新撰組読み物

□LOOSEな朝
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 朝から中庭がナニやら騒がしい。
いつもの事だが、総司と永倉君が近所の子供と遊んでいるらしい。



 きゃあきゃあと響く声に、土方は寝所の障子を開けた。途端に子供達の声が止まる。
それもそのはず。今や京中に新選組の名は知れ渡り、中でも「鬼の副長・土方歳三」は老若男女、道行きの犬猫すらも恐怖を抱く存在であったからだ。

「おはようございます、土方さん。今日は随分ゆっくりなんですね。」

ニコニコと総司が声をかけると土方は、寝起きの黒い着流しのまま廊下の辻から鋭い眼差しで総司と永倉、そして足元で固まる子供達を見渡した。
そして、一言も発せずムスリと踵を返し、また寝所の障子をパタンと閉めてしまった。

困った人だ、と総司は思う。

そこへ、うやうやと近藤が廊下を歩いてくるのが見えた。

「近藤さーん!おはようございます!」
「おう総司、朝から稽古か。感心だなぁ。」

近藤はわざわざ庭まで降りると、一人ずつ子供の頭を撫でていく。
この人は子供好きだ。と、いうよりも生来の兄貴肌で年若い人間の面倒を見るのが好きなのだ。

「土方さんも近藤さんくらい子供好きならなぁ…。」

ポツリと洩らした総司の言葉に、近藤が尋ねる。

「どうした?何かあったのか?」
「土方さん、子供達に一言も掛けずに寝所に戻っちゃったんですよぅ。」

子供嫌いなのかなぁ?と総司が首を傾げると近藤は、総司と永倉を忍ばせて、そっと土方の寝所の障子を薄く開けてみせた。

総司は驚いた。

「あぁ……土方さん……、布団に伏してジタバタしてる……。」
「見たか。」

近藤は俄かに腕を組んで頷いた。

「歳は、無類の子供好きだ!」

満足気に言い放ち、またうやうやと廊下を歩き去っていく近藤の背を見送って、薄く開いたままの土方の寝所の障子に総司は呆れたように呟いた。

「身悶えるくらい好きなのに、難儀な御方だ……。」

その横で、永倉が一つ吹き出した。



 空は日高に晴れ渡る、初夏の陽気なのでした。



☆コントのような新選組(笑)
意外に、土方氏が誰より人間臭くて愛おしいのです。

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