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□棺の中の音楽
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【棺の中の音楽】

 そうろり。目を閉じれば、聞こえてくる。微かに歌う、柔い声。
 じいろり。目を開けば、聞こえなくなる。悲しく消えた、遠い声。

 私には不思議な感覚があった。周りに音楽など聞こえていないのに、私にだけ聞こえるのだ。幼いころは幾度も周囲の人間に尋ねたものだが、皆私の発言を最初は笑うものの、段々とその表情は引き攣り、私を気味悪がるようになったのだ。
 その音楽は、正確に言えば歌声であった。男とも女とも取れない、微かで柔い声。それは目を閉じれば聞こえてきて、目を開けば聞こえなくなる。それが不思議でならなかった。そして、私はその歌声が大嫌いだったのだ。私は一人、その声と戦いながら生きていると言うのに、周りはそれを理解しない。戸惑い、傷付き、傷つけて周りを突き放し、生きてきた。

 だからなのだろう。今こうして私は懺悔を歌っている。

 周りを埋める冷たく硬い土の奥、横たわる棺の、その中で。

 さようなら、さようなら。お父様、お母様。私はこうして、命が消え、土の奥で歌い続けています。命のあったあの頃に、私が毛嫌いした音であります。ごめんなさい、ごめんなさい。お父様、お母様、聞こえるでしょうか。


 私の歌声が、聞こえるでしょうか。




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