新撰組読み物

□斜陽
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「あいつらもぅ許せねェ!!」

 土方歳三の怒鳴り声が轟いて、新選組の屯所である西本願寺が俄かに揺れたような気がした。

「月真院の屯所ごと吹っ飛ばしてやる!大砲出せ!!」

市中見廻りから帰ってきた一番隊の先頭にいた沖田総司は、何事だ、と駆け足で西本願寺の門内に飛び込む。つられて、一番隊の隊士も次々と西本願寺に雪崩込んで、門の辺りは一瞬にして人だかりになった。

「野村!市村!何してやがる!大砲だ!!」
「ト……トシ!待て!」

局長室の障子戸が外れんばかりの勢いで開き、ドスドスと縁側を突き破りそうな足音を立てて土方が飛び出す。近藤が続いて追い掛けてくる。名指しにされた野村利三郎、市村鉄之助と何人かの隊士が土方を見て、慌てて武器蔵に走って行くのが見えた。

「おいおい、何事だ。」

永倉が外からバタバタと駆け寄ってきて、門前で立ちすくむ沖田に声を掛ける。

「何でしょう。私にも解らないんですけど、大砲だなんて随分物騒ですよ。」

 土方の怒りの火種は、新選組から離脱した伊東甲子太郎門下・御領衛士に間者として入った斎藤一からの密書だった。
 その内容が、藤堂平助が岐阜まで出向き、侠客・水野弥太郎の協力で二百人という農兵を組織しているというもので、水野はかつて新選組の御用達を努めた経を持つから、新選組は完全に出し抜かれた形になる。それが、土方の逆鱗に触れた。

「あのバカが!どこまで仇なす気だ!」
「トシ、落ち着け!今は動く時じゃねェ!」

土方の体を抱き込むようにして、近藤は土方を止めている。

道場から、目を丸くした原田左之助も顔を出した。

「会津と薩長が戦をおっ始めるんじゃねェかと張り詰めてるこの時期に、薩摩の加護を受けている御領衛士の屯所ぶち抜いてみろ、新選組が戦の火蓋になっちまう!」

その上、御領衛士は朝廷から菊の御紋を賜っている。菊の紋に砲撃したが最期、たちまち新選組は国賊に落ちる。

「冷静になれ!トシ!!」

その時、ゴロゴロゴロ…と重い武器蔵の扉がゆっくり開いて、四人の少年が、うんうん、と重たい大砲をなんとか押して出てきた。野村利三郎、市村鉄之助、田村銀之助、玉置良蔵、野村以外は両長世話役の十代前半の少年達。田村はまだ十二である。体の出来ていない少年達が押し進む大砲の速度は格段に遅い。

門前の沖田、永倉だけでなく、土方までもポカンとその少年達を見ていた。





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