天使と悪魔
□Wing5
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その日のエステルは、部屋の中にいた。
昨日の、リタとの出来事が彼女を悩ませた。
いつも、フレンが何か隠しているのはわかっていた。
それが、小さなことではないと気づいた。
生前の自分なんてエステルには知る術もなく。
ただ、自分の手で思い出すほか、ないのだ。
コンコンッ
「エステリーゼ様」
「はい、どうぞ」
「失礼します」
ドアノブを回し、扉を開いたのは先の騎士団長だった。
海色の瞳はまっすぐと私を映していた。
「ある天使の者から報告を受けました。エステリーゼ様が悪魔の娘と話していた、と」
「………………」
「エステリーゼ様、これが何を意味するかわかっておいでですか?」
「……………………」
「エステリーゼ様、」
「黙ってください!」
「っ!」
堪えられなかった。
「私がどうしようが自由じゃないですか!これは私の問題なんです!
禁忌だとか、そんなことは知りません!フレンはもう首突っ込まないでください!!」
「エステリーゼ様!!」
白い翼は宙を舞い、伸ばされた腕は何も掴むことなく、虚空に浮かぶ。
涙を堪えるのが、つらかった。
想いを否定されて、全てを否定され、
ユーリを否定され。
「はあ、はあ、」
無我夢中で降り立った下界の大樹を見上げれば、寂しく、ただ寒々と凍えていたのだった。