新撰組読み物

□春時雨
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 音もなく副長室の障子が開いて、局長がお呼びです、と相馬主計が呼びにきたのがつい先刻。
それほど待たせた訳ではないのだが、土方が局長室を訪れると、近藤は眉間に仰々しく皺を寄せて目を閉じ、腕を組んで座していた。

「内密に呼び出したぁいったい何でェ、近藤さん。」

わざと武州の訛りで話し掛けると、近藤はゆっくり瞳を開けて土方を見据える。

「最近、沖田と源さんが連れ立って、島原に通い詰めてると監察から話を聞いた。」

何か知らんか、とそう言う事らしい。

「心配なのかぃ?」
「そういう訳ではないが……」

解っている。近藤が沖田を弟のように思っているから故、沖田の身の回りが気になって仕方がないのだ。
しかし、奇しくも時代は乱世。年の頭に将軍様が二度目の上洛を果たしてからこっち、新選組も長州征伐に向けて斬り込みだ捕縛だと何かと危険で忙しい。沖田と源三郎の隊は先日大きな捕り物を終えたばかりで、乱れた世だからこそ女に逃げたいというのも、また男の性なのだと土方は思っていた。

「総司も二十を越えたんだ、いい妓の一人や二人…」
「いやな、それがどうもおかしいのだ。」

おかしい?

近藤の話によると、長州芸妓(長州浪人と好い仲になった廓女)が浪人を京に手引く疑いがある、と土方が島原に潜伏させ内情を見張らせていた監察方の山崎烝が偶然、とある揚屋の一室で沖田と源三郎を見たのだという。
それだけなら何の問題もないが、ただどうにも様子がおかしい。
せっかく上げた芸妓の芸や遊びには一切興味を示さず、何やら芸妓を囲んで少し話し、すぐに帰してしまうのだそうだ。
それを度々、しかも毎回違う芸妓でやっているのだという。

「揚屋に上げるって言やぁ、小天神以上の芸妓。総司は高い金払って上玉と世間話してるってのか?」

天神の揚代は太夫の半額とは言え、回数がかさめば馬鹿にならない。

そいつぁ、もったいねェ!

土方は思わず膝を叩いた。近藤はゴホンと咳払いを一つして、ゴツゴツとした角張った顔を土方に寄せ小声で言う。

「少し探ってみてはくれねェか、トシ。」

土方は、いいだろう、と小さく頷いてみせた。





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