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□愛してるから
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 貴方はきっと、何でも許されるって思っているでしょう。その魔法の言葉さえ吐けば、何だっていいって思っているでしょう。

【愛してるから】

 私の世界は貴方だった。窓の向こう側に見える、広いあれは箱庭。私の世界は貴方だけだった。だから人が囁く「自由」という言葉は、理解の遠いものだった。本当はもっともっと人が欲するもので、それは人に砂糖をまぶすのに。私に降り注ぐ砂糖は、貴方だけだった。
 貴方が投げたものは、私の身体だけではなかった。大きな声を上げて、泣き叫ぶように切り裂いたのは、私の心だけではなかった。私が幸せに感じたのは、貴方の拳に愛がこもっていると思っていたから。でも身体はどんどんその愛を当たり前と思うようになってしまう。寂しさは悲しみに変わり、愛しさは憎しみに変わり、感覚は痛みに変わり、貴方は箱庭に変わってしまった。
 貴方という個人は不特定多数が求める自由に。貴方に向ける愛情は不特定多数が求める箱庭に。変わって消えてしまった。そうして私は一人ぼっちになった。
 一人でいることは寒い。貴方が傍にいない。体温を分け与えてくれた貴方が、傍にいない。一人でいることは寒い筈だった。それなのに。
 今では貴方が傍にいないだけで、こんなにも暖かい。心臓の温度が私を絡めて、愛を感じる。誰からも与えられることのない、愛。それは私の中で産まれて絡んで蕩けて消える。ホッとした。貴方がいないだけでこんなにも。
 もう、その拳にこめられた愛には騙されないから。だからもう、追いかけてこないで。もう無駄だから。
「俺はお前を愛してるから」
 貴方はきっと、何でも許されるって思っているでしょう。その魔法の言葉さえ吐けば、何だっていいって思っているでしょう。
「私は貴方を愛してたから」
 同じような響きを分け与えてあげる。人は暴力を愛とは思わないことを知らしめてあげる。胸に刻まれる鬱血痕も、背中に刻まれる爪痕も、キスしてよって吐きだす泥のような唇も、全て流れてゆく。私の中で、消えて消えていなくなる。貴方の愛の痕が消えてしまうことに、本能の底から力が抜けていく。
「何で気付かないんだ」
 私の所為にするのでしょう。私が泣いて謝れば、微笑みながら鋼鉄で私を殴るのよ。そうすれば貴方は満足する。そうして鼻の奥から息を滑り落とし、甘い声を漏らして精液を零す。私が喜んでいると思っていたの、きっとずっと、最初から。私は一度だって、思わなかったのに。貴方に刻まれる全てを、心地よいと感じた事はないのに。だって胸を揉む手は痛かったし、頬を撫でる指は怖かったし、打ちつけられる腰は、いつも優しくなかった。それらは全て欲望で、私のものではなかった。貴方のものだった。私は一度だって達したことはないのに。貴方は一人でぼろぼろと、号泣するように精液を零し続けた。それで私も喜んでいると思っていた。私の頬を伝う、私自身の涙を、自分の精液と同じものだと思っていたのよ。






 愛してるから、ですって。


 男は知らない。女は自分の家族しか愛せないということを。




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