




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