天使と悪魔
□Wing3
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「フレン…」
「どうかしましたか?エステリーゼ様」
ずっと目を通していた書類から顔をあげ、清澄な瞳がこちらを見つめる。
今までサラサラと動かされた羽ペンはインクの入ったビンへと沈む。
はたして、彼は答えをくれるのか。
「私、不思議な方にお会いしました」
「不思議な…方。どのように不思議な方でした?」
「天使なのに、人間に見えていたのです。彼女は…パティと名乗っていました」
「…っ」
彼がそっと息を飲んだ。
目を閉じて、その瞼の裏に何を映しているのかは謎だけど、
でも、彼の記憶の中に彼女がいるのはわかる。
「彼女は、私のことも…ユーリのことも、知っていました。
フレン、貴方は…何を知っているのですか?」
「………何も、何も思い出さなくていいです」
「どうしてです?」
「貴方は、何も知らなくていいんです。…失礼しました」
ガタンッと音をたてて椅子は後退して、彼に道を作って何も言わず、そのままだった。
自分だけが1人取り残されたこの部屋は静かで、殺風景に思えた。
自分だけしかいない世界。
私だけが仲間外れ。
――――――――会いたい。
この気持ちを聞いてほしかった。
この寂しさを、埋めてほしかった。
ドレスの裾を翻して、翼を羽ばたかせる。