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□私のお父さん
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「身体に悪い」
ぽつりとあんたがそれを言った時、私はえも言われぬ違和感に襲われた。なんだこれ。あんた、そんな言葉使うんだ。そう思った。
あんたの拳には、愛が込められていると信じていた。両親の部屋と私の部屋。隔たれた薄い壁から聞こえる様々な声に混ざった。







その三文字が、私をどれだけ地獄に突き落としたか、あんたは知らないでしょう。イライラするのよ、あんたがそうやって気遣いを見せると。自分の身体以外にはなぁんも興味無いくせして、人前ではよく見られようと見栄を張る。そんなあんたにイライラするのよ。私だってあんたなんか嫌い。嫌い、嫌い。なのに、大嫌いになれない。だからイライラするのよ。


あんたの拳には、愛なんてこれっぽっちも込められていなかったと分かった。雨がざあざあ降る心の中で、笑顔をぺたぺた貼りつけた顔の奥で、びたびたと涙を落としている。


頭が痛い。

気持ちが悪い。

はぁ、イライラする。


あぁそうだ、お酒を飲んで煙草を吸おう。無理な飲み方と無理な吸い方をして、ぐらぐらになっちゃおう。そうして忘れてしまおう。


あんたになんか出会わなければよかった。あんたになんか、あんたになんか。



出会えて最高によかったって思うよ。そうじゃなきゃ、今頃こうして私は悲しみよりも恐ろしく、喜びよりも絶望的な、こんな混沌とした感情なんて、感じていないのだから。


そうしてそれが人と違っても、それ自体が私であることを、私は知らずに生きていただろうから。



幸せであることが幸せなわけじゃない。不幸であるからって幸せじゃないわけじゃない。自由であることが幸せなわけじゃない。
不自由であることが、生きる理由になるんだ。


それでも生きていこうって気持ちにさせてくれた、私のお父さん。

あんたが憎くて堪らなくて、殺したいとさえ願ったよ。だからこそ、こんなにも大切なのさ。

じゃあね。



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