天使と悪魔

□Wing6
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天使でありたいか。





悪魔になりたいか。






本当は共に人間に堕ちることができれば、と思うけど。

彼が私と一緒になってくれるとは思えない。
私の想いを受け入れてくれるとは思わない。

先は暗く、ため息を吐くのみだった。



「あれ、エステル?」



変声期の最中というような、高くもなく、また低くもない声。
聞き覚えのある、耳には微妙な違和感。



「やっぱりエステルは天使かー。となると…フレンも天使なんだろうね!
ユーりは絶対悪魔だろうなー」



人間の少年は、大剣をその背に背負い、成長期真っ只中のように背丈もそれなりにある。



「お久し振りです…カロル……」



そう、口からそうこぼれた。

私は彼と、今日、出会ったはずなのに。
どうして、「久し振り」と。



「なーんだ。エステル、覚えてるじゃん。
レイヴンってば嘘吐いたなー」



どうして、彼の名を。



浮かぶのは、今よりも幼い姿の彼。
明るく笑うその顔は、変わらない。


「レイヴンがね、エステルは僕たちのこと覚えてないって言ってたんだよ」



全然、変わっていない。



「エステルが治してくれたこのハルルの樹、今年も満開だよ」




見上げた大樹は桃色な花を咲かせ、風に吹かれている。ハラハラと散っていく花びらは少年の肩に落ちる。
安心感が込み上げるのは、どうして。私が、治した…?



「ねえエステル。今でもユーリのこと…好きなの?」



私の心臓が大きく波打つ。
鋭く突いてきた質問に息を飲んだ。

少年の無垢なる瞳は真っ直ぐ私を捕らえ、揺らがず、逃がさない。
息が止まりそうで、苦しい。助けて。タスケテ。
この想いは、あまりにも重い。



「そ、れは…」


「もういいよ。なんとなくわかった」



この子はここまで勘の鋭い子だったか。
彼も、成長したということか。
私の知る"今まで"がそこにはない。



「でなきゃ、あんなことしないよね。あんなの…誰も忘れられるわけ、ない」



陰りだす空に憂い顔。



ダメ。ソレイジョウハキイテハダメ。



ヒトノコノコトバニミミナトカスナ。




鳴り響く、警告音。





オモイダスナ、オモイダスナ。



オモイダシテハイケナイ。






「自殺なんてしないよね、ユーリの後を追って…さ」





――――――――エステル…エステルまで…どうして…?




少年の叫びが、聞こえる。









執筆 H26.04.05.土
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