新撰組読み物

□北斗星
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 蝦夷地の空気は凛と張り詰めて、旧幕軍最大戦艦を謡う開陽丸のタラップを降りた土方の鼻をツンと突くくらい冷たかった。
吐き出した吐息が、白く靄になり薄れて消えていく。

(ココが蝦夷地……。)

指揮官・榎本武揚はこの地に独立国家を創ると言った。土方達にとって、この蝦夷地はまさに最後の砦だ。

戦地を生き抜いた旧幕の軍隊が次々と戦艦から降り、港で人だかりを作っている。
土方は、傍らでソワソワと巨体を揺すって見知らぬ一面銀世界の土地を見渡している島田魁を振り返った。その後ろには百を越える新選組隊士。大半は桑名・唐津・備中松山藩からの預かり隊士で、藩主の地位を退いた主と供の箱館渡航に了解が出ず鬱積していたのを土方がひきとり連れてきた。
新選組に身を置きながら心は藩主にある。
それでいいと土方は思っていた。いっそ隊列から別行動で構わないと提案したいが、それでは何も変わらないと、榎本に怒られた。あくまで軍隊として統率せねばならない。

京では厳しい隊規で律せられていた新選組だが、今となっては脱走者を罰することも無くなっていた。
試衛館からの面子はすでに自分一人。京からの人間も数えるだけだ。

(かっちゃん)

声が聞きたい。自分が心底惚れた唯一の男だ。
ともすれば、後ろに下がってしまいそうになるこの魂を叱責して欲しい。





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