Original

□否定
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 多分、思っているよりも世界は狭く、僕は弱くはない。


【否定】


 青く澄んだ空を見るのが嫌いで、誰かと仲良く話をするという行為がどうしても好きになれなかった。それでも無理して自分の世界を回して、青を眺めた。変わりない日常に、夢に見るまでの非日常が現れることはなくて、心がどんどん薄灰色に煤けていくのを、何処か遠くで見ている自分が居た。周りにびくつきながら、周りと同じ行動をしていた。それなりに友人と呼べる存在が居て、先生という存在が居て、彼女という存在も居た。
 しかし、それは突如現れた。転機、と呼んでもいいだろう。僕が初めて、彼女とベッドを共にした夜の話。女性特有とでも言うのだろうか。甘く響く様な声を出して、彼女は何度も僕を求めた。なのに、僕には、彼女に与えてあげられる物は何もなくて、妙な焦燥感に襲われた。あぁ、愛情って一体。
「うっ……」
「瞳?」
 声を上げたのは僕だった。彼女は不審そうに声を出して、眉を顰める。口許を抑えたまま、涙をこらえた。丸みを帯びた自分の身体が目に入って、それは限界点を超えたのだ。
「や、瞳っ!」
 彼女が心配そうに僕の背中を撫ぜた。それでも、僕は何もしてあげられない。妙な意地を張って、生きてきたと思う。男であらねばならない。涙が止まらなかった。彼女は僕に、身体も、感情も差し出すつもりでいたというのに、僕は、何一つ差し出すものは無い。
「ごめ……ね、ごめん、ね……」
 掠れる音を、どうしても本物に出来ない気がする。僕はどうやったって、なれない。男になんて、なれない。

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